42 享受
2万pv&読んで下さりありがとうございます。
「この度は談笑と魔力供給、誠にありがとうございました。お陰様で気が多少休まり、残りの取引に努められますわ」
「俺こそ有意義な時間をありがとう。また色々と聞かせてくれ」
一時間に渡るリラックスタイムが終わり、世界は黄昏時を迎えぽつぽつと外灯の光が見える。
休まったと言っているから、針を用いた甲斐はあったと見ていい。
それにしても楽しかった・・・チャーの豆知識に各地の内情、種族の特徴について確認も取れたし、やっぱ現地に赴いた人の話は貴重。
聞いていて思ったが、転移してエストラリカに辿り着いたのは望外の僥倖。
無知に等しい俺に欠かせぬ情報が集まり、排他的な風潮もなくすんなり・・・かは怪しいけど入国が叶った。
教えてもらった゛エルフの聖森¨なんかに着いていたら、どうなってたことか。
エルフの聖森とは、亜人であるエルフたちが住まう土地のことを指すらしい。
大自然に囲まれ魔物が滅多に表れないその場所を、彼らは神聖視しており、聖森の由来はそこから来ている。
秩序を乱す不穏因子が紛れぬよう部外者に厳しいため、行き先が違って良かった理由の一つ。
エルフという種族は、美女美女揃いの千年近く生きる長寿で、耳が長い身体的特徴を除けば人間に酷似している。
しかし、エルフは人間のことを疎んでいて二種族間の関係は芳しくない。
悠久の時を生きる彼らは自然と密に接し、その偉大さと重要性を理解し保護活動を行っている。
対して人間は、開拓すべく木々を伐採してきた経歴があり、環境や生態系を狂わせる事態が発生してから自粛したようだが、それによって生じた軋轢は未だに根強い。
嫌悪感から派生して、短命の人間を下等生物と見下す傾向も見られる。
少なからず反骨心を持つ者がいるようで、エストラリカ内でエルフをちらほら見掛けるのが救いか。
(もし降り立ってたら、両方に害が出ていただろうな)
仇なすつもりは毛頭無くとも、問答無用で来られたら対処せざるを得ず、人間の数倍も鍛錬が可能なエルフは精鋭揃いで奮戦は必至。
そこに逃亡制限のスキル持ちがいたら最悪なパターン。
まあそんな状況に陥っても何やかや切り抜けられる・・・不幸を嘆きはするだろうが。
それよりエストラリカに来て非常に助かってるのは、長袖半袖を問わない人間に有難い気候であること。
感覚器官に補正はかかってないので、茹だるような地域は汗ダラダラ不快指数うなぎのぼり、凍えそうな地域だと悴んで絶え間ない身の震え。
『エンチャント』に頼れば対策は可能、逆を言えば依存しないと生活は儘ならない。
しかも苛酷な環境で平然としていたら目を付けられそうである。
世界を渡ってから風向きが良くなったのかも、このまま平穏無事に過ごせれば異論は無いのだけど・・・。
「そういえば」
クランヌが何か思い付いたようで声を立てた。
「どうした?」
「先程の依頼の件、というよりお願いが一つありまして。これからも継続して、シルムのことを気に掛けてあげて下さい」
彼女が述べてるのは甘やかす云々関連か。
生まれてこの方、一人っ子で世話を焼く経験が乏しい俺に、応対のセオリーなどなく限度はあるのだが。
「期待に沿えるかは別として、ハナからそのつもりさ。教える立場になった以上、相手のコンディションを意識しないと。もちろんクランヌも含まれてるから」
訓練内容を決めているのは俺で、魔法と魔力を多く使わせたりなど、慣れないことをさせている自覚。
量をこなすにせよ、質が伴っていなければ損失となってしまう。
負担のせいで半端にならぬよう、彼女らの動向を注視していく。
「なんならこの後、シルムに会うつもりだし」
