24 提案
読んで下さりありがとうございます。
「ただいま戻りました…あら?もう少し席を外した方がよろしいかしら」
「おかえりなさい、クランヌさん!いえ、その必要は無いですよっ。ですよね、センお兄さん」
「ああうん。気にしないでくれ」
突然現れるのはどうかと思ったのか、転移を使わず普通に個室の入り口から戻ってきたクランヌ。
そして入って来て早々、出発前とは違う機微を感じとり、気を利かせようとしてくれたが断りを入れる。
喜色満面のシルムと、それとは対照的な俺を見て、何かを察してのことだろう。
客商売をしているからか場の空気を読むのが早い。
気を落としていたシルムを、予想以上に活気付けることには成功した。
それは良かったのだが、一連の流れで反省しなければならない点が出てきた。
まず、あの状況を打開するためにしたのは、考えて思い付いたひとつの提案。
その内容は「装飾品のリンクはすぐ済むから、終わり次第俺がすぐ届けに行くよ。渡すだけなら時間は取らないし」というもの。
しかし俺が出した提案に、そこまでは…とシルムが難色を示したので、それに対して
「気を使ってる訳じゃなくて、俺の意思でしたいと思ったんだよ、渡した時あれだけ喜んでくれたから」
そう伝えると、みるみる内に表情は明るくなり「嬉しいなぁ…」と感極まった様子で呟いた。
こうして悪い雰囲気を解消できてめでたしめでたし、と終われば良かったのだが、シルムの喜びようを見てついつい口にしてしまった。
「ちょっと大袈裟じゃないか?」
「いえ、本当に嬉しいんですっ、私個人のために動いてくれることが。孤児院では年長者ですから、誰かに何かしてもらうことってあんまり無いので」
この返答を聞いて、シルムに対しての発言が失言であり、配慮が足りていないと認識した。
親がいない彼女は、自分自身で子供たちの世話を含め色々せねばならず、一般家庭みたいに甘えることは叶わない。
だから誇張抜きに、自分のことを思ってくれることが人一倍嬉しいのかもしれない。
相手の立場を考えずデリカシーの欠けた問いかけだったと自責に
加え自戒。
少し長くなったが先述の構図が出来上がった経緯はこんな感じ。
ようするに、自爆した愚か者は身の振り方をを改めることにしたということだ。
このことは胸に留めておいて、戻ってきたクランヌの成果はどうだろうか。
「それで、持って来てくれたか?」
「はい。こちらなのですけど…」
「すごい…素敵です。見とれちゃいますね」
差し出されたのは、小判型や菱形の形状をした宝石が散りばめられた髪飾り。
『伝達』は目視で点滅しているか確認するから、髪飾りだと取り外す手間が増えてしまうが…用意してもらってるから無理は言えないな。
まあ、定期的に連絡が来てないか確認するようにすれば、面倒だが外さなくても使えるが。
それよりも何故か、クランヌが申し訳なさそうなのが気になる。
「えっと、どうかした?」
「その、装飾品はいくつかあるのですけど、長い時間肌に触れさせるのは、あまりいい気がしないので髪飾りしましたの。私の我儘で決めてしまったので…」
「ああそういうこと。いや、我慢されても困るから気にしないで。わざわざ取りに行ってくれてありがとう。少しの間預からせてもらうよ」
問題ないことが分かり、ほっと胸を撫で下ろし元の席に座る。
「安心しましたわ。私、付与させることについては無知ですから、断られたらどうしようかと」
「余所はどうなのか知らないけど、大抵の物は大丈夫。あ、とは言っても依頼は受付ないよ。秘密にしたいからね」
「あら、それは残念ですわ」
うん、声の調子戻って微笑にも余裕を感じられるし、これで落ち着いたかな。
受け取った髪飾りは精巧な作りになってるから、下手に傷つけないよう、革袋の貴重品の枠にちゃんと納めておこう。
時間、場所は定まってるし、訓練に伴う必要な物の確保も済んだ…あとは方針を固めるくらいか。
「最後の一つなんだけど、どんな感じで訓練したい?例えば、ただ魔法を使い続けるか、的を狙ったりして精度を高めるか、実戦形式で応用を利かせるか」
「まあ!ありがたい提案ですわね。んー、実戦形式は魅力的ですけど、私魔法は素人同然ですので全く相手になりませんわよ」
ん?何か咎めるような視線をシルムから感じる…気になるが話の腰は折れないから後回しだ。
「さすがにそれは段階的に調整するよ。基本俺は動き回るだけだし」
「でしたら、それでお願いします。センさんからのご提案、とても助かりますわ。最近は知名度も上がってきて喜ばしい反面、身の危険も近しくなっていますの」
クランヌは主要人物や貴重品転移を担っているんだったな。
そんな仕事に携わってたら、面倒ごとに巻き込まれる可能性は十分にあり得る。
俺から言わせれば、そんな立場に置かれるのは御免被る。
それで、だ。
「シルムは何で不機嫌なんだ?」
じとーっとした目付きでこちらを見るシルムから不満が滲み出ている。
「いえー別に。私は模擬戦させてもらったこと無いのに、クランヌさんには勧めるのは、もしかしてあれなのかなーって。まあクランヌお綺麗ですからね」
「おいおい勘違いしないでくれよ。クランヌは魔力の向上が第一目的だから魔法ありきのーーー
なんとか特別扱いしている訳ではないと弁解をして、シルムにしっかり理解してもらった。
その間クランヌは面白そうに傍観を決め込んでいたのが、少し恨ましかった。
色々と振り回されているけど、こういうのも新鮮で悪くないな。
寒暖差による体調の変化にご注意を。




