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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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はずれ神シリーズ

自殺をしようと樹海へー出・掛・けたーら~♪いきなり、神社が、目のまーえに出現♪

作者: 真田 逆


 ここは日本のどこかにある某樹海。僕はここに、自らの命を断ちに来た。


 幼馴染みの親友に裏切られ、借金の連帯保証人になり、蒸発された。

 保証人と連帯保証人の違いを調べずに、そのときの借金額だけが請け負う金額じゃなかったことも知らず、提出不要なはずの差押えの権利に関する書類も金融業者の手にある始末。

 ……ああ、見えない信頼を見えてると錯覚して、友人というだけで信用してしまった僕が悪いんだろうよ。契約書も流し読みだったしね。無知は罪だよ。


 弁護士にでも相談すればいいのかも知れないが、もうそんな段階はとうに過ぎた。

 元々孤児だったし、頼れる身内なんぞいない。むしろ迷惑をかけなくて済んだと考えるべきか。

 そして最早そんなことはどうでもいい。完全に逃げ道が塞がれる前に、「自殺」という逃げ道すらも使えなくなる前に、なりふり構わず追っ手を振り切って、現金を使い果たして僕はここに来た。


 レンタカーを乗り捨てて、登山者を装った格好で樹海の中を進んでいく。


 水はあるが食料は持ってきていない。腹が減って歩けなくなったところが死に場所だ。自分の首吊り死体が発見されたときに、糞まみれの身体は見られたくないからな。完全には無理だろうが、腸に何も残っていない状態で逝きたいもんだ。


 未明から歩き続け、多少の休憩を挟み、時はすでに夕方近く。逢魔が時というやつか。樹海の中ということもあり、すでに周りは薄暗い。




 ……そんなところに光が現れた。




 青白い、火の玉のような、光というよりは(あか)りと言ったほうがいいのか。狐火や鬼火、という名称がしっくりくるような、そんな二列の灯りがいつの間にか僕を挟んで、そのまま樹海の奥へ点々と並んで延びている。



「はは……なんだこりゃ」



 思わず独り言が出てしまうほどに摩訶不思議な現象だ。もしかしたら空腹や死への恐怖からくる幻覚かもしれない。


 ……どうせ死にに来たんだ。これが地獄への案内だとしても別に良いじゃないか。

 そう思い直した僕は、灯りが指し示す方向へ歩き出した。


 五分もしないうちに、僕の目の前に現れたのは神社と思わしき建物だった。視界には無数の木々しかなかったはずなのに、いきなり現れたのだ。周りにはこれまた青白い篝火(かがりび)が焚かれ、煌々と辺りを照らしている。


 灰色の石で出来た鳥居に、小屋のような(やしろ)。ついでに小さめの賽銭箱だ。ガラガラ鳴らす鈴や縄は無い。

 しかしながら、年月が経っているような雰囲気はない。こんな樹海の奥にある神社なのに、新品のような、それでいて神々しさを感じる。


 少し考えて、僕は財布の中身の現金を賽銭箱に入れた。しめて890円。地獄の沙汰も金次第とは言うが、現実の金なんて不要だろう。柏手(かしわで)を打ち、祈りを捧げながら、ここで使っておけばなるべく苦しまずに逝けるかもしれないし……などと愚考する。まぁ無駄だろうが。



『そうさのう。無駄かもしれんのう』



 !?



 耳からじゃない。頭に響くは老若男女をまぜたような声。


 ……そして、賽銭箱の上にいつの間にか浮いている少女のようなナニかがいた。思わず飛び退くように後ずさる。




 顔に、狐のお面を縦半分にしたような物を付け、もう半分の顔から覗くのは、光の反射が無い漆黒を携えた瞳。

 瞳と同じような黒の散切り頭と、その身にまとうは白い襦袢のような着物。……襟が逆の左前になってるということは死に装束というやつだろうか。ああ、不吉な予感しかしない。



「やっぱり死ぬ前の幻覚と幻聴か。人はこうして狂っていくのか」



『自決を望む者よ。最期の運試しをする気はないかえ?』



 幻覚が何かを言っている。運試し、ねぇ。

 僕は生まれてこのかた、クジなどで大当たりをしたことがない。宝くじは連番で買ったときの一桁しか当たったことはないし、がらがら回す系の抽選はいつもポケットティッシュ。おみくじは大抵の場合が末吉だ。ビンゴは揃ったことがなく、毎回きれいに斜めの列が残る仕様だ。

