46 香水
読んで下さりありがとうございます。
エストラリカ南方より続く中央の通りは店が軒を連ねる商店街。
通りはいくつかに分岐しており、小売から専門、飲食など多種多様な店が商いをしている。
現在は昼時。シルムの所へは遠回りになってしまうが、散策がてら今日も違うルートを経由して向かう。
正午なだけあり人の往き交いが絶えず、露店が多い分賑わいぶりがよく伝わってくる。
周囲の動きに気を配り、一つ一つ店を一見しながら足を運んで行く。
毎回商店街を歩いていて思うのは、ここエストラリカにおいて異種族間の関係は良好だということ。
人間とは異なる身体的特徴を有した亜人とすれ違っても、誰ひとり嫌な顔をせず当たり前のよう。
気さくに話掛け値引き交渉している光景や、従業員として働く姿も見受けられる。
ただ、書庫の資料に記してあるように溝はあり、全てが円滑には行かない。
しかし、こうして一部でも仲良く過ごせているのは救いと言えるだろう。
現状より関係が拗れていたら、いくら協定があっても些細なことが起爆剤になり得るからな。
(平穏って良いものだな)
しみじみと思いながらも、各商店の品揃えを見ていると、よく目に留まるのは魔石。
火を起こす、水を出す、明かりを点ける等の魔法を組み込める、日常に欠かせない代物。
あれ一つで電気やガスの代わり、魔導具の動力といった役割を担っているから、よく見掛けるのは当然と言えるかも。
必需品なだけあり安価で販売されているが、宿屋で話があったように風呂沸しに消費するエネルギーは多く、毎日の入浴が厳しいのが残念。
魔力に物を言わせて湯を張ろうにも、宿屋の湯船は大きいため相応の魔力が必要なわけで。
慎重を戒めとした以上、人前で浮わついた行動を取るわけには行かない。
「ん」
考え事しつつ何気なく進んでいると、興味を惹かれる看板が店の入口横に立て掛けられている。
そこには”各地の香料を取り揃えております”と書かれている。
前の世界でも香料を扱う店があり、そこでは鼻の効く魔物を誤魔化す香水や、魔物の体液をベースに作ったアロマオイルなどを見たことがある。
魔物を相手にしていく中で、自力だけではなく道具を頼ることも賢い選択。
その分費用が掛かるため、上述したような金策になる対象を知るのは大事。
窓がないので探るには店内へ入る必要があるが、ここはシルムの師として情報を仕込んでおこう。
その前に懐中時計を取り出し開く。時間まで40分ほどあるので寄り道しても大丈夫。
ドアノブに手を掛け入店した直後ーー俺は踵を返そうかと思った。
陰を生むように点いている照明に、配色の考えられたインテリアの数々。
店内には着飾った女性ばかりで、疎外感からかドアベルと店員の挨拶が何処か遠く聴こえるような。
もはや的外れな気がするが一応見て回るか。
広めの店内には、色のついた液体を入れた瓶が並べられておりカラフル。
立て札に商品名が書かれているけどサッパリ分からない。
ひとまず名前だけ覚えて後程クランヌに聞いてみるとして、やっぱり期待の物は無さそうだな……。
「何かお探しですか?」
一つ一つ確認している俺の姿を見兼ねてか、女性店員から声が掛かる。
「いえ、通りかかった際に興味が湧いたので」
「初めてのお客様でしたか。でしたら、香水の付け方をお教え致しましょうか?」
身体へ香りを纏わせるのにはコツがあると聞く。
それを専門の人から教えて貰えるとは為になる体験。
出ようか迷ったが序でに商品のことも聞けるだろうし……。
「お願いします」
「かしこまりました。此方へどうぞ」
案内された先は布の掛かったテーブルがある奥のスペースで、机上には細分化された生地が置いてある。
店員は「少々お待ち下さい」とその場を離れ、瓶を三個乗せたトレーを持って戻って来た。
瓶には液体が入っておりそれぞれサイズが異なる。
「お待たせしました。ここは試供スペースで香水をお試し頂けます。一概に香水と言いましても、商品によって香りの濃度は違いますので、当店では容器の大きさで区別しております」
小、中、大と瓶を順にテーブルへ並べつつ説明が続けられる。
大きいのは香りが薄く小さいのは濃い、中サイズはその間らしい。
キャップが外されノズルの開口部が顔を出す。
「ここからが本題です。匂いがキツくならぬよう、香水の濃度に応じて付ける量を変える必要があります。今から実演するので真似してみて下さい。試供用は薄めているので香りは長く残りませんからご安心を」
陳列された商品より透明度が高いのは希釈しているからか。
濃いのは一滴、二滴垂らすだけの点。中間はサッとなぞるような線。薄いのはまとまった範囲の面。
点、線、面の三つを意識することがセオリーとのこと、見よう見まねで手首へ塗布する。
確かに顔を近づけて花のような香りが来る程度。
他にも血管の通る箇所などの付ける場所を教えて貰い講習は終わりとなった。
「では、気になった商品がございましたらお声掛け下さい」
「その前に一つ聞かせてください」
「どうぞ」
「この店の商品についてですけどーー」
中途半端な区切りかもしれませんが取り敢えずここまで。
家から出るのが憚られる寒さになって来ましたね。
この時期はイベントも多く大変かと思いますが、湿度や防寒をしっかり意識しましょう!




