4 宿屋
大陸中央に位置するエストラリカ王国は、多くの人や物、様々な種族が集まる貿易の要所として発展した。
あれからギルドに隣接した書物庫にやってきて、魔物についての知識を軽く頭に入れておいた。
魔物の書物以外も多数保管されており、エストラリカについての本もあった。
王城は見当たらなかったが王国だったのか。
まあこの国は外見からして馬鹿みたいに広いし、建物も多いから見えないだけで奥の方にあるのかもしれんが。
その他にも種族のことを書いたものがあり、獣人、魔族、エルフなどの種族がいて、過去には争ったこともあるようだが今では共存関係らしい。
講和しているとはいえ、少なからず軋轢や差別意識は残っているので、同じ種族で集まって国を形成することが多いと記されている。
いつかは他の国に行ってみるかな。
本を読み漁っていたから、いつの間にか賑やかさは潜み、差し込む光は茜色に転換している。
時間の経過を認識した途端、空腹を覚える。
ひとまず今日は休むとして、動くのは明日からにする。
今から宿を取りに行くのは遅く感じるが、受付の女性いわく穴場があるので、そこなら遅く行っても大丈夫らしい。
聞いた場所の内容を思い出しながら外へ。
エストラリカ西方。
民家が軒を連ねる住宅街で、紛れるように伏在している宿『閑静家宿』
他の建物と外見が類似していて、一目では分かりにくいが、よく見ると上部に看板が掲げられており、宿なのでそれなりに規模がある。
これなら確かに穴場というのも頷ける。
宿の中に入ると、出迎えたのは妙に体格のいい壮年の男性だった。
「あ、お客さんか。いらっしゃい」
「どうも、部屋空いてます?」
「全部空き部屋さ。今なら貸し切りだな」
そう言って陽気に笑う宿の主人。
そんな調子でいいのか…?
「で、泊まる日数は決まってるか?一泊朝と夜の二食付きで銅貨7枚だが、今日は一食だから5枚でいい」
そういや考えてなかったな。
長期間お世話になるつもりはないから、短めにしておこう。
「5日間で」
「5日間ね…料金は銀貨と銅貨3枚ずつだ」
銅貨は持っていないので銀貨4枚を渡す。 銀貨は銅貨10枚換算か、これでお金のことは割れた。
「お釣りとこれが部屋の鍵。階段上がってすぐだから。食堂はそこの部屋で、食事したくなったら言ってくれ」
了承の相槌とすぐ食事にする旨を伝え、階段を上り、指定された部屋へ向かう。
客室はベットに机と椅子。
簡易的で質素だが、下手に装飾せず素材の味があっていい。
ローブと装備を外して、食堂へ。
「ふー……」
現在、入浴中。
風呂があるのは習慣づいている身にとってはありがたい。
あれから食事に行って、他に客がいないからと酒の席に宿の主人ーーティキアに誘われて談笑した。
俺は酒を飲んでも一切酔わない状態になっているが黙っておいた。
本業はギルド員、宿は副業で、妻のリームさんと娘のレンリィの3人で運営している。
もともとパーティーとの会議や宴会のために大きめに造ったが、連日するわけではないのでスペースを持て余してしまうそうで、娘が落ち着いた年齢になった時に宿の開店をしたとのこと。
人手は多くないので客は少ないくらいがちょうどいいらしい。
それからも過去話に花が咲いたが、酒が回ってきたためお開きとなり、その時に風呂を勧められた。
ティキアは「魔石の関係で入る時間は限られてるけどな」とぼやいていたが、魔石とは魔物から取れるもののこと。
魔力を込めることができ、照明や湯沸かしなど、魔法に通じていない人でも使える便利なものだが、入浴する分を沸かすエネルギーは相当なので節約するのが基本なのだろう。
「しかし、どうしたものか…」
これから生活していくためのお金をどう稼ぐか。
注目されないような依頼をこなしたり、魔物を倒したりして稼げなくもないが、不測の事態が起きる可能性を考えると厳しい。
例えば、高ランクの魔物と遭遇して、その場に他のギルド員がいた場合。
立ち向かえる実力や逃げ切る術があればいいが、それが望めないときは俺が動くことになる。
あと、ギルドカードに不正防止のためか討伐した魔物の項目があるので、下手に強力な魔物には手が出せない。
「そういえばーー
ふと…脳裏をよぎる一つの計画。
実行には至らなかったが、前の世界で試そうとしていたことがあった。
その計画が思い通りに進めば、懸念を薄らげることも叶う。
「よし…!」
決意を固める同人に風呂から勢いよく上がる。
もっとまともな選択肢があるかもしれんが、悩み、考え続けてもしょうがないので、とりあえず行動する。
そうなると明日は国を探索だな。