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7 苦労人

「そういえば、どうしてこんなに大荷物なんだ?」


 少女ーーシルムとは軽い自己紹介済ませ、随伴してある程度たったところで、感じていた疑問を投げかける。


「元々多く買うんですけど、商店街の人たちがたまにおまけしてくれるんですよ。それが重なるとこうなっちゃいます」


 困った様子ではあるが、そんな中にも親切にされる嬉しさがある雰囲気。

 周りの人が好意的なのは、シルムに徳望がある証拠であろう。


「せっかくのサービスを無下にすることはできないよな…こういうことは初めてでもないだろう?」

「これまで数回はありますね。友人が手伝ってくれたり、道中にある人の家に一時的に荷物を置かせてもらったりしてどうにか…」


 話をしながらもそこそこの距離を移動したが、まだ目的地に着く気配はない。

 かさばるなら買い物を2回に分けてすればいいと思っていたが、往復するのにも時間がかかるみたいだし一度に済ませてしまいたいのも分かる。


「にしても、シルムって割とパワフルだな」

「ええっ!?私そんなに筋肉質じゃありませんよ!」

 

 心外だと言わんばかりの大きいリアクション。

 彼女は逆に細い方だし、俺もがっしりしているとは思っていない。


「ごめん、言葉足らずだったか。シルムは華奢なのに見かけによらずってことを言いたかったんだ」


 もはや常人の域でない身としては、これを運ぶのはなんてことは無いが、鍛えていない女性…ましてや風貌が少女のシルムには負担が大きいはずなのだが、彼女は筋力が平均の上を行っている。

 

「私の早とちり…普段から物を運ぶから、それのおかげかもしれません」


 鍛練しようと思っていなくても、日常的に身体を使って作業などするとステータスは上がるには上がる。

 とはいえ上昇値は知れているので、効果はあまり期待できないのが普通。


(”あれ”が及ぼす影響がそれほど…)


 シルムには平均の上を行くステータスの中で、異様に高いものが一つだけある。

 それを含めて彼女の所有するものが強力であるという証明になる。


(力を貸してくれれば百人力なんだがな…)




「着きました!」


 会話しつつ数十分かけて辿りついたのは、住宅地とは離れたところにある、小さい公園のような広っぱと、一階建てだが規模のある住居。


 運動スペースで遊ぶ複数の子供たち。

 これだけ大人数だといろいろと物入りなのも頷けるが、この建物は民家ではなく公共施設じゃなかろうか。


(……児童養護施設?)

「あ、シルムお姉ちゃんだ!」


 シルムの存在に気がついた子供たちがみんな駆け寄ってくる。


「シルムお姉ちゃん、おかえりなさーい」

「今日のお昼はなぁに?お腹ぺこぺこー」

「シルムお姉ちゃんが男の人連れてる…あ!もしかして」


 シルムに対し、各々矢継ぎ早に質問をする。

 子供たちの反応を見るからに、シルムはお姉ちゃんとして慕われてるみたいだな。

 数十分の付き合いだが、言葉の端々から気立ての良さが伝わってきたし、人となりが立派なのだろう。


「みんなただいま!お昼はすぐ準備出来るから楽しみにしててね。この男の人はセンお兄さんといって、荷物持ちのお手伝いしてくれただけだから変な勘繰りはダメだよ!」


 動じることなく手慣れた様子で、複数の対応をこなすことに感心する。

 苦労人だからこそあのステータスが妙に伸びているわけか。




 建物内の勝手口に通され、テーブルの上に荷物を置いて手助けは完遂。

 ここまで来る間に、建物の中を少し見たが共用スペースばかりだったので、やはり孤児院なのだろう。


 シルムに駄目元で仕事の件を頼み込もうと考えているが、今から昼食の時間のようだし、出直すついでに俺も済ませてくるとしよう。

 その旨を伝えようとーー


「センお兄さんはお昼食べちゃいました?」


 ーーしていたのだが先を越されてしまった。

 ちなみに"センお兄さん"と呼ばれているのは「センさんだと数字みたいになってしまうので、センお兄さんでいいですか?」という提案が元になっている。


「今から済ませに行くつもりだよ」

「ならちょうど良かったです。荷物運びのお礼にご馳走します」


 話したいことがあるし、招待されるのはありがたいんだが、相手の置かれている環境を考えると手放しに受けれない。


「貸しを作るために手伝ったわけじゃないから、返しはいらないよ」

「遠慮しないでくださいよー。みんな育ち盛りだから下ごしらえは多めにやってありますから」

「いやいや、気にしなくていいから」


 渋る俺を見て、シルムの表情は分かりやすく不満顔になる。


「センお兄さんが良くても、私は良くないです。受けた恩は返さないと気がすまない主義なんです」


 俺も似たようなものだし、その感覚は分かる。

 家族や親しくもない人に、無償で何かしてもらうのはなんだかもどかしい。


「それとも…私たちと一緒に食事するのは嫌でしたか?」


 む…そう言われてしまうと弱い。

 しかも計算的でない、純粋な子に目を伏してしょんぼりされてしまうと、とても心が痛む。

 あえて孤児院のことに触れずに、やんわり断ろうとしていたが誤魔化しはきかないか。


「正直なこと言うと、誘ってくれるのは嬉しいけど、無理にお礼してもらうのは忍びないんだ」

「お気遣いして貰ってあれなんですけど、それはいらない心配ですっ。生活するのには困ってないですし、みなさんからの贈り物もありますから」

「これで心置きはないから、いいですよねっ?」


 彼女が大丈夫なら異論は無い。


「うん。是非ともお願いします」

「はい。美味しく仕上げますからね♪」


 先ほどの曇り顔が嘘だったように、転じて晴れやかな笑顔になってくれてほっとした。


 彼女の宣言通り、素材の味を活かした料理は味わい深く、美味しい料理に子供たちも自然と笑顔になって賑やかな昼食として終わった。

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