48 要求
遅れながら明けましておめでとうございます。
今年も読んで下さりありがとうございます。
「取り分に関しては渋々だが納得してたじゃないか」
「仰る通り”渋々”ですもの、本心とは違いますわ。そして今は益々納得が難しくなりまして」
澄まし顔で惚けて見せるクランヌ。
彼女からすれば表面上だけの承諾で、不満は燻っていたようだ。
こうして話を蒸し返して来たのは、取引を終えて思うことがあったのかも。
ただ引っ掛かるのは…
「どうして自ら利益を落とす真似をするんだ?儲かるならそれでいいだろう」
「まあ当然の疑問ですわね。それは、私と商会の意向が利を別つことだからです。多少の傾倒は許容範囲ですが、現状こちら側に傾きすぎていますので」
訳を話す碧眼には信念が込められており、主張を曲げるのは厳しそう。
確かに、相手との関係を長い目で見るなら、山分けした方が不平不満を少なくできるだろう。
俺みたく特別な事情があれば変動してくるが。
しかし、彼女が意見を変えるに至った要因は何なのか。
あれから日も経ってないし、さっき考えたように取引の影響だと思うけど。
旨を伝えクランヌに問うと、呆れたような視線がこちらを捉える。
そんな可笑しい質問だったか…。
「失礼ですけど、センさんは事の重大さを理解してないですわね。あの分量を一夜にして捌けたのは、多くの方が需要を見出だした証拠です。そんな商品を独占販売、これだけで商会に利益を齎しますわ」
「需要を独占……ああ、そういうことか」
民需の高い商品を一手販売、さすれば当然買い求める客がそこに集う。
つまり彼女は、食い付き具合から集客に使えると判断し、広告的な面も踏まえて条件を改めるに至ったと。
てっきり商会の知名度により完売できたと思っていたが、クランヌが評価している為それは誤解。
浄化水は人々が欲するほど便利なのに、自分には当たり前過ぎて感覚が麻痺している。
たまには顧みて有り難みを思い出さないとな。
「でも俺に教えて良かったのか、価値を知って背信するかもしれないのに」
俺にそんなつもりは無いけど、優位性を感じたら上手に出たり、好条件の所に鞍替えする人間は多いだろう。
「明確な理由であればセンさんも認めざるを負えないでしょう?それに、素性を隠したい貴方がそんなリスク犯すとも思えませんし」
「言われてみたらそうだな」
話を拒むのは商会の方針を曲げろということ、それだけの否定材料は持ってない。
相手の事情も織り込んでるのは流石だ。
「見直しは了解したけど、融通してもらっているのは譲歩しないよ。そこも考えて検討してくれ」
「ええ、委託料はしっかり頂きますわ。内訳を提出しますからご安心下さい」
資料と時間がないので、ひとまず詳細は先伸ばし。
態々事情を教えてくれたのに不正するとは思わないけど。
クランヌは商売人としては信頼出来そうだ。
「センお兄さんお願いがあります」
「うん?」
長時間休憩へ入り、寝袋を敷いて空間内へと出ようとした手前、シルムからの呼び掛け。
このタイミングに来るとは嫌な予感がする…。
そんな彼女は笑顔を湛え、自分の使う寝袋を指差し。
「これからは私が睡眠を取るとき、センお兄さんが居合わせてたら同衾して下さいっ」
「無理無理」
この子は何言ってるんだ、しかも一度きりでなく以降もだって?
屈強な人の多い異世界仕様サイズだから二人入るのは可能だろうが、それ以前の問題。
「約束、忘れてませんよね」
約束…そういえば何でも言うこと聞くと口を滑らせたな。
要求の内容を変えたいところだが、シルムは頑固だから引かないだろう。
大人気ないけど、ここは外野に助けを求めよう。
「クランヌも何とか言ってくれ、流石に同衾は不味いだろ」
「確かに、褒められた行為ではありませんわね」
一人、就寝の準備をしながらも否定的な意見を述べてくれるクランヌ。
よし、二対一で押しきれば跳ね除けられるぞーー
「ですが約束した以上守るのが義理というものです。口にしたら負けですわよ」
光明が見えたが無慈悲にも断ち切られ、無関係と言わんばかりに顔を背け床に就いてしまった。
外野かと思ったら既に事情を把握していたのか…。
そして残された二人は無言で見つめ合いーー言わずもがなこちらが折れた。
改めて明けましておめでとうございます。
新年ということで番外編を書こうか迷いましたが、とりあえず本編を進めます
ですが季節に応じた話を書きたい思いはあるので、時折組み込むかもしれません。




