目的
行くとこないんだ。同じだね俺たち。
そう呟いた彼を俺は強く抱きしめることしか出来なかった。
その日は自分の全てを失った日だった、仕事、恋人、仲間、残されたのは払いきれないローンと少し残っている貯金だけ。こうなると人間は不思議なものだ、家を飛び出したくなる、何かをしていないと自分がどうかなってしまう気がするから。意味もなく目的なんてあるはずのない旅とも呼べない旅をする、北へ向かった、時々高速を降り、泣いたりもした。着いたのは日本本州の最北端、大間崎そこには何もなくコンクリートの壁に波だけが打ち付けている。今の俺と同じだ、そう思った。かなた遠くに見える船に乗ればまだ旅を続けられる気がして、船乗り場を探していた、車を走らせていると一人俯いている青年が目に飛び込んできた、最初見かけた時はなんとも思わなかったけど、その青年から少しずつ離れていく感覚がして、どうも落ち着かなかった、俺はどうかしてしまったのだうか、そう思っていても、俺は来た道を戻っていた、車を止めて声をかける、「こんなところで一人でなにしてるの」青年は俯いたままなにも喋らない、「この近くの人なの、だとしたら船乗り場を」そう声をかけた瞬間、「俺を助けて」掠れた声でけどどこか幼さのある声で、俺は深くは聞くことが出来ず、その青年を車に乗せた、少し時間が経てば何か変わる気がしていた。この季節のこの場所は本当に冷える、車内で暖房をつけた瞬間に窓が白く曇りだした、時々青年の顔を横目に見ながら、同じところをくるくる回っている、「お兄さん、こんなところで何してたの」青年が沈黙を破った、「あ、いや、東京で仕事してたんだけどクビになっちゃって、もう色々どうでもよくなっちゃてね」嘘をつく理由もなく、真実を話した、「お兄さんも大変なんだ」「君はどうしてあんな場所に?」「うん。言わなきゃ変だよね」「いや、言いたくないなら、無理しては聞かないよ」さっき会ったばかりで、名も知らない青年になんで気を使ってるんだらうと思いながらも、気を使うことは苦痛に感じない、「じゃあお兄さんのこともっと色々聞いてからにする」「え、俺のこと話すの」それからは俺への質問責めが続いた、最初はたわいもない話だったが、話してるうちに自分の身の上話なんかをしていたことに気づいた、さっき会ったばかりの青年に会社のことや、家族のこと、付き合っていた人に振られたことまで、全て話した、俺は他人にこんな話するつもりはなかったのに、話し出したら止まらなくなってしまった。それからどのくらい時間が経っているのかだろうか、外はもう暗闇、街灯はほぼなく星空が広がっているのみの空間、耳をすますと鳴り止まない波の音、車のエンジン音、そして青年の声、今自分がどんな感情なのか自分でもよく分からなくなっていた、「お兄さん本当に良い人でよかった、助けられちゃったな」「いい人だなんて、言われたの初めてだよ」「そういえばお兄さんの事ばっか聞いちゃって、自分のこと全然話して無かったね、お兄さんなら話せるかな」それからまたどのくらいの時間2人で話していたか分からない、けどその青年が、何度も親に捨てられていることや、学生時代に酷いいじめに遭っていたこと、よりも最後に「お兄さんとなら。。」この言葉が胸の奥から離れない、何度自分を痛めつけて、何度死のうとしたかも分からないけど、本当は自分だけを見てくれる人を探していたってことなんかな。そう解釈していた。「僕ね」すかさず俺は「君ならいい、いや君とがいいんだ、根拠はないかど俺も君となら。。」青年は泣いていた、嬉し泣きなのか、悲しいのか、どちらなのかは関係ないように大きく泣いている「行くとこないんだね。同じだね僕たち。」涙を流しながらも必死に伝えてきたその言葉を聞いた俺は、青年を強く強く抱きしめることしか出来なかった。それからの事は良く覚えていない、けど、その日初めて守りたい人よりも守らなければならない人が生まれた。理由もない目的なんてあるはずのない旅とも呼べない旅は、今目的を持って終わりを告げた。
k.y




