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88 散弾

読んで下さりありがとうございます。


 駆け出すティキア。

 魔法に興味津々で前のめりなシルムに微笑ましく『後で話すよ』と伝達。

 それから、俺が担当する魔物の群れと対峙する。


 空間を縦横無尽に編む光線が及ぼした損害と脅威により、勢いを失した魔物の群れはその場に留まった。

 

 でも戦意は挫けていないようで、俺たちが意思疎通してる間も警戒と敵愾の視線を感じていた。

 向き直ると同胞を倒された怒りか己を奮い立たせるためか、体を広げたり搗ち合わせたりと威嚇行動を始め。

 欠けることなく同調して一つの大きな敵意となり、顕著な抗戦の姿勢。


(撤退する気はない、か)


 さっきのミラー・ディスラプント…あれはティキアに力量を示すのが主だったけど、分が悪いと思わせてあわよくば退かせる、なんて思惑もあった。

 過度で不可解な災いに見舞われた物証はもう十分に数が揃っているし、その方が手間を省ける。

 

 しかし期待通りとは行かず、こちらを標的と定め戦意を滾らせる魔物たち。

 勝機が薄くなっても攻撃を仕掛けてくる魔物は普通にいるが…果たしてこれは本来の意思による判断なのか?

 

 …まあ、向かって来るなら応戦するだけ。どのみち時間をかけるつもりはない。

 事が起きた以上は早急に解決に当たる。

 

「「「!」」」

 

 俺が攻勢に出ようとするのを感じ取ってか、魔物たちはティキアのときと同様に先んじて針と杭状の岩、それに乗じて別の魔物が地を蹴り接近戦に持ち込もうとする。

 だがこの流れも既に目撃済みで、予測するのは容易。


 『コール』で両手に「相殺」を込めたハンドガンを持って構え、迫る多数の凶器に向けて連続でトリガーを引く。

 狙いが直線で変則的ではないため、迎撃は軌道に合わせて同じ数の弾ぶつければいい。

 さらに追加で数発、攻撃態勢に移っていた魔物へ牽制を放つ。


 結果を見届け終わる前に手を開いてハンドガンを落下させ、すかさず入れ替わるようにして新たな銃を両手に携える。

 


 弾倉と機関部がグリップの後部、銃床に備わる変わった形状。

 付いている消音器を外した状態の、射出口付近は内径が僅かに小さくなっているーー所謂チョークという絞りによって。

 チョークは弾の拡散範囲と飛距離を調整する役割。


 つまり俺の持っている二丁は散弾銃…ショットガン。

 

 筒状の弾薬に大量の弾丸を込め、発砲すると一斉に放射状に広がる。一部を除き至近距離で力を発揮。

 散弾の大小と数は弾薬の種類次第で、物によっては数百発入っていたりする。

 この両方のショットガンには30粒入った弾薬が装填されており、連射可能。



 一方、迎撃に放った弾丸は目標と引き合うようにして飛び全て命中。

 消失と引き換えに破壊し、足止めも成功する。

 

 撃ち落とされるも新しい得物を手にした俺を止めるため、前衛が猛然と迫っている。

 彼我との距離は10メートルにも満たず、この魔物たち相手では肉薄は瞬時。

 が、こちらは既にもう引き金に指を掛けている。

 

(この間合いでは命取り…)

 

 タァン!!


 本来ならそんな銃声が重なって響くが、現実では静かに火を吹き、視認の困難な鉛玉が空間にばら撒かれる。

 続け様、出来るだけ巻き込むよう上下左右に銃の位置を変えながら人差し指を動かす。

  

 必然的に詰めて来ていた魔物は身の大部分で浴びることとなり、衝撃で飛びかかろうとした勢いが殺され、後方の上や隙間から狙おうとする第二射も阻止。

 ただ、散弾は一時的な制圧はしたものの食い込まず体の表面に留まり、絶命どころか大した外傷すら与えていない。

 

 しかしーー被弾した魔物のほとんどはもう、活動が出来なくなっている。

 着弾箇所を起点にじわじわと広がる青白に蝕まれ、体が凍り付いて行ってるから。

 全身染まって氷像と化したり、一部だけで済んだりと進行の度合いに差はあれ、自由が利かなくなっている。


 俺は足を曲げてその場で跳躍、天井付近の高さで射線を確保。

 空中にいて格好の的ではあるが、数を削られた相手に為す術はない。

 残りの標的へと銃口を向け、鉛雨を満遍なくお見舞いする。


 降り立つ頃には氷の祭典が出来上がっており、俺はーーショットガンを仕舞い踵を返す。

 後ろで静観していたシルムが立ち並ぶ像を指す。 


「あれ、放っておいていいんですか?」

『止めは刺さなくても、もう終わってるから…そろそろか』


 伝達を飛ばし、顔だけ振り返った直後。

 ピキッ、パキッと割れる音が各所で連続して発せられ。

 

 パリーン!!


