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3 エストラリカ

 ロアンさんとの取引を皮切りに旅装や装備をした人達を見かけることが増えてきたが、違う別れ道に進んでいくばかりで、俺が歩いてきた道に向かう人はいない。

 人が寄り付かない理由でもあるのか。


 進む方向を右に選んだのは正解だったようで、道の先まで続く、高く長い防壁が先ほどから見えている。

 日は多少傾いてきたが、野宿することもなく早く着くことができた。


「これだけ大きいと人も多そうだ」


 人が多く集まっていれば情報収集が捗って、身の振り方も早く決まることだろう。

 街道沿いに歩き続け、ようやく入り口に到達する。

 外壁と同様で入り口も広い作りで、予想通り門番が配備されており、出入りする人の検問をしている。


 順番待ちしている列の後ろに並び、検問の様子を観察する。

 すると、門番に対して長方形の形をしたカードのようなもの差し出し、それを確認し終えると、もう中に入ることが許されるみたいだ。

 それから数人を観察したが、全員が身分証と見受けられるカードを提示して町に入っていく。


(まあ、何とかなるだろう)


 前の世界でも検問されることがあったが、身分証が無い場合幾らか通行料を払うだけだった。

 金銭が確保できて助かった。

 列が形成されていたものの、処理はスムーズに行われているので、あっという間に俺の番に回ってきた。


「エストラリカへようこそ。身分証はあるかな?」


 エストラリカ?ここの名前だろうか。

 鎧で身を固めた門番の青年に身分証の有無を問われる。


「いや、持ってないよ」

「んー、それだと仮身分証の発行に銀貨3枚必要なんだけど…」

「金貨しか持ち合わせがないけど大丈夫?」

「問題ないよ、金貨1枚ね。じゃあ仮身分証の発行に名前とか必要だから教えてくれ」


 金貨を渡し必要な情報をいくつか告げると、仮の身分証と銀貨7枚を手渡される。

 銀貨7枚返ってきたとなると、銀貨10枚で金貨1枚換算ということか。


「ここに滞在するなら、真っ直ぐ行って中心にあるギルドで登録してカード作れば身分証として使えるから行くといいよ」

「そうなんだ。わかった、行ってみるよ」


 貴重な情報を教えてもらえたので、それの代わりに銀貨1枚をお返しする。


「お、ありがとな。俺はクストスって名前なんだが、だいたいここで門番やってるから、困ったことがあったら気軽にきてくれ」

「クストスね。情報助かったよ」


 見送られ中に進んでいくと、まず大勢の人と複数の建物が目につき、その情報量や活気に圧倒される。

 中央を貫く石畳の道の左右には複数の商店が並んでいて、商店街になっているようだ。

 こうして見ると前の世界と文明に差異はないように感じる。

 クストスの言う通りならば、この中央通りの先にギルドの建物が存在していることだろうし、物見しながら向かうとするか。




 開けたところに出ると、平屋建てではあるものの、木造の殿堂の前に辿りつく。

 入口と出口用に二つ扉があり、武装した人が行き来している。

 ここがギルドで間違いないだろう。


 入口の扉を開くと、中はカウンター、壁に貼り付けされている紙、複数台設置されたテーブルといった造りになっている。

 ちょうどカウンターの一つが空いてるのでそこへ手続きに向かう。


「ギルドへようこそ!ご用件はなんですか?」


 対応してくれたのは薄緑のショートヘアと明るい目をした快活な印象を受ける女性だ。


「登録に来ました」

「はーい、登録には銀貨5枚かかりますが、仮身分証をお持ちであれば、それとプラス2枚でいいですよ」

「じゃあこれで」

「ちょうどですね。それでは発行を始めますが、不正利用を避けるためにこちらの魔導具に手を置いてください」


 女性が手で示した先にあったのは、真っ黒な箱型の魔導具で、手を置く目印なのか手形がついている。

 もしこれが魔力量を測る代物だと考えると、手を置くのを躊躇ってしまう。

 外部からの鑑定には対策してあるが、内部からだと読み取られてしまう。


 そんな俺を見かねた女性は「この魔導具は魔力回路を解析するだけですよ」と教えてくれる。


 なら特に問題無い…か。

 魔力回路というのは簡単に言えば神経のようなもので、その道筋は人によって違いがあり、同一の形は存在しないと言われている。


 魔導具の上に手を置いて、目に見えた変化を無かったが解析は素早く行われたようで、終了の掛け声と同時に灰色のカードが一枚差し出される。


「仮身分証を元に作成したので手早く済みました。紛失しても再発行は可能ですが、同じ枚数銀貨が必要なので気をつけて管理してくださいね」


 受けとったカードは正式なものだからか材質がしっかりとしていて、項目もいくつか増えている。


「これで登録は完了になります。次はギルドについての説明ですが、不必要であれば申してください」


 正直な話、身分証目的で登録したのでギルドで活動するかは怪しいところだが…一応聞いとくか


「説明頼みます」

「はい、最初Gランクからの始まりで最高ランクはSです。階級が低い内は受けられる依頼が限定されています。依頼の注意事項等はその際に説明をしますが、破棄や失敗にはペナルティが付きます。各種素材の買取を当ギルドで行っております。怪我や命を落とすことになっても自己責任ということを心に留めておいてください。カードは身分証の他にもパーティ編成やお金の出し入れにもご利用できます」


 想像していた内容とだいたい同じだったけど、銀行としても使えるなんてギルドカード便利だな。


「簡単な説明はこれで以上になりますが、何か質問はございますか?」


 数秒間、一考する。

 聞きたいことは多数だが、迷惑になるので取捨選択。

 そして、気になっていた件について問う。


「魔物の資料を纏めた書物とかあります?」

「それでしたら、ギルドに隣接している書物庫があるので、あちらの扉から入れますが…何の魔物について知りたいんですか?」


 女性が指したのはギルド内にいくつかある扉の一つ。

 書物庫まで所有しているとは建物の大きさも納得だ。

 森を抜けるまでに倒した魔物は数十はあるが、その中で名前を知っているのはあの狼。


「ナーゲヴォルフについてです」

「ああ、鋭い爪牙に気性の荒い凶暴な魔物で、ランクは確か…Cランクに位置付けされていた記憶があります」

「そうですか、ありがとうございます」


 早計かもしれないが、さようならギルドライフ。

 あれでCランクとなると、表立って魔物で金銭を稼ぐ選択肢は消滅した。

 俺は極力目立たないようにするのが最優先。


「あ、あとオススメの宿はありますか」

「評判がいいのはーー


 いくつか候補を紹介してもらい、質問は終えたので受付の女性に感謝を述べてその場を後にする。

 とりあえず、書物庫で魔物の知識を蓄えておくとしよう。

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