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37 倉庫

読んで下さりありがとうございます。

「センさん、この後お時間よろしいかしら?」


 いつも以上に長く感じた訓練が終了し、孤児院入口にて解散しようとすると、クランヌから呼び掛けられる。

 シルムはもう建物内に帰っているので、現在は俺とクランヌの二人。


「ああ、空いてるけど何か用か?」

「可能であれば、早速浄化水を取り扱いたく思いまして。その準備の為にお付き合い下さいません?」


 言われてみたら、納品数と価格と取り分などの契約を交わしたが、日程の取り決めに関しては後回しになっていた。


「この後予定は入ってないから大丈夫。じゃあクランヌに付いていけばいいのか?」

「申し訳ありませんが、一度仕切り直しを。このまま出歩くのは憚られますし、防犯の都合上、転移は使えませんので後ほど合流いたしましょう」


 今更ながら、彼女は水色と黒色の運動に適した服を纏っている。

 普通ならばこの服装でも問題ないだろうが、体裁を気にしてるのと、商売をするのにあたって失礼だと考えているようだ。

 知り合い相手でも妥協するつもりは無いらしい。


 物品を扱う身として、盗難や侵入を防ぐための対策は万全とのこと。

 関係者のクランヌには無反応でも、部外者の俺は引っ掛かってしまう。

 以上の理由から彼女に同伴しないと進めない、どっちみち場所を把握してないしな。


「度々お手数掛けますが、素性を隠してもらった方がよろしいかと。最近、有名になった影響か注目されることが増えまして。センさんも多少、目立ってしまうと思いますわ」

「そんな気にする必要あるのか?仕事相手くらいの認識で済みそうだが」

「それは厳しいかもしれません。私の主な仕事は転移作業であって、顔合わせ等もしてますけれど、殿方と行動するのは稀なのですわ」


 珍しく、男性を連れ立っているのを目撃した第三者視点で考えると、私的な関係を想像するのもあり得る。

 そしてエストラリカのように人口多い所は、噂が迅速に回って収拾がつかなくなり、目立たず過ごすのは難しくなってしまう。

 クランヌの提案通りにするのが賢明か。


「俺も戻って変装してくるよ。それで集合場所なんだけど、ここに来て日が浅いから、分かりやすい所にしてくれ」

「でしたら、中央にある大きな建物はご存知かしら?」

「ギルドのことか」

「そうですわ。入り口前辺りで合流に致しましょう」

 

 了承を返して約束を取り付け、一時的にクランヌと別れる。

 彼女は身支度の他に、手続きも済ませるため遅れるらしい。

 それでもタイミングが合わせられる「伝達」の恩恵を感じずにはいられないな。

 宿屋に行って魔力回復がてら、のんびりと準備をしよう。


 


 半時間が経過した頃に「今から向かいます」と連絡が届いたので、それに倣って出発しギルド前に到着。

 当然変装は済ませてある、緑ローブから赤ローブに着替え、顔を隠すくらいフードを深く被り口元を覆っただけだが。

 

 この赤ローブは前に買ったもので、クランヌが見つけやすいようにと選んだ。

 認識疎外は緑ローブより緩く掛けているため、受ける印象は変わってるはず。

 彼女には外見の詳細を連絡してあるので、問題なく気づいてもらえるだろう。

 

(クランヌはまだ来てないか・・・にしても妙だな)


 ギルド前は中央通りで大きく開けていて、他にも多くの人が存在している。

 それで今日は何かの集会でもあるのか、装備が一級品だったり貫禄のある手練れたちが揃い踏み。

 

 お陰で一部、近寄り難い雰囲気が形成されていて、そこを避けて通る人も見られる。

 どうせ自分とは無関係なのだから、気にしても栓無きことだろうが。


 自己完結していたら、横から聞こえる喧騒が一層増しになった。

 そちらに目をやると、すれ違う人の挨拶に会釈を返しながら、こちらへと向かってくるクランヌの姿が見えた。

 

 青をベースに黒と紫を各所に配色したドレスに着替えており、全体的に暗めだが見る者に落ちついた印象を与え、その分きらびやかな銀髪が映える。

 服装に立ち振舞いも相まって、気品溢れる姿に周囲の視線が釘つけとなっている。

 忠告を無視していたら、これだけの衆目に晒されていたのかと思うと気が気でない。


「待たせてしまったかしら?」

「いや、来て1分も経ってないし丁度いいよ」

「それはよかった。では、参りましょうか」


 彼女が示した先は、エストラリカ東方の工業区域。

 来て早々移動の申し出は渡りに船、この場に長居してたら疲れてしょうがない。

 そうと決まればさっさと場所を移してしまおう。


「あ、ちょっと聞きたいんだが、何で武装した人が集まってるか知ってる?」

「それでしたら、以前お話した蒼然の森にいる、強力な魔物討伐へ向かうと聞き及んでますわ」


 ・・・うん、やっぱり自分には関係ない話だな。





「ほー、壮観だなこれは」


 巨大なスライド式の扉を備え付けた建物が左右に並び、中には多様な素材や加工品がずらりと置いてあるのが見える。

 クランヌの商会が所有しているこの倉庫は、長方形で奥の方まで続き、一周するだけでも労力と時間を要しそうだ。

 外壁と多数の魔力反応ーーー結界に囲まれ外部からの干渉を防いでおり、入り口で魔力回路の解析を済ませてようやく中に入れた。


「広い分、覚えることも多いので大変ではありますけど・・・センさんこちらです」


 入ってすぐ横手の空いたスペースに、それぞれ大きさの違う樽が用意してあった。

 ジョッキサイズからワイン樽として使えそうなものまで揃っている。


「この中から持ち出しやすいサイズを選んでいただいて、浄化水を汲んだのちに納品をして下さい。小さい樽の場合、個数は多くなってしまいますが」

「とりあえず一番大きいので問題ない。だって、ほら」


 革袋を近づけると、サイズは全く釣り合っていないのにしっかりと収納された。

 物理法則を無視した現象は、まるで奇術師になったよう気分である。


「羨ましい・・・ちなみに、後どれくらい入りますの?」

「今入れたやつなら数十個は余裕で入るよ。貯蔵庫みたいなもんだからな」

「結構容量あるのですね。でしたら、同じものを2つ追加でお願いします」


「一つだけでも相当な量になりそうだが、そんな仕入れて大丈夫か?」

「売れる見込みはあるので問題ありませんわ。むしろ足らない気もしますが、まずは様子見程度で」


 素人が口を出しても仕方ないし、彼女の自信に委ねるとしよう。

 その後軽く案内してもらい、取引が控えているそうなので今日はお開き。

 この倉庫は自由に出入りしていいとのこと、納期は1週間以内でそれまでに持ってけばよい。


(フリーだし早速取りかかるつもりだけど・・・ん?)


 倉庫の敷地内から出ていくらか歩いたところで、複数の視線を感じる。

 このタイミングで出現したとなると、俺個人ではなくクランヌ関係だろう。

 さて、どう対処しようか。


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