継がれた言葉に数瞬、目をぱちくりとさせ、微笑を返してくるクランヌ。
取って付けた用事ではなく、実は一般向け浄化水ついでにオリジナルも作製していて、それを届けに行く。
以前渡した量は知れてるから早々に切らすはず。
「センさんが思い遣りのある御方で嬉しいですわ。今後ともよしなに」
「ああ・・・うん」
好意的な反応に、こちらとしては複雑な心境で気の抜けた返事をしてしまった。
何故複雑な心境に至ったのか、それは行動原理が彼女の思っているのと食い違っているから。
善意と言うよりも自己満足。そう、自己満足の為に向かう。
俺が勝手に抱いたこの感情は、話せば馬鹿馬鹿しいと一蹴されるだろう。
ならばいっそのこと明かしてしまおうか・・・・・・出来たら多分ここまで悩んでない。
割りきれば済む話なのに燻ってしまうのは、中々どうして厄介なものだ。
クランヌは不思議そうだったが追及はして来なかった。
しかし青く澄んだ瞳に見透かされそうだったので、妙な空気の中、逃げるように別れの挨拶を告げた。
あれから隠れ場で着替え住宅街へ着いた頃、夕闇の藍は濃さを増し、夜の帳が落ちるのも近い。
すっかり通りは寂しくなり、辺りの家の窓から仄かな光が漏れるている。
こことは対照的に、歓楽街の方は盛況ぶりを見せているであろう。
静かな空間に浸るのは好みではあるが、今は喧騒の方が恋しく思える。
飛び入って来る情報がこうも少ないと色々考えてしまいそうだ。
幸いと言うべきか、無心になるのは得意なので直向きに道を行く。
そうして数分もすれば目的地、運動スペースで小暗がりの中を駆ける少年少女たち。
内の一人がこちらに気付き、伝播してゾロゾロとこちらへ寄って来た。
「センにぃ、こんばんは!」
「こんばんは」
シルムの教育の賜物か、礼儀正しくそして元気の良い挨拶。
連日通いに食事を共にしたとあって、俺の存在は孤児院内で周知になった。
「シルねぇに何か用事?」
「うん、渡すものがあってさ。あっ、そうだーーー」
丁度いいし、この子たちにお使いを頼んで持っていってもらおう。
今更ながら一々呼び出すのに気が引けてきた。
「分かった!今から呼んでくるねっ」
と思いきや、言葉を発する暇もなく、一同は建物に向かって走り出鼻を挫かれた形に。
子供の行動力の高さには驚かされる。
呼び止めるのは無理らしい。少し日に焼けた女の子が一人残って、何か言いたげにこちらを見つめ佇んでいるから。
用件を聞く前に同じ目線の高さまで屈みこむ。
「俺に話があるのかな」
「あのね・・・私、お礼が言いたいの」
お礼・・・思い返してもピンと来るような記憶は無い。
そもそもシルム以外の面子とは関係が浅く、大半は名前すら分からずこの少女にも当てはまる。
「センにぃが来てからシルねぇ、表情が良くなったから」
「そうなの?」
「うん。上手に言えないけど・・・少し前までは、もやもやしてる感じだった。みんなもそう思ってる」
少女の話を真と受けとるのであれば、当初の素振りには偽りが混じっていたことになる。
今との差異は判別つかないが、子供は妙に鋭いところがあるからな・・・。
単純に付き合いの長さによる気付きやもしれん。
「だから元気にしてくれてありがとう。それと、これからもシルねぇの助けになって下さいっ」
こんな小さい子に頭下げられて、拒否の言葉を返すことは出来ないだろう。
「何がシルムを元気付けたのか理解してないけど、これまで通りにさせてもらうよ。でもその分、君たちとシルムの時間は減ってしまう事になる」
「大丈夫!シルねぇと自分たちの為だから辛くないよ」
ニッと白い歯を見せ笑う淡褐色の少女は一枚絵のよう。