 思えば親友すら子供の頃から大ハズレを引いていた、というわけだ。はは、笑えねえ。



『我は【はずれ神】と自らを称しておる』



 幻覚の神様までハズレときたもんだ。



『そう腐るな。まあ、この呼び名の通り、我が司るのは「(はず)れる」という事柄(ことがら)そのもの。この社と我は、ハズレにハズレまくった人生を送る人間の前に現れる』



 まさに僕のためにあるような設定の神様だな。都合がよすぎるご都合主義な幻覚だ。



『さて、我に出会えたものはここで神籤(みくじ)を引くことができる。それも一生に一度の、な』



 目の前に六角形の縦長の箱……そこそこの神社でよく見る、おみくじの棒が入っているあの箱が現れた。


 ……いや、よく見るとこれは七角形だから七角柱だな。元々の六角形も何か意味があるんだったか。この七角形は何を意味しているのだろうか。気になる。



『「アタリ」を引いたらその場で死ぬ。与えられるものは安楽死。お主が望むものだな。

「ハズレ」を引いたら、可能な限り生き抜いてもらう。とは言え、死ぬしかないような状況にある者に無茶は言わぬ。生きるための力を授けようぞ』



 なんだそりゃ。普通は逆じゃないのか。当たりを引いたら死ぬって……逆だったら楽に死ねたのに。絶対にハズレを引く自信があるよ。



『改めて聞こう。人生最期の運試しをする気はあるかえ?』




――――――――――――――――――――――――――




 神様らしき少女の問いに、言葉で応えることもなく無言で箱を手に持ち、軽く降った。僕は予想通りとばかりに箱から出てきた「(ハズ)レ」の棒を見ることになる。



『かかか、流石だのう。それでこそ我の前に立つものじゃ。まあ悪いようにはせぬ。そうさのう……お主が生きるために必要な力……』

 


 せっかく悩みに悩んで死ぬ覚悟まで決めて、色々とギリギリの状態でここまで来たというのに。まさか「最期」の「最後」までこんなだとは……いや、よく考えたら幻覚だろこれ。別に従う必要もないだろ。そもそも中身全部はずれだったんじゃねえのかこれ。それにハズレだったら可能な限り生き抜く、という縛りだったはずだし。最悪の場合、ここでこのまま餓死という選択肢も――――



『お主に与える力は「()せモノ探し」。

(なにがし)をサシシメセ】、という言霊(ことだま)により、探し出したい物、場所、人物への道筋を示すであろう。お主の身体に触れている道具を、示しの標識とすることも可能だ』



 ――――思考が止まる。



『探しモノまでの距離もわからねば厳しかろう。地図も併せて用いれば、その地点を示せるようにもしてやろうぞ。なに、これは「さあびす」というやつだ、なにせ賽銭をもらったのは神生(じんせい)で初めてだったからの』



 なんでも、探せる?


 なんでも……どこに行ったかわからないアイツも、探し出せる?



『それと、一つ忠告だ。【その能力は、直接人を傷つけることは出来ぬ】』



 耳に残るような、いや、頭に残るような響きの言葉が僕の思考を遮る。

 いやいや、探す能力とやらでどうやって人様に攻撃できるのさ。



『さて、我の役目はこんなところかの。あとはお主の為したいように為すがよい。

 ではな。お主がこの先もハズレ続ければ、また逢うこともあるだろう。神籤(みくじ)は今回だけだがの』



 気付けば、僕は自分が乗ってきていたレンタカーの側に立っていた。



「はあ?!」



 訳がわからない。さっきのはどこからどこまでが現実で幻覚だ?

 まさか僕は最初から樹海には入っていなかった?

