43 食事
読んで下さりありがとうございます。
食堂である、木造の広間のロングテーブルに並べられる料理の数々。
キッチンは近場だが、年齢と安全面を考慮し台車を用いた配膳。
今か今かと待ち構える少年少女の行儀を窘め、手洗いなどの確認も忘れないシルム。
食事をご馳走になるのは二度目。
シルムの計らいにより、席は端っこでエプロンを畳んだ彼女が隣に掛けている。
全員が揃って準備が整ったら、手を合わせる簡易的な作法を各自で済ませ食事を進める。
主食となるのはパン、スープに浸けたりそのままでも頂ける。
シーメーや麺類は手間の関係で、膳に上る機会は少ないらしい。
パンは布を敷いた籠に詰めるだけで後片付けもスムーズ。
それに反し人数分よそわなければならず、労力も水の消費も増えてしまうので、厳しいのも頷ける。
節水の観点から、取り皿を使って食事をするのだが、各々喧嘩せず譲り合ったり分担したりして偉い。
年端も行かない子たちが自制する、させるのは困難と言えるくらいの課題。
まぁこれは、シルムの言っていた¨あの言葉¨が功を奏している。
一度目の会食終わりに「言い聞かせるの難しくないか?」と疑問をぶつけたことがある。
「そうですね・・・院長さんは忙しいですし、みんな複雑な事情を抱えてますから」
児童養護施設の院長は運営に必要な資料の整理、備品の買い出し、交渉に赴いたりと日々奔走して時間が限られている。
そのため、シルムを筆頭に年上組が世話をするのが現状。
「説得力が無くて苦労しました・・・それはもう過去の話ですけどね。今となっては魔法の言葉で殆ど解決しますから」
人差し指をピンと立て、鼻に掛けた様子で喋るシルム。
我満を促すワードとは何だろう、自分の幼少期を振り返っ・・・ても参考にならないな。
父親は厳格だったから駄々を捏ねるように育たなかったし。
そんな境遇でも、必要な物はちゃんと揃えてくれて、師として多くのことを教わったから今の俺がいる。
多少周囲の自慢を羨むことはあれど、一過性の流行だったので手に入れても大事にしなかっただろう。
両親を残したまま異星に来てしまったのは心残り、考えてもどうしようもないが・・・・・・本題に戻ろう。
「どんな言葉か興味あるな、是非とも聞かせてほしい」
「そんな大層なものではありませんけどね。たった一言『手抜き料理にします』と伝えるだけなので」
ある日、盛り皿から取る分量で揉めたり、野菜を避けて好物ばかり食べる自由な光景に腹を立てたシルム。
その時ふと、頭に浮かんだ言葉を口にしたのがきっかけ。
「この状態が続くようなら、簡単なものしか作りません」と。
そうしてシルムの予想に反して大反響が起き、涙ながらに懇願される事態。
以来、いくつかの食事ルールが定められ、彼女の言う魔法の言葉が生まれた。
物の見事にみんな胃袋を掴まれてしまったわけだが、味わった身としてはその結果に納得。
シルムの料理を食せる人は果報者、そう断言出来てしまうくらい高い技術を有している。
各地の放浪を続け食べ歩きが増え、自然と舌の肥えた俺が唸るほど。
あれを釣り合いに出されたら従う方が賢明な判断だろう。
とまあ行儀の良さは上記の理由から来ており、シルムの腕は確かなので、正直お呼ばれされてラッキーだったりする。
視覚と嗅覚を刺激する選り取りみどりの料理に、ついつい目移りしてどれから行こうか迷う。
「私が取り分けましょうか?」
心情を酌み取ってくれたシルムの提案を頼ると、色とりどりの野菜をベースに盛り付けらてゆく。
手早いながらも配色の考えられた盛り付けは感心を深めるばかり。
「まずは野菜から食べるのがいいと聞くので、どうぞ」
「ありがとう」
手を合わせ、箸を持つ。
ドレッシングの瓶がいくつか置いてあるが、とりあえずそのまま食す。
口に入れ咀嚼すると、シャキシャキとした食感や滲み出てくる甘み。
野菜それぞれ味の主張がしっかりとあり、調和が取れている。
(中に硬いのが交じってる・・・・・・考えてるな)
硬い食材を紛れさせておくことで、自ずと噛む回数を増やす魂胆だろう。
スープの中身がゴロゴロ具材なのも、その工夫の一環か。
探せばまだ発見がありそうだけど、この時点で手間をかけているのは十分に分かった。
愛のなせるわざ、というやつだな。
思いやりのあるお姉ちゃんに恵まれて良かったな、ほんとに。
「センさんこれ食べてみて下さい。初めて作ったのですが」
サラダを平らげ別の料理を堪能していると、隣のシルムから差し出された皿。
皿の上には焼き目の綺麗な一口大のお肉。
初めてにしては焼き加減は完璧に見える。
「それじゃ、貰おうかな」
「はいっ。では口を開けて下さい、あーん」
シルムは返事を聞くや否や箸でお肉を掴み口元へ運んできた。
何となくこんな流れになると感じてはいた、かと言ってそのまま流されるわけにもいかん。
ここはスルーして皿から取ればいいだけ・・・が、彼女は肘を引いて持っている皿を遠退けそして
「あーんですよ、あーん」
何事も無かったように続けるのだった。
結局、俺は諦め受け入れた。
別にシルムの圧が怖かったとかではなく、味が気になったからである。
外パリッ中ジューシーの香辛料がきいた柔らかいお肉だった。
名前は忘れてしまったが以前お店で食べて、それに劣らない素晴らしい味。
欲望に負け追加でいくつか口にしたのだが、どうしても゛餌付け゛というワードが頭から離れなかった。
エアコン必須の猛暑から一転、急に冷え込んで来ましたね。
半袖で大丈夫と侮っていたら出先でくしゃみを連発しました。
上着で嵩張ってしまいますが、背に腹はかえられないということで…
お風呂を長めに浸かったり等、身体を冷やさぬよう心がけたいところです




