92 始動
読んで下さりありがとうございます。
「で、今度は三人まとめて転移で帰還、と。お付きにはどんだけ引き出しがあるんだ?」
眼前の光景がエストラリカ付近のものに変わり、左のティキアは俺の肩から手を離し、言葉とは裏腹に感慨浅い口調。
既に色々と披露して来たから、感覚が麻痺したのか慣れたのか、もう何が起きても驚かなさそう。
「さあ、私にもさっぱりですけど、いっぱいです!」
右のシルムはニコニコと、俺に腕を絡めたまま、気持ちいい程のいい加減さで疑問に応じる。
まあ製作側の俺も正確な個数は把握してないから、適当な表現と言えるかな。
「嬢ちゃんの審査は当分要らないって話したが…お付きみたいに危険なことは差し止めて、幅広く対応できる相棒が一緒なら二回目は不要かもな」
「え? 日にちの調整とかしなくて済むのは私たちとしても助かりますけど…過程を飛ばしたりして大丈夫なんですか?」
「結局、審査ってのはランク適正に見合ってるか、実力はどんなもんかの確認だからな。今回で嬢ちゃんに見込みがあるのは分かったし、見極められるお付きが同行するなら」
「…そーですよね! 短時間で信用を得るとは、流石お付きの方ですっ」
(……?)
気のせいか?
一瞬、シルムの表情に翳りがあったような…。
「ギルドには免除するよう掛け合うが、なんか不祥事を起こしたら撤回もあるからな?」
釘を刺してくるが、取り計らってくれる時点で俺たちは背かないと思っているだろう。
それでも言い付けるのは保証する側としての責務。
「それはもちろんです。あ、ついでにお付きの方の評判改善もお願いします」
融通ついでにペコリと、シルムは俺に対しての風評の是正をお願いする。
現状を気遣ってくれるのはありがたく、様は大人びた一面でもあるけど…年下の少女に頭を下げてもらうのは、こそばゆい感じがする。
「うーむ…戦友としては力になりたいが…ギルドってほら、稼ぎどころとしては割と自由だろ?」
「色々なお店のお手伝いと比べてもそうですね。業務が定まってなくて、依頼という頼みごとも自分で選べますし」
「店の手伝いとは偉いな…制限されるのを嫌う奔放な奴は一定数いるし、実力主義なんて奴もいる。だから…」
「聞き入れてくれるか分からないってことですか?」
「そうだ」
実感のこもった重々しい肯定をするティキア。
宿で聞く彼の話は基本明るいもので、愚痴でもあっさりとしているが、ギルド生活の中で酒が不味くなるような干渉もあったんだろうな。
「注意じゃ口を開かせないようには出来ませんか…」
「おーい、実力行使には出るなよ?」
「まさか、そのつもりはないですよー…今のところは」
最後に不穏な言葉が付け加えられ、ティキアが俺の方を見る。
…分かってる、万一の場合はちゃんと引き止めるから。
「まあ、説得は無理でも厄介なことになったら頼ってくれ。今日は世話になったしな」
「え? あー…はい。どうしようもないときには…」
「? おう」
力になるという提言にシルムは煮え切らないな返事。
(ぼんやりとした受け取り方になるのは仕方ないな…)
襲撃の狙いが俺とシルムの可能性が出てきたため、そうなるとティキアは巻き込まれた立場。
それを考慮すると、流れで言った改善のお願いとは違い、自発的に来られると気が引けてしまう。
幸い彼はこちらの異変に勘付いてないみたいだ。
「さて…そろそろ俺は行くとするかな」
手に提げていた袋を肩に掛けたティキアが出発を口にする。
あの袋の中には『圧縮』された多数の箱が入っている。
「この後の予定はさっき話した通りだ。忘れてないよな?」
「はい、すみませんけどお願いします」
回収作業の最中に決めた予定というのは、結論から言うと、ティキア一人がギルドへ報告に向かい、俺とシルムは帰宅の流れ。
異常が起きたからにはギルドは調査に奔走せねばならず、ゴタゴタするのと、居合わせたら参考人として拘束されかねないので、立ち寄らない方がいいとティキアの弁。
事が大きいだけに当時の証言をした程度では解放されないのは事実。
しかし彼に後始末を押し付けることになるので、当事者としてシルムが口を挟んだが「動機が何なのか素性を探られるぞ」と言われては引き下がる他なかった。
