噂と好奇心
01
バシャバシャと水飛沫のような音がした。
それが僕のはじめての敗走の音だった。
―――――――
「あの噂、知ってる?」
「例の事件の?」
「それそれ。あれ、ホントにあった話らしいよ。」
「えー、ヤバくね。だって、被害者はみんなチカラだけ消されて命に別状はないって話でしょ?」
ファミレスのボックス席から聞こえる声。そんな馬鹿な話があるかって思った。だって能力は解析することはできても、与えること、ましてや奪うことなんて出来るはずがない。因みに、僕の能力は、簡単に言うと必中+破壊というものだ。ランクは一応A。付けられた二つ名は「天才」。付けた奴の頭がおかしいとしか思えない。
話は戻るが、能力を「消す」という話。脳の特定の部分を破壊すれば可能らしい。ただ、それだと「命に別状はない」という部分に矛盾が起こる。
「横田くーん?横田光くーん?ちょっとこちらの話も聞いて欲しいんですね。」
目の前に座っているこの謎のスーツの男性は渡辺さんと言うらしい。本名かどうかは怪しいけど。
「で、何ですか? わざわざ僕を呼びつけて?」
「まずはお祝いですね。進級おめでとうございます。もう小学校六年生ですか。子どもの成長は早いですね。」
そう言いながら彼は数十枚の商品券を僕に押し付けてきた。
「…ありがとうございます。」
現金のほうがよかったなんて言えない。
「あの話が気になるんですか? 盗み聞きはお薦めしませんよ?」
「あれについて何か知っているんですか?」
思わず身を乗り出して大声で聞いてしまった。店内の視線が一斉にこちらを向き、どこか気まずい空気になってしまった。
「詳しい話は後でにしましょう。ここだと誰が聞いてるかわからないからですね。」
そうして何もなかったかのように店員に注文した。
僕はハンバーグとパンとドリンクバーのセット、渡辺さんはドリンクバーだけ。
「あの、食べないんですか?」
と僕が聞くと、
「一応、仕事中という訳ですね。」
とよくわからない返事をされた。
「お待たせいたしました。ハンバーグとパンでございます。ごゆっくりどうぞ~。」
デミグラスソースをハンバーグにかける。
肉の油とソースが混ざった部分が鉄板に触れた瞬間、ジュワーという音と共に美味しそうな香りが嗅覚を刺激する。
フォークとナイフを手に取った僕は、もう待ちきれないといわんばかりに、慣れないナイフの動きでハンバーグを切っていった。
そこまで多くない肉汁が溢れ出す。そして僕は、ハンバーグを口に運ぶ。
その様子を渡辺さんはコーヒーを飲みながら満足げに見ていた。
「何か頼めばよかったかな?」
と渡辺さんが呟いたのが聞こえた。いくら渡辺さんの奢りでもこれはあげられない。
最後に、残った肉汁とソースをパンにつけて食べる。
肉の旨みが染み込んだパン。
美味しくないはずがない。
そして最後に、ドリンクバーでオレンジ色の炭酸飲料とストローを取ってくる。
渡辺さんは、
「エスプレッソとアメリカンの違いがわからない内はまだ子どもですね。」
とか言いながら、十数杯目のコーヒーを飲んでいた。さすがに飲み過ぎだと思う。というか、カフェイン中毒を疑ってしまう。
「そろそろお会計でいいかな?」
「あっ、はい。」
彼は伝票をレジまで持っていき、よくわからない黒いカードで会計を済ませたようだ。
「さっきの話、会議室とカラオケルーム、どっちでするか選んでいいですよ?」
「?…じゃあ、会議室でお願いします。」
「それなら、支部まで歩いていこっか。」
「…わかりました。」
そうして僕たちは支部まで歩いて行った。
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