 そんなまさか。だけど、樹海を歩いて棒になった乳酸たっぷりのふくらはぎは痛くないし、空腹でもなくなっている。いや、むしろいつもより調子がいいような……



『これも、さあびす、というやつだの』



 再び頭に響いたあの声。


 僕は高鳴る心臓を抑えつつ、レンタカーに乗り込みエンジンをかけた。

 車内に付いていたカーナビを最大広域にして日本列島を表示させる。



「ぼ、僕を裏切った、アイツの居場所を【サシシメセ】」



 その言葉が終わると共に、北海道の地点に赤い印が映った。……いや、これは僕の視界、目に映っているのか。



 あれは、幻覚でも、幻聴でも、白昼夢でもなかった。



「ははは……まじか。まじなのか」



 僕は乾いた笑いを出すと、レンタカーを返却すべく、元来た道を戻っていった。


 なにせ金は全て賽銭箱に入れてしまったのだ。先払いした金額に、更に延長料金を発生させるわけにはいかない。




――――――――――――――――――――――――――




 それからは意外にもあっさりと事は進んだ。


 まず裏切った友人が居ると思わしき住所を能力で正確に割り出し、それを借金の取り立て人に知らせた。僕がいなくなったのはアイツを探すため、仕方ないことだったと言い訳を添えて。僕にはもう金が無いんだから、取れる可能性がある方からも取るべきでしょう、とも付け足して。

 半信半疑ながらも、僕の軟禁と監視を条件に探しに行ってくれたのは本当に意外だったな。

 いや、強面(こわもて)のお兄さん曰く、僕のためじゃなくて逃げたアイツに落とし前つけさせるため、らしいけど。ツンデレじゃないよ、むしろツンギレだったよ。


 三日後の朝には懐かしい顔が見れた。僕を見るアイツの顔には、いくつかの痣と憎悪にまみれた眼差しがあったね。

 全部てめえが蒔いた種、身から出た錆、自業自得だろうが。ふざけてんじゃねえよ糞が。


 裏切り者の金が底をつけばまたこちらに矛先が向くだろうが、交渉の末ひとまずの猶予は得られた。未だに連帯保証人という鎖からは逃れられていないんだ。本当にやっかいな鎖だよ。


 軟禁されていた建物から解放された僕は、次の行動に移る。この猶予をつかって、軍資金稼ぎをしなければいけない。

 なんと言っても僕には金がない。通帳の残高は0だし、部屋の物はすでにほとんど持っていかれてしまっている。住んでいるアパートの家賃だって滞納状態だ。



「それよりも、ここから帰るための運賃も飯を買う金もないっていうね……はぁ」



 軟禁状態のときは、カップ麺とコンビニ飯をもらってたからなんとかなったが、ここからはそうはいかない。さてどうするか。



「気は進まないけど、やるしかないか……

 所有者不明の百円玉を【サシシメセ】」



 視界内に、いくつもの赤い点が現れた。

 ……意外とあちこちに落ちてるものだな……



 命名「ハー○ェスト作戦」により、2080円を収穫できた。結果的に百円玉は22枚拾い、端数になってるのはただ単に喉が乾いただけだ。そこ、ジュース買ってんじゃねーよハゲとか言わない。僕は禿げてない。


 まぁ厳密に言えばこれは法律違反なんだが……財布ごとじゃなく硬貨のみの落とし物だから許してほしい。経済の流れから外れてしまっていたお金ちゃんを、正しい流れに戻してあげようってんだ。僕は悪くない。ちなみに自販機の下にあるやつまで漁ってはいない。さすがに地面に這いつくばるのはちょっと……




 小腹が減ったので、軽く飯も食って残金1500円ほど。近くにあるパチンコ屋に向かう。


 千円分のカードを買ってから、能力の呪文を小声で唱える。



「出が良い設定の台を【サシシメセ】」



 ……二時間後、周りに箱が積まれた状態の僕がいた。現金化して35,000円也。余った玉で食料品もついでに手に入れた。

 しかし、この方法も確実じゃないし、続ければ出入り禁止になる可能性もある。パチ業界は情報が回るのが早いらしいからな。

 パチスロは週に一度だけ一つの店で、色んな店をローテーションして、同じ店にいくのは二ヶ月に一度くらいの頻度にすればしばらくは持つかな?



 とりあえず目標の現金は手に入れた。これで……やっと弁護士相談に行ける。




――――――――――――――――――――――――――




 次の目標に向けて、高額賞金がかかっている重要事件の指名手配犯探しを始めた。最寄りの警察署からいくつかチラシを持ってきて、全国地図を片手に潜伏場所を探していく。そいつを俺が「たまたま」見かけても不自然じゃない場所にいる犯人を選んで、実際に現地にいってすれ違う。僕がなぜそこに行ったのか、適当な理由をつくってから通報すれば言い訳もたつ……といいな。

 どちらにしろこの方法が使えるのは一回だけだ。何人もの指名手配犯を探し出したら、警察に目を付けられる。



 ……これ、反応がない犯人は海外逃亡してるか死んでるかかな?

