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83 推量

読んで下さりありがとうございます

「やあああ!」


 声を上げ威勢よく飛び出すシルム。

 道の先にいる魔物たちがそれに反応、臨戦態勢を取る。

 

 向かってくるシルムに対抗して先頭の魔物が駆け、体当たりによる突撃。

 それをシルムは引き付けて体を逸らして避けると、無数の光の粒が集った掌を魔物の側面に添える。

 瞬間ーー粒が一斉に弾け、魔物を吹き飛ばし壁へと衝突。


 そのまま倒れ伏し、間を置かず一組の魔物が襲いかかる。

 一方は噛み付き、もう一方は空中から接近。

 

 シルムはさっきと同じ要領で即座に対応。

 躱して魔物の横に位置付けると、今度は光が点々と浮かぶ掌を斜め下にやり、発動。

 勢いよく打ち上げられ、攻撃に移行しようとした空中の魔物を巻き込み天井へ激突。 

 

 残りは後方で宙に控える二匹。

 

 魔物は駆け寄る敵に対し、同時に口から液を飛ばし迎撃を試みるが、シルムは踏み込んで離脱。

 そのまま魔物を追い越して互いに背中を向けた構図になり、その場で跳躍するシルム。

 ダガーを手にすると魔物たちより先に反転して振り抜き、二匹を背後から一閃。


 シルムが着地、次いで二つの落下音。

 それから仕留め損ねがないか、後続がないか確認を済ませると、


「さて、回収回収〜」


 やにわに語尾高く、いそいそと魔石の取り出し作業を始めるシルム。


 遭遇したのは鋭い前歯を持つラットに、翼と鋭い爪を備えたバットの組み合わせ。

 どちらもEランクに分類されており、複数を相手にするのは手こずる…と思いきや、円滑に危なげなく撃破。

 

 攻撃を空振りさせて出来た隙を突き、危機を察知したらそれに合わせた行動。

 相手をよく見て狙いを潰す上手な対処だった。

 まだ実戦は少ないというのに早くも順応しつつある。

 

「…想像してたのより数倍、手際がいいな」


 閉口して成り行きを見ていたティキアが、呆けたような口調で述べる。


「普段から捌いてますからね、慣れたものです」

「いや、解体もそうなんだけどよ、身体強化にさっきの……えーと」

「フォンプですか?」

「そうそう」


 名前が出てこないティキアに、作業をしつつシルムが答える。

 フォンプとは、シルムが魔物を吹き飛ばしていた魔法の名称で光初級。

 光の粒子を集中させ、それらを同時に解放することで衝撃を発生。


「あと斬りに行くときの身のこなしといい、全体的にこう…馴染みすぎてんだよな。とても駆け出しとは思えない」


 まあ、そういう見解を持つよな。

 シルムの動きを観察していると粗がいくつか見受けられ、まだまだ改善すべき点は多いが、そこに初心者特有のたどたどしさはない。 

 活動を始めて間もない素人だと断じるのは、俺がティキアの立場でも無理な気がする。


 最近の訓練では運動面に注力してはいたけど、相変わらず物覚えが良い。


「それはその…短期間でみっちり、色々と仕込まれたので…」


 手を止めてぽっと頬を赤らめ、流し目をするシルム。

 …どうしてそこで言うのが恥ずかしいような雰囲気を醸し出すのかな? 

 まるで疚しい要素があるみたいじゃないか。


 魔法、技術などシルムに話してきた内容が多岐にわたるのは事実だが、後ろ暗い言動をした覚えはないぞ。


「そ、そうなのか」


 ほら、ティキアが何か察した表情になって触れるのはやめとくかってなってるから、勘違いされてるから。

 そんな内心の抗議と、伝達を送ってみるも訂正する気配はないまま。


「なので紛れもなく、少し前までは戦えない普通の女の子でしたよ」

「え」

(え)


