第二話 「光の先は」
【勇者】神代勇護とその幼馴染である吉川彩芽がエヴァンズ王国に召喚されている時、島崎竜也と朝宮飛鳥は、光の刺さない暗い空間の落下飛行を楽しんでいた。
(一体、なんなんだっ!?)
突然光に飲み込まれ、光が納まったと思えばそこに地面は無く、ただ二人は暗い何処とも分からない場所を落ちて行くしかなかった。
「これは、縦穴状の洞窟!?」
それは、恐らく竜也は初めて聞いた朝宮の驚きの声だった。しかしそれを聞いて目を凝らすと、確かに辺りには岩肌がごつごつしており、上を見る事は出来ないが縦穴の洞窟かそれに類するものと判断して良いだろう。
「よくこの状況で良く分かったな!?」
「岩肌が若干ごつごつしているのが見えたから!」
落下の際に生じる風切り音のせいで互いに大声で話しながら、パラシュート等の命綱なしの、かなりの速度のフリーフォールが始まり早くも十秒が経ったのだが未だに底、地面が見えてくる、または何らかの干渉によって勢いを減速させられる気配はない。このままで行けば地面に二人とも叩きつけられて地面の赤いシミとなるのは必定と言っても間違いでは無かった。
(どうする? いったいこの状況、どうするれば助かる!?)
竜也は必死に頭を回転させながら、少しでも生前確率の高い解決策を模索していく。そして最初に頭に浮かんだのは、腕が壊れるのは決定だが、何処か出っ張りに捕まるという手段だった。
(いや、それは無理だ)
竜也はこの方法は無理だと判断した。恐らくだが、竜也達が落ちている場所から所々出っ張りのある壁までは十メートル程に距離があり、腕が壊れるのは良いが、そもそも壁にたどり着く方法が無かった。そう考えた時、竜也はある事を考え着いた。
(この方法なら、助かるかもしれない)
そう思いながら竜也は自分が身に着けていた制服のブレザーを風圧によって吹き飛ばされない様に注意しながら慎重に制服を脱いでいく。その一方でこの状況を打破するには彼女、朝宮の協力も不可欠だった。
「朝宮、悪いが俺の腰に手を回してくれ。それで、絶対に手を離すなよ!」
「分かった!」
一方的で、何をするかなどの説明は一切しなかったがそれでも竜也が何かしようとしている事に朝宮は気づいたのか直ぐに竜也の腰に手を回すとしっかりと抱き着き、それと同時に竜也の腰から足に掛けて朝宮の体が接している箇所から柔らかい感触が伝わって来たが、竜也はそれどころじゃないと邪な意識を排除し、ブレザーの両腕の部分を握り、そのまま少しでも落下速度を抑える為にブレザーを風を受けるようにして広げると確かに落下の速度は眼に分かる程に遅くなった。
(確かに遅くなったが‥‥正直、肩がやばいけど)
そう内心で愚痴りながらヒシっと自分の腰に抱き着き目を閉じている朝宮の姿を見て気合を入れ直した。それでも確実に肩の痛みは増して来ていた。実はブレザーで風を受けた瞬間、肩が外れるのではないかというほどの衝撃が襲い掛かって来たが、それでも自分一人だったが場合は別に手を離していたかもしれなかったが、今は腰に手を回して抱き着いている朝宮の存在もあった。
(どうにか、持ってくれよ!)
