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97 暗部

読んで下さりありがとうございます。

「「「!」」」


 ーー室内が光に呑まれる直前。

 俺が仕掛けて来るのを察知した一部の黒衣から暗器が放たれる。

 

 中には能力によるものか、毒々しい見た目や妙な気配を纏う物が混じり、鋭く宙を翔る。

 俺からは逸れていて的外れなのもあるが…移動先に置く形で行く手が封じられており、狙い通りみたいだ。

 それに何か仕込んである可能性もある、相手は主観ではあるが殺人狂…搦め手に長けている。


 発光を起こすと同時にシルムたちの保護は済ませたが一応、付近に落下しないよう迎撃を行う。

 特殊な暗器には「相殺」の魔弾。普通の暗器にはマグナム弾ーー平均より火薬が多いパワーのある弾丸ーーで対処。

 

 相殺には能力を打ち消す効果はないが、衝突する対象と同じ威力になって弾いてくれる。厄介な仕込みがなければ打って付け。

 マグナム弾を用いるのは、破壊と反撃を並行して行うためだ。

 暗器は人体に有効な手段ではあれ、耐久は知れていて突破力は乏しい。なので押し切る。


 『コール』で両手の銃を、それぞれ装填されたハンドガンに切り替え、即座に連射。

 弾は少ないが機関銃の如く速射可能、それに詰まりなど故障の心配は無用。

 全ては自身の技量次第。


 思惑通り、相殺は撥ね飛ばし互いに消失し合い、マグナム弾は障害を砕きながら直進。

 難なく又はぎりぎりで躱す一方、諸に受けて倒れ、盛大に床を赤く染め動かなくなる者も。

 数を減らせたが、それでもまだ20人近くーー


(…? これは……まあいいか)

 

 少し気掛かりな点があったが、支障はなさそうなので置いておく。


 こちらは無傷で済んだ…途中、暗器が分裂したり見えなくなったり変化はあったが全て退け、追撃が来ないのを確認して銃を下ろす。

 無防備な姿勢を取ってもなお、敵は仕掛けようとしない…いや、その余裕がない。


「な、何が…どうなっておるのだ!? 見えないどころか聞こえもーーぬぉ!?」


 壇上で椅子から立ち上がったポルドが、目を閉じた状態で慌てふためき、ふらついて後ろに倒れ込むように再度着席と、明らかに可笑しな姿で一人騒ぐ。

 作用しているのが分かりやすいな…ずっとあの調子だから、戦力外として無視でいいだろう。

 

 ポルドが道化のようになっているのは、さっきの光を浴びた所為。

 影響は黒衣たちにも出ており、攻撃出来ず膠着状態となっている。

 俺が先んじて地面に放った魔弾ーー『閃爆』によって。


『閃爆』は簡単に言えば閃光手榴弾…光と爆音を発し一時的に視覚と聴覚、さらに三半規管を機能不全に陥らせる道具と、ほぼ同じ。

 相違点は、無音だが光を浴びると耳にも異常を来たし、近かろうが遠かろうが効果は一定、目を覆っても耳を塞いでも範囲内であれば影響を受ける。


 長大で遮蔽物のなさが逆に仇となり、一室に行き渡った閃爆は敵を苛む。

 無明そして無音…五感の中でも重要な二つを封じられただけでも相当の混乱を引き起こすが、加えて平衡感覚にも異常。

 心中は荒れ狂い、ポルド程ではないにしろ動揺が伝わって来る。


 一見冷静そうでも、その場からピクリともせず神経を尖らせている。

 察しているんだ、下手に動いたら狩られると。


(この好機を逃す術はない、けど先に)


 意識を失っているシルムたちの方へ視線を向ける。

 四人はドーム状をした、移り変わる澄んだ極光色に包まれた状態。

 閃爆より若干早く展開したそれは『聖域』


 攻撃から守り内部を自身の領域下に置き、外部からの侵入、干渉を拒む。

 練度によって左右されるが、上級魔法を数発は余裕で防ぐ。

 危害が加わる心配はないに等しい…しかし万が一というのは勿論、いつ目覚めるか不明な以上、留めておくのは不味い。


 いま意識を取り戻してしまうのもそうだし、これからより酷くなる惨状を目撃させては、一生付いて回るトラウマになり兼ねない。

 皆まだ若く純粋だというのもある、幼いラントとメイアは尚更。

 内々に処理するのが俺の務め。


 ポルドはクランヌの転移対策を講じ、屋敷から出るのは不可能だと言っていた。

 恐らく空間に、魔法や能力などによる移動の制約でも設けたんだろう。

 建物自体かそれとも敷地にか、どう細工を施したにせよ、もはや無関係。

 

 聖域によって区切られた中はこちらの領分となり、他が踏み入ること能わず。

 そして影響下に置くことで、本来は単体用の魔弾を全体に行き渡らせる運用が可能になる。

 つまり。


 転移の入ったハンドガンに切り替え、聖域へ銃口を向ける。

 さて、一発でこの場から離脱させられる筈だが、問題は行き先。

 俺が過去に赴いた、安全が確保されている場所が前提。


 候補は皆の身内がいる孤児院か倉庫辺りになるが、意識がない状態で帰還させても説明する者がおらず、ポルドが人員を張り込ませている懸念もある。


 捜索の手が及ばない、誰も寄りつかない静かな処ーー。

 …駄目だ。あれこれ場所を考えてはみたが、真っ先に思い浮かんだ一つだけ。

 条件は満たされているけど…悩んでる時間もない。一応、心の中で謝っておこう…。


(ティキア、リームさん、すまない!)


 借りている宿の一室、此方に来てからの拠点。

 人の出入りが少なく、俺の正体と足取りを追えていないなら、匿うのに絶好の場所と言える。

 掃除は自分でやると伝えてあるし、洗濯は必要になったら頼むようにしていて、部屋を訪ねて来るのは稀。


 迷惑はかけないだろうが、無断での使用に詫びを入れつつ同時に、シルムとクランヌのことを想う。

 自身の非力さを嘆き、憂いを帯びながら失神した二人。

 どっちも責任感が強いから、相応に悔やんでいそうだ。

 

 でも、自分のことを責める必要は一切ないんだ。こんな世界とは無関係でいい。

 それにーー


(手を汚すなんて似合わないしな…俺とは違って)


 慣れている俺に任せればいい。

 そう心で呟き…気のせいか少し重く感じるトリガーを引く。

 

 着弾の瞬間、聖域と四人の姿が消失。

 狙い通り上手く行ったみたいだ…これで。


「後はもう、心置きなくやれる」


前話に加筆する予定です。


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