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前回の話、加筆修正しました。


読んで下さりありがとうございます。

「結局収穫はなし、か」

「目を凝らして回ったんですけどねー」


 ティキアが考え込みながらポツリと口にし、シルムが悩ましそうに相槌を打つ。

 

 魔物の群れが潜伏していた三ヶ所目の穴の内部。

 半球状の何もない開けた場所に、繋がる一本道は戦った魔物が数匹並んで進める幅。 

 三ヶ所いずれも似通った構造かつ、目視できる範囲に変わった点はなく『痕跡』の結果も同様。


 つまりあの得体の知れない黒線も浮かび上がった。

 やはり襲撃に関連しており糸口ではあるのだろうが、現状では行き詰まり。


「とりあえず言えるのは、何らかの狙いがあって計画された襲撃で、仕組んだのは人間ってとこか」

「運が悪かったとか偶然で片付けるには無理がありますよね」

「流石にな…一応は魔物の仕業も追ってたが、あの群れを従える親玉は見当たらないし、足取りを掴ませない周到さがあるとは思えねえ」


 ネヴィマプリスのように、多種の魔物を一点に集め徒党を組ませる存在はいる。

 しかしあの大群の気配を遮断し、隠し通す術も持ち合わせているのは考えにくい。

 単身で条件を揃えるのは無理に等しく、魔物同士が手を携えることは少ない。


 手の込みようなど諸々踏まえると、この一件の裏側には人間が関っているという結論に自然と行き着く。


「それに言うのが遅くなったが、昨日この洞窟はギルドの視察があったしな」

 

 そういえばティキアは、奥にゴーレムがいると知っていたな。

 前日の視察によってその情報が齎されたのか。二重に納得した。

 

 というのも、先ほど『痕跡』を辺りにも用いてみたとき、本道の方には昼間にも誰かが通過した記録があった。

 仕込みの前に下見に来たのかと思ったが、あれはギルドの人間だったようだ。 


「ここに視察? じゃあその人たちが犯人…は、ないですね」

「ないな。俺もそうだがギルドが任命する相手となると、身元がはっきりしてるからあからさま過ぎる。まあ俺が疑いたくないのもあるが…」


 長年ギルドで活動して愛着を持っているであろうティキアは力なく言う。

 最近訪れた以上、事が起きたとき真っ先に嫌疑が向けられるのは免れず、目に見えている。

 強行するのは賢い選択とはいえない、俺も省いていいと思う。

 

 …それとは別の問題は残っているが。


「ただ…否定出来てもギルドは少なからず関与してるんだよな」


 ティキアも同じ考えなのか渋面を作る。

 シルムはまだ気付いてないらしく首を傾げ訊ねる。


「何か心当たりがあるんですか?」

「襲撃の準備をするには先回りしなきゃならねえが、行き先を決めたのはこっち側…って言えば分かるか?」

「あ…」

 

 小さく開いたシルムの口から理解の一音が漏れる。


「ギルドの中に内通してる人がいるってことですか」

「…そうなる」


 普段であれば、受注する依頼を盗み見る等で、俺たちの行き先を絞るのは可能。

 だが今日は、審査の実施を当日に言い渡されて場所の発表もなかったため、情報源が限定されている。


「俺としては信じたいが…二人が疑念を抱くのは仕方ねえ」


 目を瞑り抑揚なく言うティキアから感情を読み取ることは出来ないが、胸中は複雑に渦巻いているだろうな。

 思い入れのある存在に悪い印象を持たれるというのは。。


「ーーでも、審査の話って別に秘密にされてたわけじゃないですよね」


 湿っぽい空気を払拭するかのように、明るく意見を述べるシルム。


「ギルドって依頼の処理とかで人手は多いらしいですし、誰にでも知る機会はあるんじゃないですかね。私の想像でしかないありませんけど、まだ調べて前だから気に病まなくていいと思います」


 俺よりも年上であるティキアに対し、滔々と持論を並べる。

 見た目は少女そのものなのに、その語り口は相手にうんと言わせる説得力を伴う。

 

 俺もシルム説得に賛同だ。

 ティキアは簡単に信じるお人好しではなく、彼が親しくする相手が悪事に加担しているとは考えにくい。


 らしからぬ姿を初めて見たティキアは、目を瞬かせ驚きを隠せないでいる。 


「シルムの嬢ちゃんはあんな目に遭ったのに、落ち着いてるな」

「あんな目といっても、下がって見てただけですから」

「それはそうだが……嬢ちゃんの言う通り悪い方向に考えず、信じるべきか」


 平然とした態度に感化されてか考えを改めるティキア。


「そうです。信じましょう、裏切る真似なんてしないって!」


 シルムは満足そうに、にっこりと純粋で輝かしい笑顔を浮かべる。

 ……何故だろう。

 傍から見ている俺は関係ないはずなのだが、どうしてか他人事に思えない。


「励ましてくれてありがとな。さて…話を戻すか。他に分かることといえば、複数の人間が犯行に関わってる、か」

「どうしてそう思ったんです?」

「そりゃあ、高ランクの魔物をあんだけ従えてる上に、道を塞いだり気配を消したりと、およそ一人で成し遂げられそうにないからな」

「そっか。普通はそうですよね」


 納得を見せつつ、チラッとこちらに一瞥を向けるシルム。

 今のは…俺なら実現しそうってことか?

 可能かどうか問われると…答えは正直わからない。


 魔弾で魔物の使役を試したこともなければ考えたこともなく、今後もその予定はない。

 

「厄介なのは間違いないが…正体どころか目的すら掴めないとはな」


 いつもの調子を多少取り戻したティキアだが、芳しくない現状にまだ硬さが残っている。


「こっちから仕掛けたり出来ないし、帰りは遅くなるし…ほんと目障り」


 対するシルムはただただ面倒そうにボソッと不満を吐き捨てる。


「…嬢ちゃん?」

「あっすみません、つい本音が」

「別にそれは構わねえが…漠然としてて目処が立たないから、不安にさせちまうかと思ってよ」

「え、私にはお付きの方が付いてるので平気ですよ?」


 真っ直ぐな瞳で「何を言ってるんですかティキアさん」と言いたげに、当然のように言い切る。

 一片の疑いも抱いてない絶対的な信頼を感じる。

 シルムに危機が迫れば力を尽くすが、期待の度合いにちょっとした重圧を覚えそうだ。


「はは、そうだな。お付きがいれば足取りを追えない相手でも……ん?」


 思わず笑みを溢したティキアは、自身の言葉が何か引っ掛かったのか、


「そういや…前にギルドに寄せられた被害の話で、似たような事件があったな」

「本当ですか?」

「ああ。襲われたのはいずれも商人なんだが、いくら調査しても一つの痕跡も見付けられず、犯人を特定出来ず終いってのが何回か。最近は起きてなくて思い出すのが遅れちまった」

「商人…ですか」

「そこなんだよな。これまでとは標的が違うのがどうもなあ…護衛の依頼に就いてるならまだしもーー」

 

 疑問を口にするティキアを余所に、俺とシルムの意識は別のところにあった。


『センお兄さん…』

『シルムが想像している通りだと思う』

『やっぱり…』


 ティキアはどうか不明だが、俺たちには商人であるクランヌと共通の関わりがある。

 仮に今回と前の襲撃が同一犯によるものだった場合、それが示す意味は…。

 標的は俺かシルム、もしくはその両方。 

前書きにもある通り、前話の内容を変更しています。

混乱させてしまったらすみません。


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