竜也はブレザーの耐久性と自身の握力と肩に対してどうにか地面に持つように改めて気を引き締めたのだった時だった。
「朝宮、地面が見えてきた! このまま降りるぞ!」
「わ、分かった!」
「地面に降りた時は転がるようにしろ! 衝撃を幾分か緩和できる!」
虐めで、四メートル程の高い所から飛び降りさせられた時に学んだ衝撃を分散させる方法を朝宮にそう声をかけ教え、竜也自身もブレザーで落ちる場所をどうにか選びながら衝撃に対しての心構えを固めつつ、幾分か落下の速度は落ちていてもそれでもまだ早さの残る状態で手を離すタイミングを図りつつ見てるとちょうど平地までとはいかないが、凹凸の少なく着地出来そうな場所を見つけ、そこへとどうにか向かう事に成功した。そして地面まで凡そ十メートルを切り、竜也は朝宮へと声を掛ける。
「朝宮、今から三秒数えたら手を離す! だからさっき言った通りにしろ!」
竜也の声に朝宮が頷いたのを服越しに感じ取り、竜也も覚悟を決めている間も地面は近づいて来ていく。そして六メートル程の距離になり、竜也はカウントに入る。
「三、二、一、離すぞ!」
「っ!」
竜也がブレザーから手を離した瞬間、抑えられていた速度が幾分か戻り、しかし事前に覚悟していた竜也はすぐに体を丸めようとした時、ある違和感に気が付いた。それは腰にしがみ付いている存在、朝宮だった。
(こいつ、どうして手を離していないんだ!)
咄嗟に朝宮の方を見ると朝宮自身も驚きの表情を浮かべていた。恐らく強く抱き着いていたせいで上手く手が離せなかったのかもしれないが、地面が迫っている今の状況でそんな事を言っている時間は無かった。だから竜也は仕方なく朝宮を抱きしめ、頭を守る様に片手を添える。
「ご、ごめん。手が‥‥」
「それはいい! それより口を絶対に開けるな!」
朝宮は申し訳なさそうに口を開こうとしたが、それを制止、口を開かない様に注意して時間にして一秒後、竜也の背に鈍い痛みが走った。
(ぐぅッ!)
竜也と朝宮は地面に接触し、背中に走る痛みに歯を食いしばって耐えながら二人は抱き合った状態で地面を五メートル程の距離をゴロゴロと転がって行き、やがてそれは止まり、竜也と朝宮はどちらともなく抱きしめていた手を緩め、地面へと体を横たえた。見た感じ二人とも制服には泥や砂が付着していたが、それ以外では特に外傷を負った様子は無かった。
「助かったの?」
「ああ、どうやらそうみたいだな‥‥」
どうにか助かったかと竜也はそっと息を吐き、張り詰めていた感覚を少しだけ緩めた。今ここでずっと感覚を張り詰めていたとしてもしょうがないと考えての事だった。そして改めて自分達の居る場所の周りを改めて見て見ると、周りには幾つもの岩があり、地面には草一つ無かったが、それでも壁で光る石のお陰か不思議と辺りを見る事に不自由する事は無かった。そして周囲を見た竜也の感想は、
「まるで不毛の荒野みたいだな」
「そうだね。」
そう思い、そしてそれには朝宮も同意だったらしく眼鏡を制服で拭きながら頷いていた。そんな朝宮を見ていると竜也の肩に鋭い痛みが走った。
(まあ、仕方がないか。風の抵抗と人間二人分の重さを支えていたんだ)
寧ろ、今生きている事に比べればこの程度安い物だと竜也は思うことにした。そうして痛みの感覚を頭の隅にやると同時に頭をもたげる疑問があった。それはどうしてこのような場所に自分たちが出たのか、だった。
「なあ、朝宮。どうして俺達こんな変なところに出たんだろうな?」
「よく分からない。けど、もしかしたらあの時の魔法陣から移動していたのが関係しているのかも?」
「やっぱり。それが可能性的に高いか‥‥」
竜也の質問に、考えられる可能性を口にした朝宮の答えに、やっぱりその可能性が高いかと竜也自身も納得していた。そんな時だった。
『それは違いますよ?』
「ッ!誰だ!?」
頭の中に響いた声に竜也は咄嗟に立ち上がり周囲を見回すが見える影は居ない。
『あなたのすぐ近くに居ますよ』
「すぐ近くだと…?」
竜也は直ぐに自分の周りを見るがそれらしい影や気配はない。一体どういう事だと感じながら竜也が改めて周りを見ていると朝宮が声を上げた。
「あれは、なに?」
朝宮が差した方向には確かにいや、一人、いや小さな影が足元に居た。それは流線形で、体は空のように青い体を持った存在。
「スライム‥‥?」
そう、ファンタジー系のゲームや異世界系の本に登場する、それはRPGでは出て来るのが定番、物語に最初に登場する魔物、スライムだった。