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25 予兆

読んで下さりありがとうございます。

「あっ、美味い。本格的だから凄いフルーティーだ」

「それは何よりですわ。リンゴの方もこだわっていますので」


 まだ時間に余裕があるらしく、このまま刻限が来るまで交流を深めようというになり、続けてチャーのおかわりを薦められた。

 二杯目はストレート以外にしようと思い、メニューを見てみたが一部全く知らない名前が羅列しており、弱っていたらクランヌとシルムの二人がかりで色々教えてくれて勉強になった。

 

 最終的に俺が選んだのが馴染み深いアップルチャー。

 薄くスライスしたリンゴを入れたポットに入れて、そこにチャーを注いで長めに抽出。

 クランヌの見事な手腕によって、ナチュラルなリンゴの香りと味わいが楽しめる仕上った。

 

「へー、そんなことまで知ってるなんて、相当通いつめてるんだな」

「ああ、センさんには伝えていませんでしたが、このお店の関係者ですのよ私」

「え、そうだったのか」


 そう言われると、先ほどのリンゴに関する発言は当事者っぽさを感じたし、常連とはいえ余りにも内のことに詳しい。

 

「ええ、マスターのお店とは契約を結んでおります」

「関係者用であるこの個室を利用できるのも、そのお陰なんですよ」

「ふーん、常連だから特別にという訳ではないのな」

「ふふっ、リピーターも多いので優待していると、キリが無くなってしまいますわ」


 曰く、エストラリカでは余りチャーが栽培されておらず、遠方で盛んに生産されていて、そこの良質な葉をこのお店に融通している。

 それで輸送費を大幅に削減、多少値は張るが、一般人でも十分通える価格で提供が可能になった。

 働きかけているクランヌへのお礼込みで、重要な用件が入ってなければ、基本この部屋を開けているらしい。

 

 彼女は一方的に好意を受けるのを良しとせず、利用した分の室料代わりに、取引の際は色をつけるようにしているとか。

 お互いが譲歩しあって、対等で良好な関係が形成できていると言えるだろう。

 



「そろそろお開きといたしましょうか」

「あっ、もうこんな時間」


 備え付けの時計を確認すると夕刻に迫っており、このちょっとした茶会も閉会し、各自なすべきことを済ませに行かねばならない。

 ほとんどの時間取り留めのない雑談をしていたが、二人の人間性が垣間見えて良かった。


「今日は早い所解散するか。それでお代はいくら?」

「いえ、誘ったのは私なのでお代は結構ですわ。それに、装飾品に能力を付与していただきますし。シルムは、また何か美味しいものをお願いしますね」

「はーい。気持ちを込めて作りますねっ」


 そうしてマスターに挨拶、皆で別れの言葉を交わし、クランヌは取引先に、シルムと俺は住宅街に向かって動く。

 帰り際、今後よろしくお願いしますと握手を交わし、ついでに魔力補充を頼まれた時、クランヌは抜け目ないなと思った。

 シルムにはまた後でと伝え、道中で別れた。



 宿屋に着き、またすぐに出かけるので部屋の鍵は受け取らず、食堂の席を借りて『エンチャント』を施す。

 付与するのはさっと終わるし、リンクさせるのと一緒に済ませてしまおう。

 

 必須なのは『伝達』とクランヌの立場上、鑑定士に関わることが多いだろうし阻害も必要。


(せっかくだし、3つ目も何か付けるか)

 

 そうなると、シルムのと同じ構成が候補になるが、『スキルブースト』が転移に適用されるかは不明。

 安定を取るなら『魔力消費軽減』にするのが最適、しかし得られる恩恵は『スキルブースト』の方が大きい。

 

 こればかりは本人に試してもらう他ないが・・・大事なのは最初の二つなので、おまけ程度に考えて3つを付与。

 かなり魔力を消費したが、今日はもうシルムに届けるだけだし、支障は無いだろう。




「ん?あれは・・・」


 ブレスレットを持参し孤児院付近に差し掛かった所、入り口でシルムと、礼服を身にまとった男性がやりとりしているのが見える。

 しばらく様子を窺っていると、シルムに紙っぽいものを渡すとその場を後にした。

 受け取ったシルムは浮かない顔、もしかしたら面倒事の類いかも。

 興味をひかれるのは間違いないが、外野が下手に踏みいるのは駄目だし、話題には触れないようにしよう。


「さっきぶり、シルム。ブレスレット持って来たよ」

「センお兄さん。本当にお早いですね」

「約束を反故にするつもりは無いから。はいこれ」

「ありがとうございますっ。早速身に付けさせてもらいますね」


 瞬時に、曇った表情を掻き消す、本当に嬉しそうな笑顔。

 シルムは感情の浮き沈みが多いから、まさに打てば響くという言葉がしっくりくる。


「じゃ、長居するのもあれだし帰るよ。何か困ったことがあったら気兼ねなく連絡してくれ」

「あっ・・・はい。また明日よろしくお願いします」


 何か言いたげそうにしていたが、シルムは話すことはしなかった。


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