こうも周囲から心配されるのは、シルムが人徳者であることを示している。
またしても支えを頼まれてしまったが、気負わず自分の尺度でやって行く。
「センお兄さん!」
声の方に顔を向けると、エプロンを纏った少女ーーーシルムが小走りで近寄って来る。
一瞬見違えたのは、セミロングの髪を後ろで結って雰囲気が変わっていたから。
俺らのもとに辿り着くと、一息ついて口を開いた。
「ユニ、もうご飯だから中に入ってね」
それを聞いて無邪気に喜ぶ少女ーーーユニは駆け出して途中、こちらを向いて手を振って、俺も手を振り返し見送った。
「・・・ユニが失礼なことしませんでしたか?」
「軽く挨拶をしただけさ。普通にいい子だったよ」
「それを聞いて安心しました」
目を閉じホッと胸を撫で下ろす一面を見て、やっぱりお姉ちゃんなのだなと微笑ましい気持ちになる。
「それで急にどうなさったんです?」
「使ってたら足りないだろうと思って、追加の浄化水を持ってきた」
なみなみ手前まで浄化水が注がれた瓶を取り出し差し出す。
「わぁー、ありがたいですっ。皆まだやんちゃなので色々汚してしまうので」
薄暗がりの中でも分かるほどの明るい表情、喜んでくれて何より。
子の自由な行動を咎め、正しい成長へ導くのが年長者の務めとはいえ、後処理をする身からすれば堪ったものではない。
奔放さに苦汁を嘗める思いをしてるはずなので、多少の緩和に繋がるだろう。
「あーでも・・・センお兄さん夕飯はまだですよね?」
「そうだけど」
妙に確信めいた質問だな・・・。
判断材料が気にはなる。しかし、触れてはいけない内容だと感じたので、ここは見送るとする。
「でしたら」
シルムから伸びる両腕が差し出された瓶を掴むーーー。
そう思いきや、体勢はそのまま一歩詰めた彼女は、こちらの空いた左腕を絡め取りそのまま抱え込む。
悪意の混じらぬ予想だにしない一連の動作。
我に返りシルムの方を向くと、見上げる形でニコリとしている。
「お礼も兼ねてご一緒に」
グイグイと引っ張られ、思わぬ引力に声を上げそうになった。
原因は彼女が身体強化を使用し腕力を向上させたため。
出力と制御が上達している・・・っと、感心している場合ではない。
拒否する?振りほどく?転移する?
切り抜けの案を考えるも、脳裏によぎるクランヌとユニの言葉。
出掛かった言動はそれにより静止する。
元々遠慮は抜きと交わした仲なのに、何かと理由を付けて断るのは違えるに等しい。
シルムは御機嫌、俺には何ら不都合はない。
ならばこれでいい・・・いや、一つだけ問題があった。
それは、彼女が俺の腕を抱え荷物を牽引するように引き摺っていること。
要するに現状、密着していて尚且つ彼女の身体が左腕に押し付けられているのだ。
言及はしないけど、この子はそれなりにあるので。
「分かった、分かったから。自分で歩くから放してくれ」
「まあまあこのまま行きましょー」
拘束は緩む気配なく、シルムは鼻歌でも歌いそうなテンションで進む。
割りと頑なな性格してるよな・・・。
抵抗はしたものの、変化は起きずそのまま食堂まで連れていかれたのであった。
夏休み、お盆と休日がやって参りましたね(そうでない方もおられるでしょうが)
体調を崩してせっかくのイベントを棒に振らぬよう、適宜そして悪化する前に休憩を。
もちろん、水分・塩分の摂取を忘れずに。
それから、夏はわさびがおすすめらしいですね。
汗をかくと血流が悪くなるので、わさびに含まれる6メチルなんたらが血流を良くしてくれるとか。
他にも利点がありますので、冷麺等と合わせてお試しを。
では皆さん、ご自愛下さい。