彼が袋を持っているのは同行しないからで、転移を使ったのは早い方がいいから。
箱の説明など諸々の不安はあるが、ティキアに委ねよう。
「構わねえよ。もう大丈夫だと思うが…二人とも気を付けてな」
「ティキアさんもお気を付けて」
「ああ。じゃあーーっと最後に一つ」
別れの挨拶をして離れようとしたティキアが、足を止めて振り向く。
そして、フード越しにこちらを見据えて。
「俺とお付きーー会ったことあるか?」
単刀直入に、核心に迫る問い掛け。
…ティキアは能力の影響によって感覚が鋭い。
俺の赤いローブには強い認識阻害が付与されているが、それでも何処か似通ったものを感じているのか。
ここで正体を明かしても、彼は受け入れて周りに言いふらしたりもしないだろうな。
だが俺はーー首を振って否定した。
嘘を付いてるつもりはない。
宿で過ごしている俺と、今の俺は違う。
あの談笑の席は憩いの場、そこに余計な事情は持ち込みたくない。
「ならいいんだ。今度こそ行くとするぜ、二人ともまたな」
深く追及せずあっさり納得すると、颯爽と駆け出し、すぐに姿が遠のいて行った。
…もしかしたら俺だと察していたかもしれない。
でも明るく受け入れていたので、答えに不満はないみたいだ。
「ティキアさん、いい人ですね…頼りになって力もあって」
シルムはティキアが去った方を見ながら、遠い目をして言う。
褒めているが…語り口は心ここにあらずといった感じ。
襲撃に遭ってからというもの、ところどころシルムの様子がおかしい。
あんな経験をしたせいで疲れている…とは毛色が異なる。
別の蟠りのようなものがあるように思える。
だとしたらどんな……
「さて! 私たちも行くとしましょうか」
するとシルムはパッと俺の腕から体を外し、調子を切り替えて歩き出す。
まるで追及されるのを拒むように。
思い込みかもしれないが…シルムの意思を汲み取って続く。
「当初の予定があるしな」
「はい。思わぬ邪魔が入りましたけど、とりあえず帰ってお祝いですっ」
「そうだな」
シルムがグッと手を握り気合を迸らせる。
せっかく審査が上手く行ったのに水を差された形になってしまったが、今は抜きにして盛り上げないと。
「ーーセンお兄さんには改めてお礼をしないといけませんね」
「何かあったか?」
「ティキアさんから公認を頂けたじゃないですか」
「ああ…それは、シルムが頑張りがあってこそだろ」
「でもセンお兄さんお存在は大きいです。お陰で最初は遠かったものがより近くなって、それは私の支えになってくれているんですよ?」
「シルム…」
いつも明るく振る舞まっていても、シルムには目標があって、内面では重責を抱え込んでいる。
誰かを頼る事が出来ず、かと言って自分の力だけではどうしようもなく。
どれくらいの負担かは想像も及ばない。
だが、俺との邂逅がその不安を拭う一助になっている。
「ですから、私に手を差し伸べてくれてありがとうございます」
だったら、俺は期待を受け取って、応えよう。
「それはよかったよ。近くなったものを、シルムが手に出来るように力になる」
「はい! 叶うならこれからもずっとーー」
そう明るく踏み出した矢先。
門へやって来て許可証を見せると、門番はハッとした様子で呟く。
「ああ…お二方がそうでしたか」
「何か御用ですか?」
「クランヌ様から言伝を預かっています」
「クランヌさんから?」
「はい。至急、家にお戻りになって下さいと」
俺とシルムは顔を見合わせる。
あのクランヌが人に任せてまで呼び出しをするなんて、余程の事態が起きている。
直前の異変と合わせて嫌な予感が膨らむ。
エストラリカに入ってすぐ孤児院の裏に転移、そこから駆け足で表に向かう。
すると、門の近くに佇んでいるクランヌと、行商人のものとは明らかに違う豪奢な馬車が控えている。
「お二人とも!」
俺たちに気が付き、安堵と焦燥が混ざった表情のクランヌ。
「クランヌさんいったい…」
「よろしいですか、落ち着いてお聞きになって下さい」
合流して早々、自分にも言い聞かせるように言い、切り出す。
「ラントとメイア、あの子たちが攫われました」
感想・評価お待ちしています。
ブックマーク登録も励みになります。




