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6 散策

 人々の活動が盛んになり始めた時間帯。

 動きやすい服装の上から緑のローブ。

 いつものスタイルに加え今はモノクルを掛けている。

度は入っていない伊達メガネなのだが、ただのモノクルではない。


 鑑定の効果が備わっており、このモノクルを通して見ることで、対象の情報を得ることが出来がるが、限られたものしか見れない。

 魔物にも使用はできるがランクを知ることはできず、あてにすると痛い目を見ることもある。

 レベルという概念は無いようで、知り得るのはステータスと能力のみ。

 この辺は前の世界と変わりない。

 今、間接的に働いてもらう人材を探している最中。


 希望としては潜在能力を持っていて、俺が提示する条件を飲み込める人。

後の事を考えると実力を付けてもらった方が都合がいい。


(戦える人の方が楽だが…)


 そういうのはパーティ組んでいたり、名が知れていることもあるので厳しい。

 道行く人の多い商店街で張り込んで観察しているものの、良材と呼べるのはそうはいない。

 中には目を引かれるステータスを確認したが、その持ち主はパーティと思われる複数人と行動または、周囲から注目されている。


 人が代わる代わるやってくる商店街でこのまま張り込み続けて見出すのもいいけど、国内の散策をしてマッピングしておいたほうがいざと言うときで困らない。

 東と北には行っていないので、まずそっちの方に向かうとして、細かいところは後回しかな。



 東の方にやって来ると、建物の煙突から立ちのぼる煙、積まれた資材に運搬する人。

 作業衣なのか厚い素材の服で身体を覆っていて、一部薄汚れている。

 視覚から得られる情報から読み取るとここは工業区域。


(となると煙が立ってるとこは鍛冶屋とかかな)


 辺りに工場特有の機械の稼働音はしていない。

 そもそも発明されているかも分からないが。



 それから少し周囲を回ってみて、他にあったのは倉庫くらいで特に目立ったものは見つからず、ここで打ち切って次に行くとしたら北の方なのだが…だいたいの見当はついてしまう。

 ここが王国であるならば、それたらしめるものが存在しているわけで、まだ一度も目にしていない。




 北上してくると路地の突き当たり、そこを曲がって壁伝いに移動。

 すると最近見たものと類似した風景に出くわす。


 大門と配備された鎧装備の門番。

 ステータスは高く、最初に会った門番のクストスには悪いが格が違うように感じ、鎧には紋章付き。

 推測通りここを抜ければ上流階級の境域であろう。


(関わるのは御免だな)


 勧誘と触手を伸ばす各国から跡をくらます日々を思い出し、同じ轍は踏まないと改める。

 あまりジロジロうろうろしていると不審に思われるので、この場を離れるとして、何処に行くかは動きながら考えるとしよう。




 さて、そろそろ昼時になるので、最終的には商店街の方に舞い戻ってきた。

 そのついでに中央の方も少し回って、どうやら中央はギルドをはじめとした公共施設が建ち並んでいるようだ。

 行っていないところまだまだあるが、だいたい把握したので散策はこれで十分であろう。


 昼食などを抜くことがよくあったので二食以下でも十分だが、現状別世界の食べ物に興味が湧いている。

 屋台や料理店を見ながら、どんな系統のものを口にしようか思考巡らせているとーー


 視界の端に、覚束ない足取りで歩く少女の姿を捉える。

 不安定の原因になっているのは、両手に大きく膨らんだ手提げを持っているせいか。

 今にも、というほどではないが何れバランスを崩してのめってしまいそうだ。


 見てるこっちが不安になってくる。

 頗る面倒なことであれば無視するが、これを無かったことにするのは流石にしない。

 余計なお世話かもしれないが手助けに入るとしよう。


「手伝おうか?」


 近寄って声をかけると少女は立ち止まり、無言のままこちらを向く。

 そのままじーっと見つめてくるが、一瞬だけ目が見開かれたような…?

 こちらのことを推し量ろうとしているのか、ただただ警戒しているだけなのか。


 どちらにせよ、こういう時は下手に視線を彷徨わせたり不自然に振る舞わず、恬としておくのが最善であろう。


 少女に動きがあるまでおとなしく待つとするか。

 ん?よく見るとこの子ーー


「じーっと見てごめんなさい…気分を害してしまいましたよね」


 おっと、ちょっとした発見があったが今は置いておこう。


「いや、いきなり来たのはこっちだから気にはしていないよ」

「それなら良かったです……友人の子に疚しい気持ちで近づいて来る人もいるから、簡単に信じないようにと約束していているんです」

「なるほどね。じゃあさっきの行動もそれに関係してるのかな」


 人のほとんどは自分に利益が無いと行動しないのが現実。

 かくいう俺も目に見えて厄介なことであれば手を出さないし、今回は純粋に少女の力になりたいと思ったわけではない。


「そうです。後ろめたいことがあると目をそらしたり、振る舞いが不自然になることがあるからよく観察するようにと教わりました」

「いや…まあ、うん」


 この子に見詰められたら、その気がなくても人によっては動揺してしまいそうだ。

つぶらな大きい赤い目に、肩口の少し下まで伸びるセミロングの茶髪。

 愛嬌のある顔立ちで、あどけなさが残っているが将来は美人に成長することだろう。


「その点お兄さんは大丈夫ですね。あ、あと一つあるんですけど、いいですか?」


 申し訳なさそうな表情の少女。


「それは構わないけど…とりあえず片方だけでも持つよ。両方でも構わないけど、君に沿わなかったらすぐ返すから」

 

 俺と相手をしている最中でも、両手に持ち続けているので間違いなく負荷がかかっている。

 地面に置けば楽できるだろうが、そうしないのは手提げを汚したくないのか、はたまた別の理由か。

 事情は不明だが、少女がそうしない以上はその意向を尊重する。


「では、お言葉に甘えて片方だけ…」


 差し出された荷物を受け取ると、彼女は片手から両手に持ち替えた。

 多少余裕が生じたのか、先ほどよりも少し高めに持ち上げている。

 これで危な気は取り除けただろう。


 少女に話の続きを促すつもりで、頷きかける。

 意図が伝わったのか、納得したように頷き、口を開く。


「もう一つは、外面を取り繕うのが得意な人もいるから、釘を刺しておきなさいと言われてですねーー『不当に手を出した暁には報復は免れない』ーーとのことです」

「ああ…そういうことね」


 この子の友人がこれだけ豪語するということは、その自信を裏付けするようなものを有しているわけだ。

 しかし対象となるのは狼藉を働いた場合であって、その気が1ミクロも無い俺には当て嵌まらないから考慮しなくていい。


「言いたいことは以上になります。それで…これでもお手伝い願えますか?」


 顔に憂色をたたえ、上目遣いで尋ねてくる。


「もちろん手伝わせていただくよ」

「そうですか…!改めてよろしくお願いします」


 そう言ってお辞儀をして顔を上げた少女は、顔を綻ばせて可愛いらしい笑顔を見せてくれた。

熱中症もそうですが、台風が近づいているようなのでご注意を。

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