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23 内容

読んで下さりありがとうございます

 とりあえず話が一段落したので、手をつけていなかったチャーで喉を潤す。

 時間経過によって少々熱が奪われていたが、渋みもそんなに感じず風味の良さを保っている。

 紅茶は温度が下がると味が落ちる記憶があったので、酷似しているチャーもそうなのかと思い込んでいた。

 品質や品種による違いかもしれないが、知識が乏しいので正確なことは謎。

 こういった所も加味して、造詣のあるクランヌに任せられたのは僥倖だったか。

 

「そういえば前に話してた件はどうでした?」

「あれでしたら、つつがなく終えました…と言いたいのが本音ですけれど、縁談のお話が無ければ完璧でしたわね」

「あー、やっぱりまた縁談のお誘いがあったんですね。もう結構な人数になりますよね」

「今はうつつを抜かしてる余裕はありませんのに、その手の話を持ちかけられても、ただ困るだけですわ。それに一部の方は下心が透けて見えますし」


 話すクランヌの様子は呆れ混じりで、よっぽど現状に参っているのだろう。

 見るものを魅了する容姿に、廃れそうにもない『転移』の持ち主なのだから、引く手数多になるのも頷ける。


「せっかく大きな取引でも、毎回厄介なのが付いて回るとなると考えものですねー」

「…否定は致しませんけれど、もうちょっと遠回しな方がよろしくってよ」


 さて、二人が近況の報告をしているところ悪いが、先ほど決めた訓練のことについて触れておきたい。

 話を聞いて情報を集めつつ、要望があるならそれを交えて今後の方針を考えないと。

 会話のキリがいいところを見計らって、切り出す。


「すまないがちょっといいか?訓練の中身について話したいんだが」

「そういえば、内容に関しては何も決めていませんでしたわね…忘れるだなんで、浮かれているのかしら」


 自戒するように呟き、恥じらいからか白い頬に赤みが差している。

 隙のない子だと思いこんでいたが、反応は豊かでとても人間味があって親しみやすく感じる。


「言い出しといて何だけど、時間の方は大丈夫?忙しいみたいだし」

「それでしたらお気になさらず。魔力の大半を消費してから来てますし、今日はこれと言った用事も入っておりませんので」


 今は魔力を回復させる休憩時間ということか。

 自然回復で一番効率的なのは寝ることだが、睡眠を取りすぎると生活リズムが崩れるし、それでは自分を犠牲にしてしまう。

 自然回復以外にも手段はいくつかあるが、それが出来るなら俺を頼ってくることはしないだろう。

 結局のところ、焦らず待つことに落ち着いたわけだ。


「シルムの方は?」

「私も時間の猶予はまだあるので平気です」

「そっか。なら、話の方に移らせてもらう。まずは時間について。訓練は昼下がり…この時間に基本毎日行ってるけど、どうだ?」


 店内に備え付けてあった時計を指し示して、クランヌに不都合か無いか確認。


「時間は問題ありませんわ。毎日は流石に…いえ、直近とこれからの予定キャンセルしてしまえば」


 おいおい、とんでもない発言をしているがそれは大丈夫なのか。

 横で聞いてるシルムなんて分かりやすく驚いてるし。


「ええっ!?この前顔合わせとか依頼の確認とか、その他諸々しなきゃいけないと言ってませんでした?」

「まあ、会合は顔覚えていただくのが目的なだけですし、その他は別の方に任せても、特に影響は無いと思いますわ」


 商売する上で面識を得ておくことは大事だと思うが…でも、本人が決めたのだから、部外者が指摘することでは無いな。

 そうなるとクランヌも急用が無い限り毎回参加することになる。

 そうだ、急用と言ったらクランヌにも『伝達』の術を提供した方が良さそうだ。

 クランヌなら装飾品の一つや二つ所持していそうだし、仕掛けてみるか。


「唐突な話になるけど、クランヌはアクセサリーって持ってる?」

「本当に突然ですわね…ええまあ、今は身に付けておりませんが、家にいくつか。それがいかがなさいました?」

「訓練に役立つ能力を付与させようと思って。いろんな物を扱っているなら知っているだろう?装備品による能力の恩恵」

「存じていますわ。けれど、そういうのは大抵高額なものばかりですが、センさんに支障は無いのかしら?」


 『エンチャント』を施すのは俺だから気にしなくていい、なんて正直に話すつもりはまだない。

 歴代英雄の持つ能力は、他の似たような能力とは一線をなしている。

 『エンチャント』は三つまで付与できるが、普通だったら一つ、運が良ければ二つというのが限度。

 バレると面倒だし、今は誤魔化して話を先に進める。


「費用をかけずに付与する用意があるから平気。そういうわけで…はいこれを」


 詮索を避けるために間断なく杖を取り出して、持ち手の部分を差し出す。

 

「何故いきなり杖?というより今どこからーーー」

「まぁまぁ、とりあえず杖に触れてくれ」

「あら、強引ですのね…あとで聞かせてもらいますわよ?」


 しぶしぶではあるが杖に触れたのを確認したので、魔力譲渡を使って一気に魔力を送る。

 クランヌは身におきた変化を理解したらしく、一瞬固まったあと、呆然とした様子で口を開く。


「貴方の魔力譲渡とんでもない早さですわね。他の方より何倍も」

「慣れてるからだよ」

「はあ、そういうものなのかしら・・・貴方の意図は分かりましたわ。それでは少し席を外させていただきます」


 離席の旨を伝えると、瞬く間に目の前からいなくなった。


「クランヌさんにも『伝達』を?」

「そうだね。あれが無いと不便だから」

「やっぱりそうでしたか!連絡が取れるようになるのは私にも大助かりですっ」


 安易に相手の状況を確認できないこの世界から見れば『伝達』はかなり大きい要素と言える。

 しかし、よく考えてみると扱うにはクランヌの装飾品ともリンクさせる必要があるな。

 それ自体はすぐ終わることだが、目の前でしてしまうと感づかれる。

 つまりーーー


「シルム、悪いけどそのブレスレット、一日預けてもらっていいか」

「あ…はい」

「ずっと身につけると言ってくれたばかりなのに、ごめん」

「いえ、必要なことですから。センお兄さんが謝ること無いですよ」


 明かしてしまえば、落ち込んだシルムを見ずに済むのに、保身に走るとは俺も自己中心的だな。

 それだけ前の世界で体験したことが根強く残っているということか…クランヌが戻って来る前にこの雰囲気をどうにかしないと。

 


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