 一際大きい音になって砕け行き、破片で辺りの地面が覆われる。

 もとは魔物の一部だったそれらは内側まで凍て付いている。


 『凍結』『侵食』『衝撃』

 弾薬に付与されている3つ。


 弾着によって発生する『凍結』を『侵食』によって隅々に至らせ、遅れて脆くなった所を『衝撃』で力が加わり敵を破壊する。

 弾を多く受けた魔物は、そのぶん亀裂が多く走り原形が分からない程。 


 実際のショットガンは集弾によって生じる高い威力が売りだが、魔弾と組み合わせることで一粒一粒に殺傷力を持たせられ、多少距離があっても一定の働きをしてくれる。

 なので、こちら側に来てからはチョークを付けても広範囲での運用が基本。

 

 ある程度の狙いを付ければ巻き込んで殲滅可能な魔弾ショットガンは、はっきり言って最強。

 ただそれは、コストを度外視した場合の話。

 他の銃と違って使用する弾が多いせいか、付与するときの魔力が嵩むので乱用は厳禁。


 生き残りがいないか確認して顔を戻すと、シルムの表情がうっとりとしたものに変わっている。

 

「ああ…やっぱりセンお兄さんは素敵です…」

『褒めてもらえるのは嬉しいけど、過剰じゃない?』

「いえいえ私、何だか震えて来ちゃいました…って、これは寒さのせい…?」


 自分の体を抱いてプルプルとするシルム。

 言われてみれば多量の氷によって冷涼な空気が漂っている。

 軽装で温度変化に慣れていない彼女には差し障りだったか。


『すまない、配慮が足らなかった。今ローブを出すから』

「それも悪くないですけど…こうしちゃいますっ」


 革袋に手を入れる俺を余所に、近寄ってきたシルムが腰回りに抱き付いてくる。


「はあ〜、あったかい…」


 ホッと心底落ち着いた様子で脱力。

 思わず呆れ顔になりそうだが、任された片面は全うしたからいいか……いやいや。

 もう一方を担当のティキアはまだ戦闘中、必要なら援護をーー


「…やっぱりか」


 大群相手に立ち位置を調整しながら、目前の魔物を長剣で斬り捨てるティキアがそう口にする。

 連戦にも関わらず彼は無傷のまま順調に数を減らしている。


「最初は気のせいかと思ったが、普段より魔力の消費が緩やかだ…そうだよな! お付きーー」


 戦いの最中。

 僅かに余裕を作り、振り返って尋ねてくるティキアは、シルムが俺に巻き付いた状態を見て固まる。

 

「…何してんだ? っと!」


 尤もな突っ込みを入れた隙を狙われ、既のところで弾いて押し返し難を逃れる。

 締まりの悪い格好を見せて申し訳ないと思いつつ、二度見に対しコクコクと頷いて先の質問に肯定。


 俺が魔力供給の他に仕込んでおいたもう一つは『魔力軽減』

 持続的な魔力消費を半減してくれる。

 説明がないと供給の影響で分かり辛いが、感覚で理解したようだ。


「…まあ、全開で行っても問題ないってことだな!」 


 ティキアは向き直り、色々と吹っ切るように威勢よく言うと、全身に半透明の黄色纏う。 

 瞬間ーーただでさえ早い彼の動作が加速。

  

 詰め寄っていた魔物を刹那に一掃すると、突撃。

 一切の反撃を許すことなく次々と接近し両断。

 あまりの速さに魔物たちは残像しか捉えられない。


(これが万化の全力…)


 全身を覆って以降の勢い、まるで電光石火。

 あの能力は身体強化も兼ねているみたいだ。

 そんな中でも太刀筋を損なわず綺麗な剣技のまま。


 向かう所敵なしのティキアは、程なくして群れを全滅。

 その後も警戒を続けるが、今度は何事も起きないまま。

 どうやら、終わったようだ。


「ふぃー…一先ずお疲れって感じだな」


 能力を解いて剣を収めたティキアが合流。

 俺たちの後方と未だに抱きついたままのシルムを一瞥して苦笑する。


「たく、これの何処が嬢ちゃんのオマケなんだよ。俺いらなかったんじゃねーの?」


 冗談めかして言うが、俺はそんことはないと首を振る。

 

 応対する敵の数が増すほどに、比例して意識を割く必要がある。

 ティキアが片方を引き受けてくれたからこそ、もしもの時に備える余裕が確保できていた。

 やっぱり仲間というものは頼りになるな…。


「そうか…んじゃ、共闘の祝勝ってことで」


 スッと右手を挙げるティキア。

 意図を理解した俺もそれに倣い、


 パンッ!


 洞窟に小気味いい音が響き渡った。


映画やゲームで銃を使ってドアを開ける場面をよく見かけますが、ハンドガンやライフルだと跳弾の恐れがあり、ショットガンでは専用の弾を用いるそうです。



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