第2夜《コトリバコ》
最近洒落怖が好き(ノシ 'ω')ノシ バンバン
憎い。ただひたすらに憎い。あの女さえ死ねば彼は私のものだったのに。私が彼と結ばれるはずだったのに。
『貴様、力が欲しいか?』
あぁ。今すぐにでも、軽々とあの憎たらしい女を殺せる力が欲しい。自分の手を汚さずに。
『それでこそ、私の見込んだ男だ』
うるさい、私は性別なんて関係ない。ただ、あの人と一緒にさえなれれば。
『その願い、聞き届けよう。私の言うとおりに動け。すれば貴様はその忌々しいあの女とやらを排除し、男と安泰に暮らせるであろう』
妙な安心感があった。
怪しい男は私にそう告げると、小さな木製の箱を9つ取り出した。
『事前に私が中に雌の血を満たしておいた。あとは貴様が子供をこの中に贄として捧げれば良い。生まれたばかりの子供を贄にするならば、へその緒と人差し指の先、内臓を絞った血を。7つまでの子供を贄にするのならば、人差し指の先と内臓を絞った血を。10歳までの子供を贄にするのならば人差し指の先を、箱に捧げよ』
どこかで聞いたことのある話だなと、私は素直に感心した。まるで私がこうなることを最初から分かっていたかのように男は用意周到だった。
『最後に一つだけ忠告だ。9つ目の箱を作るのはおすすめをしない。命を賭してでも殺したい者がいるのなら別だがな』
そう言うと男はその場からすぅっと霧が晴れるように消え、私はタプタプと音が鳴る箱を、リビングから押入れの棚へと移し替えた。
来るべき復讐の時に備えて。
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『あの子はね、人間、吸血鬼、鬼の混血なんよ』
「それどちらかと言うと怪異寄りじゃないですか」
『まぁ、5割人、3割鬼、2割吸血鬼の割合だから半々だけれども』
その後の説明をざっくり噛み砕くと、あの男、高望敦は、吸血鬼に血を吸われた鬼と人間の間で出来た子供という、なんか子供が考えたいかにも厨二病臭い血筋だった。
自分が本当に人間の血が濃いのであれば怪我をして当然なのだが、それはすぐ治ってしまう。生きている、人である実感を得るために自傷。最終的には自殺を図るも死ぬ事は出来ず。正確には死んで即復活したとの事だが。
しかしその時に、何に目覚めたのか、死んだあと数日動けなくなったのを人間らしさと勘違いし、自分だとやり込みが浅いからと誰かに本気で殺されることを望みだしたのだという。
「狂ってる……」
桃木部長が小声でそう呟いた。
「それで、願い? 頼み事? 私たちに彼を殺せと?」
『いんや、あなた達ではないんじゃよ、あなたになんよ。不死殺しのあなたに、彼を懲らしめてもらいたいと思ったんじゃよ。形上彼の願いを聞いたことにして』
「はぁ、私になんのメリットもない。私からしたら受ける必要性が皆無なのですが?」
『……今はそうやね……あなた達でまだ何とかなっているのだから。余計なことをしてもうしわけない』
コロコロと変わる口調に気持ち悪さを感じつつ、もう話は終わったとズルズルと去っていく白蛇の背をぼうっと見つめていた。
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怪異は怪奇よりやや質が上、メジャーな異常のことをこの街では指している。
例えば、先程の会話に出てきた鬼、吸血鬼。その他に化け狸化け狐などのわかりやすい、名前を聞いて瞬時に理解できるものだ。
一方怪奇は民間伝承などによって出来上がった、人々の恐怖心、不安によって生み出されるものだ。
幾分かメジャーになってしまった口裂け女やトイレの花子さんもこの中に入る。
他には、姦姦蛇螺、両面宿儺、腕章の少年、八咫様、ヤマノケ等だ。
これらの怪奇は、怪異よりランクが一つ下と判定され、そのことにより、退治屋のいい狩りの対象となっていた。
それこそ、人々不安心から生まれるものであるために何かあるだけですぐ生まれでる。
なおかつこの街では怪異も怪奇もカウントとしては同じなので、数稼ぎ、ノルマ稼ぎに多く倒されていた。
それが、人の手を得た怪奇が、より恐ろしく怪異にてが届く程の恐ろしいものに変わるとは知らずに、私たちは一時の安寧の中で、ままごとをしていたに過ぎないのだと、私はこの後の出来事で知ることになる。
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「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、みんな死ね死んじゃえ死ね死ね死ね死ね死ね死し死死し死死し死死し死し死死し死死し死死しししししししししししシシシシシシシシ……」
嘲笑と狂言が街を覆い尽くす。箱から溢れ出る魍魎は、何人もの女性達を屠っていった。
「あなたが、あなたが悪いのよ、ほかの子に傾いたりするから!」
男が街の真ん中で叫び続ける。
「なんだ、何事だ!?」
遅れて現場に駆けつけた桃木部長と私は、芦屋に慌てて状況を聞く。
「女性陣は下がってろ! ここは男で肩をつける。これは、『コトリバコ』だ!」
コトリバコ。怪奇の中でも怪異の側に寄っている怪奇。女人の血と子供の遺体の一部を箱の中に入れることで、箱の持ち主の周囲の女性を皆殺しにするという悪質な呪い。
それがなぜ、こんな街全域に災害を生むクラスのありえない怪奇として成り立ったのか。
「おい、ぼさっとしてるな! お前はコトリバコから離れて、あっちの腕章のやつを追え! 腕章の少年まで湧いていて、一般市民を襲って狂化されてやがる」
芦屋と数人の男性退治屋にその場を任せ、私たちは腕章の少年を追うためにとある坂に登る。すると後方から、何やら鼻息荒い生き物の気配がする。
「後ろ!?」
驚いた桃木部長を押しのけ、私はコンを前に出して符術を展開する。
私の術は不死性の破壊。不死性を持つものや、明確な死、消滅を誰も知らないものに対して最大限の効果を発揮する。
はずだった。
コンの防御のおかげで身体的には無事だった。が、しかし。当主の私の霊力を注いで作った不死性を破るための符が一切効果を示さず、私たちには目もくれずにそのまま一般市民を襲いに行った。
警棒を振り回して5匹の犬を連れて街を徘徊するその怪奇は、もはや特定の人を選んで襲うなどというみみっちい真似をする必要はなく、ただひたすらに人を叩き、殺し、魂を汚すことでこの世にとどまり続けている。
『千夜ちゃん、私たちに任せときな』
桃木部長と契約している神格。いや、実際は神格に近い怪異、ぬらりひょんがこういった。
『新参者にばっかり街をのさばらせんのは癪でなぁ。町中の未退治の怪異を引っ張ってきたから、あたぁ、数でぶっ飛ばすだけよ』
そう言って桃木部長とぬらりひょんは腕章の少年を追っていた。
そして私の背後には、芦屋たちと戦っていたはずのコトリバコがすぐ迫っていた。
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