21 取引
読んで下さりありがとうございます。
「へぇ、クランヌさんもシルムのことを見かねて手伝ったのが出会いだったのか」
「私のことはクランヌで構いませんわ。一目で無茶だと分かったので、放っておくのはどうかと思いまして」
「その件では、お二人にお世話になりました」
クランヌの言う行き付けの店に向かう途中、シルムと知り合ったきっかけが話題に上がり、当時のことについて話すと、どちらも似たような状況だったことが判明した。
「シルムに最初警告されたときは、さすがに軽く面食らったけどな」
「ああそれは私が申すようにと言いつけたのですわ。シルムはそう易々と騙されたりしないと承知していますけど、念のために」
「うーん…私的には必要ないとは思うんですけどねー。もうすぐ成人になりますし」
「もうすぐ、ではありますけど、まだ、とも言えますわよ?」
不満なのか少し膨れっ面のシルムと、優しく宥めるような口調のクランヌ。
子供たちに慕われてるみたいだし、シルムと同じようにクランヌも面倒見が良さそうだ。
こうして二人のやりとりを見ていると仲が良いのが垣間見えて、その光景は本当の姉妹みたいだな。
「いらっしゃいませ。おや、クランヌさんでしたか」
「ごきげんようマスター」
場所は変わってクランヌの行きつけという喫茶店。
広めの店内は落ち着いた雰囲気になっていて、お茶をしている客が数人いるが、静かで穏やかな空間だ。
「奥の方は開いておりますが、ご注文はどうします?」
「それは助かりますわ。いつものを三人分いただけるかしら」
「かしこまりました。後ほどお伺いさせていただきます」
「ええ、よろしくお願いいたします。それでは参りましょうか」
常連なだけあって会話を手短に済ませ、先導するクランヌについていくと、その先には防音のためか分厚い壁に囲まれた個室。
カウンター席とテーブル席から離れたところに設けられていて、どうみても一般用とは思えない。
備え付けの椅子にクランヌとシルムが二人並んで座り、テーブルを挟んで俺はそれに対面する形で着席。
「ご覧の通りお話するのにはお誂え向きですが、それはマスターが届けて下さってからにしましょう」
「そういえば気になっていたんだが、いつものって言うのは?」
「あまり一般的ではないのですけれど…チャーというものはご存じ?」
「名前くらいは見た記憶があるけど実物は…」
俺が見かけたのはチャーの葉で、そこから抽出して飲み物とするのだろうが、茶葉に関しての知識を持ち合わせていないため、見た目だけで判別することはできない。
「感想を教えて貰えればだいたい分かるかも」
「そうですわね…香りが良くて色は赤色が基本ですわ」
「私もいただいたことありますけど、ミルクとか色々合わせたり出来ますね」
「なるほど。知ってるやつかも」
これだけ分かれば十分に予想がつく、というよりも答えは出てるようなものだな。
まとまった所にノちょうど、ノックの音が数回響く。
「どうぞ」
「失礼します。チャーセットお待たせしました…それではごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
入ってきたマスターによって、手際よく配膳が行われる。
カップにソーサー、ティーポットにいくつかの小瓶があり、カップの中は空なので自分で注ぐのだろう。
ガラスのティーポットの中身は思った通り、見た目は完全に紅茶そのもの。
「汲むのは私にお任せを。シルムは前と同じでよろしくて?」
「はいっ、お願いします」
「センさんはどういたします?そのままでも美味しいですけれど、ミルクやレモン、はちみつもありますわよ」
小瓶の中身は、今クランヌが述べたものなどが入っているみたいだ。
「俺はそのままもらおうかな」
紅茶を店で味わう機会なんてそう無いので、割と楽しみだったり。
クランヌとシルムはミルクチャーにするらしく、前もってカップの中に少量ミルクを入れていた。
しっかり蒸らし終えるまで待って軽く混ぜてから、こし器を使ってこしながら回し注いでいる。
こういう作業はふさわしい人がやると映えるから視覚的にも楽しめる。
最後の一滴まで注ぎ、立ち上る湯気から漂う香りは高く、この時点で自分の知っている紅茶とは別物だと感じさせられる。
「どうぞ、お召し上がり下さいませ」
「「いただきます」」
チャーを少し口にすると爽快な渋みで飲み口が良く、これなら確かにストレートでもグイっと飲めてしまう。
ついつい溜め息がこぼれてしまう美味しさ。
「一息ついてもらったことですし、本題に入りましょう。私が一番気になっていますのは、お二人の協力関係についてですが…お聞かせ願えるかしら」
いきなり核心をついてきたな…気軽に話せるような内容ではないためシルムも困り顔。
クランヌとそんなに関わるつもりは無いのだが、これはある意味チャンスだし逃してしまうのも勿体ない。
「話し難いのでしたら深く追求はしませんが…」
「私からは何とも言えませんので、話すかどうかはセンお兄さんに委ねます」
「そうだな…他人に言わないのと、頼みを一つ聞いてくれるという条件なら」
乗ってくれれば好都合だし、断られても特に支障は無いので言うだけタダ。
それにシルムと親しいから、何かあったときに力になってくれる見込みもある。
「前者は当然のことですけど、頼みというのは内容次第ですわ」
「クランヌはチャーに詳しいみたいだから、おすすめのリーフとか、チャーについて色々教えてもらいたい」
「それならお安い御用ですわ。私の全力を持ってご教授させていただきます」
心得たと胸に手を当て、自信たっぷりに言い放つクランヌ。
先ほどの手さばきを見るに、この人選であれば任せても問題はないだろう。
「後ほどお務めを果たしますので、とりあえず話の方をお願いしますわね」
「ああ、それじゃあ少し時間もらうよ。まずはーーー
「協力関係の理由はおおよそ把握しましたわ。それに二人の関係性も」
異世界のことは黙りつつ、過去に追われる身となったことから始め、これまでの経緯や目的を話した。
浮わついた話が一切出てこず、期待していたらしいクランヌは少し残念そうにしていた。
「それでシルムにお聞きしたいのですけど、訓練の成果はどうなのでしょう?」
「今日で二日目になりますが、最初と比べたら成長してる実感はとてもありますよ! 今はまだまだでしょうけど、現実味は帯びて来たって感じです」
「まぁ!シルムがそう言いきるのであれば、余程のことなのでしょうね…」
シルムが濁さず発言したのを見て納得した様子であったが、その直後に何かを考え込んでいる。
数秒経過して、考えをまとめ終えたクランヌが、こちらを見据えている。
どうやら俺に対して用事があるみたいだ。
「センさん、次は私の頼みごとを聞いていただけませんか?」
「俺にいったい何の頼みごとが?」
「貴方が行っている訓練・・・私も参加してよろしくって?」
…どうしてそうなった?




