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変身と成長。対価と制約。そして

作者: 竹田 ゆき

 変身。

 あまりにも子供っぽく安い言葉。自分が別のものに姿を変えること。

 特撮ヒーロードラマや魔法少女アニメなどで使いまわされているその表現は、子供の成長という意味でも使われている。

 僕はただの文学少女 (あるいは文学少年) であって、そのような子供向けアニメを見る歳じゃない。しかしそれでも ――僕自身認めたくないのだけれど―― 変身したいという気持ちが、心の内に存在する。

 ただそれは、強者になって誰かを助けたいというエゴではない。只々自分が誰かの迷惑にならない人物になりたいという思いだ。

 フランツ・カフカは『変身』との題で、一編の小説を世に出した。毒虫に姿が変わってしまった主人公とその周りの家族を描いた書帙だ。

 主人公のグレゴールはある日毒虫に変身してしまい、そんな彼を家族が必死に支えようとする。しかし、徐々に家族が、そしてグレゴール自身が忌み嫌われる毒虫という存在として扱われるようになり、やがて毒虫そのものへと成長した彼は自室で息を引き取ってしまう。元の人格とは異なった存在になって。

 僕はその恐ろしい内容とともに、ひどく羨ましいと感じた記憶がある。

 彼は外見的な「毒虫」として、分かりやすい形で忌み嫌われた。しかしながら、そう例えば内面的な変身を行った者はどうだろう。忌み嫌われるだろうか。自分のアイデンティティを強制的に変身させられた人間、早く大人に成長することを余儀なくされ、いくら歳を重ねても自分を肯定することができない者。

 早熟した精神には不安定さという対価が残る。低い自己肯定感という制約が纏わる。

 普通の人間というペルソナを被りながら、毒虫として生きていかねばならないのだ。


 だからこそ僕は、もし何かに変身するならば、何になりたいかと問われれば、きっとこう答える。

「蝶になりたい。自由に空飛んで、知らない場所で死にたい」

 冗談っぽく笑って、髪を指でいじりながらそう言うだろう。

 さすがに毒虫になりたいとは言えないながらも、毒虫として周りに迷惑をかけない存在に、毒虫から一歩成長したその存在になりたい。ヒトと比べて、どんな対価や制約を科せられたとしても、そっと静かに、どこか誰も知らない場所で寒さに震えながら死ねるような存在になりたい。そして僕はこんな馬鹿々々しい妄想を、きっと誰にも知られることのないようにそっと、僕がヒトとして死ぬまで、ブラウスに隠した心の内に隠し通すのだろう。


感想その他お待ちしております。


またサークルブログのほうでは、こちらでは載せていない小説や小説以外のコンテンツ (アニメなど)、その他様々な記事を載せてあります。

ぜひご覧ください!

https://skymin.hatenablog.com


追記

FANBOX 開設しております。

支援者様限定で、何か色々やります!

何卒、ご支援のほどよろしくお願いします!!

https://www.pixiv.net/fanbox/creator/10408282

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編ですが、竹田さんの持つ人生観が、明確に凝縮されて描かれていると思います。 或る少年(少女)の誰しもが持つ将来への不安が、序盤の「只々自分が誰かの迷惑にならない人物になりたいという思い」…
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