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8 成立

 場所は戻って台所。

 昼食で使った食器を流しで洗うのを手伝っている。

 数十人分だけあって量も多いので、いつもは誰かと一緒に食器洗いしているらしい。

 今回は頼み事の話ついでに手伝いを名乗り出た。

 

 下水道は設備されているが、蛇口は無いので魔石を使った魔道具で水を出している。

 多すぎず少なすぎず、水は一定の量に調整してあり、工事する必要もないし蛇口よりこっちの方が使い勝手がいいかもしれない。

 昨日風呂場でもあったが、洗剤の代わりに石鹸を使用。


「それで、お話とはなんでしょう?」

「単刀直入に言うと、君に戦ってほしい」

「・・・はい?」


 思わず作業の手を止めて固まってしまうのも無理はない。

 発言の内容もさることながら、相手は戦いを生業にしているわけではない。

 しかも、年端も行かない少女に頼むのは理解が及ばないだろう。


「細かいこと今から説明するよ」




「つまりセンお兄さんは注目されたくなくて、私に間接的に色々動いてほしいってことですか」


 硬直から復帰したシルムは皿洗いを再開し、説明が終わる頃には多かった食器も全て水切り場に収まった。

 まだ全てを話すには流石に早いので、一部のことは省いてある。


「その解釈で問題ない」

「んー、素質があると見込んで貰ったのはいいですけど、時間的に厳しいと思います。家事の方を疎かにすることは出来ないですし、確保できる時間は1~2時間になっちゃいます・・・」


 ぶっ飛んでいるスキル持ちでない限り、ギルドで大成するのは10年近く要すると言われている。

 しかし、イレギュラーが二人もいるのだから時間の点はそんなに問題ではない。


「時間はそれだけあれば何とかなる。それよりも俺は戦うのが嫌だと言われると思ってた」

「魔物の脅威がある以上嫌とは言ってられないのが現実です。魔物に襲われて親を無くした子もいますから」


 自然の一部である魔物の災禍に巻きこまれるのはいつか分からない。

 そんなご時世、戦う術を持っておいて損はないという認識か。


「あと、いつか名が知れ渡って周囲から見られることになると思うけど・・・それは大丈夫?」

「ああそれでしたらもう私、ある意味有名ですよ。今日ここに戻って来る道中、私たちを避ける人いたでしょう?」


 確かに俺らを見た途端、妙に距離を置くやつがいたが、道を開けてくれたのではなく、避けていたんだな。


「一度ナンパ目的で来た人に、センお兄さんに言ったのと同じことを伝えたんですけど、いつの間にか話が膨らんで『あの少女のバックにはヤバイのがいるから下手に関わらない方がいい』という噂が流れているようで・・・」

「それが原因で、悪目立ちしてるのか」

  

 苦笑いで頷くシルム。

 言葉は難しいもので話し手の意図と異なり、事実と違った内容が伝わってそれが風評に繋がる。

 というか返ってくるのは否定的どころか、割りと前向きな反応のように感じるが・・・


「えっと、俺の頼み事嫌じゃないのか?」

「やっぱり戦えた方がいいですし、生活には困ってはいませんけど、お金があった方がいろいろ出きることが増えますから。さっき言ったように余り時間は取れないので期待に沿えるか分かりませんけどねー」

「そうか・・・では、君の力を貸してくれ」

「こちらこそ、これからお願いします。」


 こうして仲間になってくれたシルム。

 あくまで対等な関係なのだから、頼りすぎたり無理させないようにしないと。

 まずは、ある程度戦える力を付けてもらうとして・・・

 

「とりあえず、いつから始めようか?」

「んーと、今日は子供たちに一緒に遊ぶ時間が減ることの説明とかしておきたいので、明日のこの時間くらいなら問題ないです」


 明日からだって?

 俺としてはとても助かる申し出だが、そんな急ぐような話でもない。


「早くないか?数日空けてからでも・・・」

「センお兄さん」


 な、なんだ・・・?

シルムの表情が真剣な顔に一変して、それに加え心なしか雰囲気が、刺すような圧力を漂わせている。

さらに据わった赤目が拍車をかけている。

その圧を受けて自然と姿勢が正しくなってしまう。


「私とセンお兄さんはもう一蓮托生と言っても過言ではありません。ですから変に気を使ったりしないので、センお兄さんも同じようにして下さい。いいですか?」

「あ、ああ・・・分かった」


 やんちゃ組を相手にしているお姉さんだけあって、叱る姿が様になっている。

 今回で、シルムを怒らせると後が怖いと判明したので、情けない話だが気に触らないようしよう、うん。


「それでは、これからと約束の意を籠めて・・・」


 スッと右手が差し出される。

 なるほど、この手を取った時、先ほどの誓いを合わせて、口約だけではない二人の関係が成立する。


「ああ、これからよろしく」


 意思の強さを示すように、俺はしっかりと握手を交わした。

 


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