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36 休息

読んで下さりありがとうございます。

 結局、訓練の時間いっぱいまで、シルムにされるがままだった。

 

 とりあえず立ちっぱから座り込んだが、依然としてシルムは張り付いて腹部に顔を埋めており、いつの間にか眠りに就いてしまったのだ。

 しまったとは言っても、彼女に光属性中級魔法の「プログレメ」を掛けていたのが要因でもある。


 痛みや疲労感を和らげ、自然回復を促進させるこの魔法は、副交感神経にも作用する。

 簡潔に述べると、ストレスから解放しリラックス状態へ誘う効果があるのだ。

 その手伝いもあり寝落ちしたシルムを寝袋に移動させようとしたが、抱きつく力は弱まっておらず、あたかも強力な磁石のようで離れない。

 

 負担が掛からないよう寝相に配慮してるとはいえ、寝具で横になる方がベスト。

 力任せに拘束を解こうものなら痛みを負わせるやもしれんし、転移で抜けてしまえばいいか。

 打開の筋道を考えていると、忽然と正面に人の気配。

 

 空間魔法内に存在している残りの一人、クランヌが転移を使い持ち場からやって来た。

 無言でこちらの様子を窺っており、表情からは何も読み取れない。

 さてこの場面、第三者からはどんな印象を受けるだろうか。


 きっと親密な関係だと解釈されてしまうだろう。シルムと兄妹か親子の関係ならば、微笑ましいくらいの認識で済むことなのだが。

 まあ焦ったところで逆に疑念を深めるだけだし、相手は冷静さを持ち合わせたクランヌなのだから、落ち着いて説明すれば理解してくれるはず。

 丁度困っていたし、ついでにクランヌから手を借りるとしよう。


「あの、この状況はーーー」


 説明しようと口を開いたところ、スッと平手が差し出され静止がかかる。

 次いで腕輪に明滅が発生、「伝達」で意思の疎通を図ろうってことか。


(おおよそ察しはついてますので、説明は結構ですわ)

(本当か?)

(ええ、シルムがくっつくの目撃しましたし。今は眠っているのでしょう?)


 観戦してたのかそれとも気紛れで目をやったのか、どちらにせよ誤解を生じなくて良かった。

 おまけにシルムが寝ていることに感づいてくれてるし、あとは協力を仰ぐだけだな。


(お察しの通りだよ。それで離れそうにないから、助けてくれるとありがたい)

(ごめんなさい。私としてはむしろ、現状維持をお願いしたいのですけど)


 二つ返事で了承を得られると予想していたため、思わず内容を数回確認してしまった。

 「伝達」は直近の返答であれば何度でも繰り返すことが可能。

 それはさておき、訂正が来ないのでクランヌは本気ということになる。


(どういう腹積もりだ?)

(私はただ、シルムを甘やかして欲しいのです。この子は若き身ですが立場上、重圧を感じながらの生活。表には出さないようにしていますけど、色々な不安を抱えてますわ)


 皆のお姉さんで子どもたちの将来を心配している分、掛かる心労もひとしおだろう。

 シルムの自由にさせることで、心のケアを目論んでいる訳か。

 自分とは無関係と断言は出来ないので、その考えに賛同するにはするが・・・


(甘やかすのはいいとして、別の機会で良くないか?)

(いいえ。シルムを寝袋に移したら、手を煩わせたと遠慮するようになるでしょう)

(このままでも迷惑かけたと思うでしょうけど同時に、私を受け入れてくれると感じるはずですわ。これが初めてのことであれば尚更、継続をお願い致します)


 先ほどから連続して送られてくるクランヌからの「伝達」

 その内容からシルムに対する親愛の情が、十二分に感受させられる。

 もともと小さな反発心が収まっていく中で、どうしてこちらに役目を任せるのか疑問が生じる。


 シルムを理解している彼女ならまだしも、俺は所詮ぽっと出の存在。

 時間遅延の魔弾により、長い時間を共にしているが交流は浅く、知らないことや話していないことも多い。


(待ってくれ。倫理観的によくないだろ、年頃の女の子が他人とくっついてるなんて)

(衆目の前ではありませんし、この空間内であれば問題無いでしょう。それに、センさんのこと信頼していますもの)


(会って間もないのに信頼してるって?それは流石に妄信が過ぎる)

(根拠はありますわよ。失礼を承知で申しますけど、時間遅延といい貴方は常軌を逸しています。その力なら小娘の一人や二人、手籠めにするのは容易でしょう?手を出していない時点で、センさんを理性のあるお方と信頼が出来ますわ)


 まあ彼女の考え通り、人を無力化してあれこれする術はいくつか挙げられる。

 俺も男だし、多少の欲は持ち合わせているつもり。

 変な気を起こさずにいられる大きな理由は、皮肉なことにハニートラップの影響。

 アプローチの方法は多岐に渡り、その結果猜疑心は強まって女性に対するトラウマが生まれた。


(いろいろ話させていただきましたけど、あくまでお願いなので後はセンさんのご意志で)


 これ以上否定する材料も見つから無かったので、クランヌの提案を受け入れることにした。

 元の世界より敏感になった嗅覚を恨むことにはなったが。

 しかし、起床したシルムが申し訳なさそうにしながらも、喜びが垣間見えたのでこの選択は正解だったと思う。

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