 続いて発せられた言葉に、俺とティキアの反応が被る。


「…二人して何ですか? 私の言ったことが意外みたいに」


 歩み寄って来て、俺たちに向けて文句でもあるのかと圧を秘めた視線。


「あー…普通、普通…ねぇ」


 言い淀むティキアに無言で圧を強めるシルム。

 ティキアが今、どんな心情でいるかだいたい察せられる。


 魔物にあんな突撃をかましておいて普通と言い張るのは無理がある、と。


 彼のようにギルドへ通い詰めて長いとかなら、特に疑問を抱かないのだが…活動が短期間には合わない勇敢ぶり。

 それにシルムは当然のように魔法を行使してるけど、行使できるということはすなわち、過度な不安や恐怖などによる精神の乱れがなく、安定していることを物語っている。

 さっきティキアが言った手際がいいというのは、葛藤を挟んでないことも含めてだと思う。

 

 目覚ましい働きをした以上、洞窟の暗闇に対する一幕と同様、主張は諦めるしかないな。


「って、二人してとは言うが、俺はまだしもこっちは何も発してないのに、どうして分かるんだよ」


 ティキアが俺の方へ視線を向けて論を展開。

 いいところに気が付いたなティキア。


 俺はフードで表情が隠れていて外部から読み取るのは無理に等しいのに、俺たちに対して問い質そうとするのは不自然。

 以前からシルムは心を読んでいる疑惑があるので、ぜひ突っついてやってほしい。

 話をすり替えた時点で普通じゃないって認めてるようなものだけど。


「へ? えーと……それなりの付き合いなので察しが付くだけですよ!」


 視線を彷徨わせ、さもこの場で思い付いたような言い分。

 

「ほーん、なるほどなあ」


 全く真に受けていない口調で応じるティキア。

 その軽薄さにシルムは眉間に皺を寄せ、悔しそうな表情を作る。

 切り返しが上手く決まり、これで解明に近付くんじゃないかと期待を抱いたのだが。


「一つ、気になったんですけど」


 今度は、落ち着きを取り戻したシルムの方から新たな切り口。

  

「ここまで遭遇した魔物、見た感じ素材には不向きで、倒しても儲けとしては微妙そう…」


 静かに紡がれる言葉に、段々とティキアの表情が硬くなって行く。


「もしかして審査といいつつ、ついでに駆除してもらおうなんて側面もあるんじゃないですか…?」


 シルムの鑑定眼の通り、今のところ魔石を除いて売却可能な物は皆無。

 ギルドで稼ぐなら素材は重要であり、依頼の行き先や目標次第では、書き記された報酬に加え日銭を多く得られる。

 

 そう踏まえた上で、この洞窟指定で張り出されていた場合、手に取る人間がいるのかというと、確かに怪しい。

 だからいいように使われているんじゃないかと思ったのか。

 シルムもシルムでいい目の付け所をしている。

 

「いや別に、そんなこと…ねえよ」

「その反応…やっぱり」


 否定をしながら正直にもティキアは目を逸らす。

 倒してもらって、審査も済んで一石二鳥。

 どうやら本当にその意図もあったようだ。

 

 これで強気には出れなくなった…が、それより腹の探り合いが続いて膠着状態になってしまっている。

 もう進展は望めそうにないから…しらーっとしているシルムに取り出した布を突き出し、倒れた魔物の方を指差す。

 差し出された物を見て、指先の方を見ると、シルムは我に返った様子で、

 

「…そういえば途中でしたね。すみません、ささっとやってきます!」


 頭を下げ布を受け取り、走って作業に戻る。

 追及から免れてティキアはほっと息を吐く。


「わりーわりー。俺も弛んでた」


 頭に手をやって謝罪をしてくるが、首を振り返す。

 こちらも興味があってすぐに止めなかったからな。           


 

 その後、回収を終えたシルムから魔石の入った包みを預かる。

 ギルドでは、御者などに素材運びを頼むのは一般的らしく、荷物持ちが認められている。

 審査中でも例外はなく、いつも通り俺が持ち運ぶ手筈。


 仕舞い終えたら隊列を組み直して審査の再開。

 ティキアが知っている所定の場所を目指して進む。 


 先程のやりとり…少し気になったのは、最後のシルムの押しがいつもより控え目だったような。

 俺を問い詰めるときはもっと、確証がある自信に満ちた物言いなんだが…。


 まあ、ティキアとは初対面だし些細な違いだろう。

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