 犯人の死体をサシシメセとかやれば見つかるかもしれないけど、金にならなさそうだからいいや。



 次に宝くじ。しかしこれは当たりくじを探すことは出来なかった。どうやら「未来」に関する物事は、さすがに指し示せないようだ。

 代わりにスクラッチ型のくじはばっちりだったが。


 競馬では調子が良い馬を探した。確実ではなかったが、十分な黒字になるくらいの頻度で当たった。


 コツコツとギャンブルで稼いだ金で、渡りをつけていた有能な弁護士を雇った。ボイスレコーダーを使って証拠集めとやらをしてほしいとのこと。ふむふむ。


 結果、借金の連帯保証人という繋がりは消せなかったが、これ以上の法外な金を要求されずには済むようになったようだ。根保証契約だとかなんとか……そんなことが契約書には書かれてたらしいけど、全然見た覚えがない。弁護士さんも呆れてた。ごめんね。後はお任せしました。


 ともあれ、あとは借金額まで金を集めるだけ。


 すでに黙って弁護士を雇ったことやら録音とかの件で、強面のお兄さんたちにはそこそこの怒りは持たれてしまっている。最後の落としどころとしてモノを言うのは金だろう。

 さっさと金を集めて払ってしまってもいいのだが、裏切り者をすぐ解放するのも癪だし、こっちに再度の請求が来るまではアイツに苦しんでもらおう。




 生活が保証されたら次は安全に生きるための方法を探す。

 アクセサリーのダウジングペンダントを買った。自分にとって不利益になる場所や、危険な人物が一キロ圏内に入ったら、目に映る赤い点滅と共に指し示すようにした。君子危うきに近寄らず。先のことはわからないが、現在のことならわかる。




 それから数ヵ月、たまのギャンブルやらで生活費を稼ぐ日々。警察からの報酬も無事に手に入った。

 それを元手に更に稼ぎ、目標額は達成した。あとは払うタイミングだけ。請求がこっちに来たら仕方がない、現金でポンとくれてやろう。


 僕はとくに贅沢もせずに、そのまま穏やかな日常を送る。


 ただで楽しめるコンテンツなどいくらでもあるのだ。これこそが求めていた平穏。




 しかし、だからこそ油断していた。




 深夜、誰もが寝静まっている時間に、車がアパートに突っ込んできた。




 寝てるときもつけていたダウジングペンダントは、ちゃんと危機を報せる動きはしていたのだろう。ただ僕が気付けなかっただけだ。

 間一髪で衝撃から逃れられたのは、まぶたの裏で点滅してくれた赤い光のお陰だ。




 そして、乗っていた男はあの裏切り者の元親友。頭から血を流しながら、包丁を手にして襲いかかってきた。



 こんなことなら早めに引っ越しておくんだった!



 安全な道、逃げ切れる道を探しながら裸足のまま駆ける。しかし体力と足の速さ、ついでに靴の有無はいかんともしがたい差だった。追い付かれ、取っ組み合いになり、地面に転がされる。


 そのまま何度も凶刃が降り下ろされるが、不思議と致命傷にはならなかった。これもハズレ体質のお陰だろうか。意外な長所だ……なんて思わん。急所は外れても、切られりゃ痛いっつーの!



「くそ、やっぱり僕の人生はハズレだらけかよ」


「……何言ってやがんだ。こうなってんのが自分のせいじゃないとでも思ってんのか?!」


「……どういうことだ」


「てめえが最初に俺のことを裏切ったんだろうが。ガキの頃からだ。てめえが周りからちょっかい出され始めたのを助けてやったら、矛先が俺に向いた。それを作り笑いしながらいつも見てみぬ振りをしていたのがてめえだ!

  相談してもやんわり明言を避けるだけ。助けになっているような振りをして、友人面して、いつもいつも俺のことを視界から外していたのはてめえだ!!

 ふざけやがって、てめえみたいな奴こそ外道っていうんだろうぜ!」



 必死に包丁を抑えながら、叫びと共にアイツの左手で殴られる。

 


「どうせ今の今まで気付いてなかったんだろ!

 その程度で、とか軽く考えてやがんだろ!

 こんなのはただのきっかけだ! 

 てめえへの怨みつらみなんざ、数えきれねえくらいあんだよ!

 いや、てめえのことだ。わざと忘れて、さも何もなかったかのようにしてんだろうよ!

 あの借金だって、てめえと会わなきゃする必要のなかった金だぜ!

