5 シーメー
空が白け始めるころ、俺は起床する。
いつからか忘れたが、早起きするのは前からの習慣。
格闘術、短剣の型の確認に加え銃の整備、弾丸の装填や特殊弾の製作。
異世界に来てから銃の整備は不要になったが、弾は使用した分しっかり補充しておく。
マガジンを丸ごと替えてしまえば済むことだが、それでは味気ないというか名残で、弾は一つ一つ込めるようにしている。
銃で全距離対応可能なので、格闘と短剣の感覚が鈍らないよう、流れに沿って体を動かすのだが、このまま動き回ると五月蝿くなるので一工夫。
(無属性魔法『空間創造』)
魔法によって生み出される立体空間で、スペースは広めに1キロ近くある。
外部から干渉するには特異な者でなければ不可能で、内部での出来事は外には漏れない。
高度な魔法の一つで使える人は限られており、ここの中なら問題なく物音を立てられる。
軽く準備運動して、感覚を研ぎ澄まし、全身と呼吸を意識しての動作。
教えられたこと、学んだことを頭に浮かべ、短剣を混ぜつつ淀みなく淡々とこなしていく。
先に述べた通り、近接戦はあまりしないので入念にやっておく。
それが終わったら次は土魔法を使い遠方にゴーレムを作り出し、トリッキーな動きをする命令を与え自立型にする。
ゴーレムを的にして魔法の練習や射撃訓練を行い精度向上を図る。
前の世界で手合わせした人の動きを元に作ってあるが、変幻自在に立ち回るのでとてもいい刺激になる。
一通り済ませたら鍛練を終え、空間魔法を解除。
「よし、これで終わり」
日課をやっておかないと一日が始まった気がしなくて落ち着かない。
日も出始め、辺りが少し明るくなってちょうどいい時間だ。
この宿で提供されるのは朝と夜の二食だけど、まだちょっと早いかな。
下の階に降りてくると、カウンターにはティキアが座っており作業中のようだ。
「おはよう。朝早いね」
「おう、センか。そっちこそ」
ティキアとは昨日打ち解けて、堅苦しい言葉遣いはいらなくなった。
というより、俺が勝手にかしこまっているのかもしれないが。
習慣とは怖いもので、無意識に言葉を発していたり癖がでることもあるから、所作に気を配らないと。
「ところで、朝食はいつから大丈夫?」
「仕込みはリームが済ませてくれてるから、今すぐ準備できるだろう。ちょうどいいし俺も同伴しようかな」
作業の手を止め立ち上がったティキアを連れ立って食堂の中へ。
リームさんに朝食を頼んで待つこと数分。
目の前に置かれた皿の中身に衝撃を受ける。
無数の透き通った白い粒によって形成された塊。
ふっくらして艶のある、美味しそうな仕上がりになっている。
元の世界では毎日のようにお目にかかっていた主食のお米が面前に。
「……」
「どうした?シーメーを見ながら妙な顔をして。もしかして苦手だったか?」
シーメーって言うのかこの見た目と匂いが完璧にお米のやつ。
袋詰めにされてて分からなかったが商店街にあったな。
「いや、馴染み深い食べ物なんだけど最近は食べる機会が限られてたから、思うところがあってさ」
前の世界では小麦を使ったものが主で、米はあったが僻地で栽培されていて珍しく、品質も上等とは言えなかった。
「確かに、今ではエストラリカでは一般的で耕作もしているが、それは貿易による副産物って話だし場所によっては流通してないかもな」
流石、貿易国家だけあって様々なものが入ってくるのだろう。
さて、問題の味の方はどうかな。
米…じゃなくてシーメーをひと掬いして口の中へ。
もちもちとした食感にほんのり感じる甘み。
うん、納得のいく味わいだ。
「口に合ったみたいだしよかったよかった。話は変わるがセンは今日どうするんだ?」
「国の散策と、探し物かな」
正確には、探し物じゃなくて人探しだけど。
「別料金で弁当の用意を受け付けてるが…町を出ないなら必要ねえか」
「いる時があったら頼むよ」
一時期物事に没頭して昼を抜くことが多々あって、それに慣れたから売上に貢献出来るか微妙なところだが。
食事を済ませて、自分の部屋に戻って出歩くために服装を整えつつ、人が多くなる時間帯まで少し時間を潰す。
考えている計画…そんな大仰なことではなく、簡単に言えば素質のある人を探して、自分の代わりに動いてもらう筋書き。
今日はその仲介者を求めて国を回る。