その事件は
ごめんなさい。メインヒロインはまだ出てこないです。
02
線路沿いの道を歩いていく。
春休みでも社会人は休めないのだろう。
駅と反対方向に向かう僕たちとすれ違うスーツ姿の大人がたくさんいた。
そこそこ大きな病院が、僕の視界の隅っこに映る。
線路の方を見ると、車体に青い線が入った電車が昔ながらの駅舎に停まっている。
「ドアが閉まります。駆け込み乗車はお止めください。」
よく聞く駅員さんの声。
僕たちは黙って歩いていく。
歩道橋の階段を昇りきった場所。
錆び付いた手すりに身体を預け、僕はふと、空を見上げた。ひんやりとした風が頬に当たる。僕の表情は自然に緩んでいく。
ずっとこうしていたいなと思った。
少し坂を登った所に東葛支部はあった。
施設案内を見る。一階に受付。これは、どの施設でもそうなのだろう。だが、二階以降がおかしい。食堂や、資料展示室はまだわかるが、トレーニングジムってなんだ。それに、能力研究室。ここは本当に役所なのかを疑ってしまった。
渡辺さんは、受付嬢に軽く事情を説明し、個室を借りてきた様だ。
「横田君、こっちです。」
僕は黙って彼についていった。
カードキーを壁に取り付けられている機械に通し、関係者以外立入禁止の扉を開ける。
割と暗い廊下に繋がっていた。
入口から10メートルほど先に、エレベーターがあった。
僕たちはそれに乗り込み、最下層まで降りる。
そこは、とても広い迷路だった。設計者の頭を心配してしまうレベルで。不意打ちにテンションが上がってしまったが、残念ながら今回の目的は迷路の探索ではない。僕は諦めて彼についていく。
15分くらい歩いた頃だろうか。渡辺さんが立ち止まる。
「たしかここで、」
彼は両手で壁を押す。壁がずれ、奥に空間があることがわかる。
「こっちです。」
壁をずらして出来た空間に入る。
赤いカーペットが敷かれた空間だった。
僕が入った瞬間、壁につけられたキャンドルが一斉に火を灯す。
渡辺さんは僕の反応を見て微笑んだ。
そして、カーペットの上を歩いていく。
豪華なドアが見えてくる。まさかあの部屋じゃないよね、と思いつつ渡辺さんについていく。
「この部屋です。」
やっぱりこの部屋かと思い、少しがっかりした。
部屋に入る前のセキュリティチェックがやはりきつい。
虹彩認証の機械の覗きこむ。ここは渡辺さんだけでなく僕もする必要があるらしい。
「VIPルームです。面倒だから、普段使わないですね。」
彼は微笑みながら、ドアノブに手をかける。
「入って、いいんですか?」
「ええ、もちろん。」
座り心地の良さそうなソファーが二つ。
派手すぎない調度品。
「どっちに、座れば……?」
当然のごとく、マナーに詳しいはずがない。
「今回は、君が客人だからね。奥の席じゃないかな?」
そうして僕は、ギクシャクとしながら席についた。
渡辺さんは、僕が席につくのを確認してから、ドアを閉めた。
彼の顔からは、いつもの微笑は消えていた。
「じゃあ、今回の事件について、だね。」
お読み頂きありがとうございます。
基本的に奥のほうが上座らしいです。