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28 顛末

読んで下さりありがとうございます。

 まさか自身の総攻撃が外れると思っていなかったのか、それとも俺の取った行動があまりにも衝撃的だったのか、はたまたその両方か。

 何にせよ、軽い放心状態になってしまったクランヌ。

 観戦していたらしいシルムは「おぉー」と無邪気に歓声を上げており、二人が対照的な光景はちょっと面白い。

 

 そして、悠然と近づいてくる俺を見て詰みを悟ったのかそれ以降動きはなく、ひとまず模擬戦は終了した。




「人ってあれほど高く飛べるのですね」


 先ほど目の当たりにした光景について、呆れた様子で話しかけてきた。

 結局の所、俺があの包囲網を突破するためにしたことはただの跳躍…とは言っても魔法の持続時間を考慮したので、10メートル近くまで飛び上がった大ジャンプだが。

 

 クランヌが最後に放った「クラックゲイル」は数秒間激しい風を巻き起こし、その範囲内の対象に裂傷を負わせる副次効果を持つ中級魔法。

 中級だが広範囲で継続的にダメージを与えるので、風属性の中でもリターンが望める期待値と有用性の高い魔法だ。

 欠点なのは発動後は風向きの変更は不可能なので、範囲外に退避されてしまうと、ただ風を吹かしただけになってしまうこと。

 

 なので、地上が駄目なら空中へというのは安直ではあるが、その弱点を踏まえた上でのアクション。

 それに、ここ異世界において飛び上がるというのは、特にリスクを伴わない行為。

 足場を空中に展開したり反動の利用、難易度は高くなるが浮遊魔法を使えれば動き回れるし、さらに転移なら縦横無尽の立ち回りが実現できる。

 とどのつまり、もしあの場面で攻撃が来ていたとしても、何とかなってしまうわけだ。


「さっきのは地力でやれる人もいるよ…多分。そうでなくとも強化系統が得意なら同じこと出来るしね」

「ええ、参考になりましたわ。使い道もですが、しっかりと状況を見てから扱うことにいたします」


 俺が特に指摘しなくても、彼女は自身で戦法を考え行動しており向上心も見られる。

 加えて、最後にしてみせた攻勢だが、咄嗟にしては機転の利いたもので思わず感服した。

 経験不足故にどうしても試しながらになるが、このまま模擬戦を重ねれば立派に成長するはず。

 

 しっかり自身を省みるクランヌであれば、思考停止に陥らず先を見据えてことを為し、どんどん進化を遂げて行くだろう。

 未知数な少女二人がどれほどのものになるか、これからの行く末が楽しみになってきたぞ。





「私も模擬戦やりたいですっ」


 訓練の合間に取った小休止の際、赤銅色の瞳に期待を込めたシルムからの希い。

 あれから、遠中近の一定距離を維持した状態や、どれだけ時間を稼げるか等の条件付けをして模擬戦を行い、その都度重点のおさらいと軽いアドバイス。

 駆け引きが面白そうで、楽そうな雰囲気でいた俺らをみて感化されたとのこと。


 俺とクランヌはワンツーマンでしている為、どうしてもシルムが放置気味になってしまうことに対しての不満もあるようで「むーっ」と頬を膨らませていた。

 確かに、魔力補充する時に軽く進捗具合とかを話すだけで、すぐに戻ってしまうからな・・・。

 クランヌが入る前は二人で会話しながらが普通だったので、一人で黙々とするのは違和感を覚えて仕方がないようだ。

 彼女の要求を無下にするつもりは無いが、現状では良い返事は出せないな。

 

「俺としては、今はやっていることを集中的に頑張ってもらいたい」

「それも大事だと思いますけど…時間の半分を回すのは駄目ですか?」

「さっきも言ったけど今は我慢して、今はね。理由としては、現状シルムが使える魔法の種類は多くなくて無詠唱も一部だから、この状態で模擬戦しても、戦術の幅が狭いからたいした成果が望めないんだよ」


 シルムに比べてクランヌは多忙になる以前、魔法を使う機会がそこそこあったらしく、それによって色々工夫しながらできる訳だ。

 もし、クランヌも魔法初心者だったら単調なことを繰り返す羽目になり、そもそも模擬戦いらないという流れになっただろう。

 

 これは蛇足になるが、初回の模擬戦で多数用意して見せたように、クランヌは設置魔法の練度が突出して高い。

 彼女が言うには「場所に困りませんもの」とのこと。

 なるほど、設置魔法は基本相手がいないと成立しないし、発動させなくても回数は稼げるので、何処でも出来るのが大きな利点という訳だ。


「そういうことだから、シルムがレパートリーを増やして、俺が頃合いだと思ったらやるつもり。今の調子で行けば近いうちに出来るとようになるさ」

「はーい。センお兄さんの言う通りにしますけど、約束ですよ?破ったら…後が怖いですからね」


 そんな意味深長に呟かれると、怖いもの見たさでちょっと興味があるにはあるが、反故にするつもりはない。

 好奇心は猫を殺すというし、せっかく結んだ縁なのだから大事にしないとな。 

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