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33 契約

大遅刻になりましたが、あけましておめでとうございます。

今年も読んで下さりありがとうございます。

 さて、込み入った話がありながらも間食の時間だ。

 小皿に分けられた手元にあるチーズタルトは、表面と同じく断面も淡黄色。

 ムラなく綺麗な仕上がりになっていて、見た目からして美味しそうだ。

 見た目だけじゃないのは、我が身で十分に思い知らされているので、食べる前から期待が募るばかりである。


「いただきます」


 口に入れて咀嚼、ふわふわのチーズとサクッとしたタルトの食感が心地いい。

 ふんだんに使用したと言うだけあり、濃厚なチーズの味が口に広がる。

 しかし、タルトに練り込まれているであろう、バターの風味は負けずにしっかりと感じる。

 そしてカップを手に取りミルクチャーを流し込む・・・じんわり温かくチャーの良さを損ねないミルクとの見事な調和。


 二人とも分量の調節が的確で舌を巻く仕事ぶり。

 飲み込んでようやく、クランヌが説明していたことに合点が行った。


「濃厚で美味しいし、ミルクチャーがうまいこと口の中をさっぱりさせるから食べやすいな」

「本当ですか?お口に合ってよかったですっ!」

「ご理解いただけたようで何よりです。濃厚なのに対して軽めのミルクを含むことで、リセットされてまた堪能できる訳ですわね」


 今まで甘い物を食べるときは、特に考えず紅茶を選んでいた。

 これを機に、自分で調達する時や喫茶店に立ち寄ることがあったら、相性を意識してみるとしよう。





 ティーブレイクもほどほどに、今後の方針について話さなければならない。

 シルムの反応速度が飛躍的な成長を遂げ、良いラインまで達したのでステップアップと共に意識改革の第一歩。


「そろそろ、シルムに得物を用意しようと思う」

「えもの?もう実戦に入るってことですか?」

「おそらく、センさんが仰りたいのは武器のことでしょう」


 つい癖で得物と言ってしまい、シルムには意味が伝わらなかった。

 一般的な用語ではないし、主観で発言するのは控えるべきだったな。


「そうそう、武器全般を指して得物って言うんだ。今は素手で泡の対処をしているけど、あれが実際の攻撃だとすると無手じゃ厳しいからな」

「言葉の意味は理解しましたが・・・てっきり魔法一筋で行くのかと思ってました」

「魔法主流で行くのは違いないよ。でも、魔物の中には耐性が高かったり無無効化してくるやつもいるから、少しは物理戦もできるようにしておかないと」


 ネヴィマプリスのようにスキル持ちがいるのであれば、アンチ魔法系統を使う魔物がいても不思議では無いだろう。

 前の世界では、モンスターパレードの中にその魔物が紛れていて、英雄の一人である賢聖が唯一苦戦したとか。

 最悪の事態に追い込まれないよう備えが必要。

 それに武器を扱うことで、シルムに戦いの雰囲気を実感してもらう目的もある。

 

「そんな厄介な敵がいるんですね・・・それより、魔物もスキルを持っていることに驚きです」

「だいたい保持してるのは高ランク帯だけど、経験上遭遇するのは珍しくないんだよね」

「センさんのお話で思い出しましたけど、エストラリカ付近にある蒼然の森で、スキル持ちが出現したと数日前に聞き及んでいます。そう考えると十分身近に起こりうる話ですわね」


 ・・・心当たりありまくりなのだが、もしかしなくてもネヴィマプリスのことだろうな。

 もう倒したと言ってしまうのは簡単だけど、混乱を招きそうだし知らないフリをしておこう。

 影響力のあるクランヌが言い触らそうものなら、面倒ごとに発展するのは目に見えている。


「とまあ武器の重要性を説明したところで、次はどんな武器にするかが問題だな・・・やっぱり、一般的な剣が一番かな」

「そうですね・・・」


 悩ましげに言うと、候補を探っているのか、目を閉じ口に手をあて黙考状態。

 あくまで物理戦はサブ枠であり、極めようとは考えていないため、彼女に武器の希望があるならそれに委ねる。

 しかし、尖った意見が出ようものなら返答を躊躇ってしまうが・・・


「あっ!包丁なら扱うの得意ですよっ。毎日使ってますし、お手伝いで色々捌いたこともあります」


 あたかも包丁を握っているような手振りで、シュッシュッと空を裂くシルム。

 形状と重量が近いものに置き換えると短剣、いわゆるダガーになる。

 ダガーなら他と比べ教えられることが多く、革袋にさまざな種類が入っている。

 逆手で扱うので馴染むかどうかは分からないが、やってみてるとするか。


「分かった。あとで試してみよう」

「はいっ、ご教授お願いしますねっ」


 早めに案を出してくれたおかげで、休憩時間が結構残っている。

 この時間を利用してついでに、クランヌとの取引条件を決めてしまおう。


「クランヌ、さっきの続きいいか?」

「浄化水の件ですわね。では、話し合いをしましょうか」


 こちらに向き直った彼女は、いつも以上に生き生きとして見える。

 どれだけ利益が増やせるか勝負みたいなところあるし、気合いが入るのも当然か。

 

「じゃあ俺の条件を言うよ。まず、値段はそっちで決めてくれていいけど、一般の人が手を出しやすい値段に設定してほしい。それで利益の割り当ては、こっち2~3割で残りは全部そっちでどう?」

「・・・前者は最初からそのつもりでしたけど、後者は流石に弱気ではありませんこと?」


 意気込んでいたのに、張り合いがなさ過ぎたのか気の抜けた口調のクランヌ。

 もちろん、考えなしにこの条件を提示した訳ではない。


「そうでもないさ。仲介料とあと、入れ物を用意してもらう金額込みだから」

「はぁ、そうだとしても・・・まあこちらには好条件ですし、センさんが構わないのでしたら。でもそちらは3割と言うことで」

「うん。それでいいよ」


 小金稼ぎになればいい程度にしか思ってないから、多少入ってくるだけでも嬉しい。

 時間、場所、納期といった大事な点も忘れずに決めて契約完了となった。

 

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