 俺が道を踏み外したのも、今てめえがこうなってんのも、全部てめえのせいだ!」



 ……は。



 はは、ははは、そうか、そうかよ。



 成程、なるほど。僕は、元々そうだったのか。



 まったく思い至らなかった。いや、考えないように意識から外されていたのか、外していたのか。こいつに今ハッキリ言われて、頭の中のモヤが晴れた気分だ。




 僕が外れていただけじゃない。僕自身も周りを外させていたんだ。




 産まれたときから欠陥品だったんだ。




 そりゃあ、両親も身内もいなくなるわけだ。友達も離れていくし、恨みも持たれるわけだし、はずれ神とやらも現れるわけだ。むしろ僕が無意識に、ああいう神様の存在を望んでいたんじゃないか?




 そうかい、そうかい。なんの因果でこんなハズレ体質になったのかはわからないが……もし何者かの意思があったのなら、そこまで外させることに拘りたいんなら……望み通り、そうしてやるよ。




 はずれ神は、【その能力は、直接人を傷つけることは出来ぬ】と言っていた。

 能力自体は探すだけのものだ。それだけじゃ攻撃になるわけがない。




 だったら、能力の(ことわり)から外れた使い方をすればいい。




 【間接的に、結果的に攻撃になればいい】




「ペンダントよ。こいつの眼を【サシシメセ】」



 ビシッ


 ペンダントの飾り部分が持ち上がり、奴の目にぶつかった。



「うぎっっっっ!」



 あー、できちゃったね。攻撃、できちゃった。いやいや、攻撃じゃなかったね。指し示したすぐ近くに、たまたま目標物があっただけだったね。


 それならこれもできそうだな。



「てっめぇ……なにしやがっ……」



「包丁よ、こいつの急所を『刺し』示せ」



 能力の制限からすらも『はずれ』てしまったら、不思議と色々な使い方が思い浮かんでくる。色々、いろいろ、人の道を踏み外すような使い方が。



 奴が持っていた包丁は、男の手の中でするりと逆さ向きになり。



「……あ?」



 心臓に突き刺された。まるでアイツ自ら胸に刃を突き立てたように。





――――――――――――――――――――――――――





 数日後、警察病院のベッドで横になる僕がいた。


 弁護士からは、おそらく正当防衛が適用されるだろうとは聞いている。深夜でも、車が家屋に突っ込んだり、あれだけ騒いでれば目撃者も多かったようだ。ハズレ体質とも言える自分の運勢的にはまだ油断は出来ないが、状況的にはそこまで絶望視はしていない。

 弁護士さんには今回の件での追加の報酬を渡しつつ、ついでに例の借金の支払い手続きもしてもらった。

 アイツも死んだし、借金も無くなったし、これでしがらみは無くなった……と思うんだが……



 そんなことを考えていた最中(さなか)、病室にあの神社と神が現れた。




『おめでとう。君は見事にハズレてくれた』



 うるさいな。こんな人生くそくらえだ。

 


『私ははずれ神だ。外れること全てに(たずさ)わり、(つかさど)るものだ』



 知ってるよ。あんたに会えてしまってる時点で、すでに詰んでしまってるってことだろ。



『運から見放され、能力に縛られず、そして、「人の道」からも外れたソナタは、我の信徒に相応しい』



 でも、今ならわかるさ。詰んでいるなら、そこから外れる方法を探せばいい。



『そうそう、疑問に答えておこうか。

 我は確かに其方(そなた)を見初めはしたが、そのときすでに「完結」しておったよ。誰のせいでもなく、な。自覚がなかっただけで、見事な完結ぶりだった。

 これからも楽しませておくれ。外道の信徒よ』



 まったくもってやってらんないね。やっぱ死にたい。

 しかしながら、一度楽な生を享受してしまえば、辛い思いをしてまで首をくくりたいとは中々思えないんだなあ。




 ああ、そうだ。




「楽に死ねる場所を【サシシメセ】」










 ……ダウジングは反応しなかった。


 思惑(おもわく)を外されちまったよ、オーマイゴッド。


借金関係の描写は結構適当。

弁護士さんがある程度までなんとかしてくれたでおk。


連帯保証人についての参考:https://ninbai-saisei.com/co-signer-150


皆さんも連帯保証人には本当に気を付けましょう。


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[良い点] 面白かったです。連載で読んでみたい。
[一言] この能力欲しいです! 楽しく読ませて頂きました。
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