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20 邂逅

読んで下さりありがとうございます。

 遅延魔弾の制限時間が来たので空間魔法を解除し、シルムと一緒に孤児院の外へ向かって歩く。

 シルムは毎度、わざわざ入口の方まで見送りに来てくれる。

 俺は「建物の玄関で解散でよくないか?」と意見したがやんわりと断られた。

 そんなシルムのことを律儀と称するべきか、はたまた強情と言うべきか…。


「今日はお疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」

「お疲れ様。何か連絡があったり、手伝って欲しいことがあったら、気軽にそれ使ってもらっていいから。それじゃあーー

「あら?」


 別れを告げようとしたその拍子に、第三者の発した短くも良く通る声で遮られる。

 声のした方を見ると、今帰ってきたのか荷物を提げた子供たちに加え、見覚えのない女性がいた。

 女性とは言っても若く見えるので、少女寄りという感じではあるが。


 銀糸のように細く輝くロングヘアーに、聡明さを感じさせる青く澄んだ瞳と微笑みを湛えた唇。

 空色を基調としたロリータ系のコーデで、腕の大半を覆う袖と、膝下まであるスカートから伸びるのは、混じりけの無い白くスラッとした手足。

 スタイルは均整が取れていて、あと数年もすれば美人になるであろう。

 それに、一般人とは違うこの雰囲気はおそらく…。



「クランヌさん!いらしてたんですね」

「ごきげんよう、シルム…話をするから、先に行っててもらえるかしら?」


 子供たちは皆一様に元気良く返事をすると、建物の中に入っていき、その場には3人だけが残った。

 

「それで、こちらの女性は?」

「まあ…!」


 シルムから彼女のことについて聞こうとすると、何故かその彼女が突然、口に手を当て少し目を見開いて驚いている。

 この数秒の間に何処か驚く要素などあっただろうか。


「ああ、ごめんなさい。私のことを女性と言ってくれたことに驚いたのですわ。大半の方はお嬢さんと子供を相手にするような調子で呼ぶので…若く見えるのは悪いことではありませんが、淑女を心掛けている私からしたらあまり…」


 もう成人しているのですけれど、と付け足して日頃の鬱憤を口にしている。

 この世界で基準とされている成人の年齢は知らないが、容姿から判断するとまだ10代といったところだ。

 しかしこの年代にしては、随分と大人びて見える。


 そう感じさせるのは、彼女の仕草があまりにも洗練されているからだろう。

 先ほどシルムに挨拶した際の優雅な一礼に、自信に満ちて毅然とした態度。

 一つ一つの所作に表れている貞淑さは気取ったものではなく、ごく自然な振る舞い。

 見たときから感じていて、今はほぼ確信に変わったが彼女は貴族だろうな、しかも爵位は上の方。


「こほん、それは置いときまして。私はクランヌと申します。シルムとは友人の間柄ですわ。次はあなたのことをお聞かせ願えるかしら?」

「これはご丁寧にどうも、俺の名前はセン。シルムとの関係は…協力関係ってところかな?」

「協力関係…ですの?先ほどあの子たちに、数日前から二人で行動していると聞いたので、てっきりシルムにいい人が出来たのかと」

「えっと、私にとってセンお兄さんは、運命を変えてくれそうな人…ですかね」


 俺とクランヌのやり取りを見守っていたシルムから突如、誤解されそうな一言が放たれる。

 深い意味は無いのだろうけど、この言い回しは聞き手にそう受け取られかねない。


「あらあら、それは是非とも、そのことについて委細お聞きしたいものですわね」


 表情には出ていないが、興味津々というのが声の調子から伝わってくる。

 弁解しておきたいけど色々話す必要があるし、できるだけ関わるのは遠慮したいのが本音。


「とりあえず立ち話も何ですし、場所を変えませんこと?私の行きつけで良いところがありますの」


 そんなわけで、こうして誘ってもらったところ悪いのだが、正当な理由で断らせていただく


「残念だけど、シルムには家事とかやることあって忙しいみたいだし、邪魔したら悪いから遠慮するよ」

「ああ、それなんですけど、クランヌさんが私の代わりに買い物に行ってくれたようなので、多少の時間は確保できますよ」

「とのことですけど、いかが?」

「…なら同伴しようかな」

「決まり、ですわね」


 まあ、俺のことについて問われたとき困るかもしれないし、いた方がシルムの助けになると思えばいいか。

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