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読んで下さりありがとうございます

 空間魔法を解除し、本当に経過時間は1時間と効果を完全に信じてもらえたところで、また同じくらいに来るという旨を伝えシルムと別れた。


 時間経過減速の魔弾は短時間でも、かなり魔力を消耗するため、片手で数えるほどしか使ったことが無い。

 そして10時間という長時間タイプは初めての体験だったので、時間の感覚が軽く狂いそうになっている。

 使い過ぎると習慣が崩れそうだと危惧の念を抱く。

 そうなると訓練も集中的に行わず、適度に日をばらした方がいいかもしれない・・・その点はシルムと要相談だな。


 さて、今の時間帯はまだ昼下がりであるが、そこそこ魔力を消費したので、おとなしく宿に戻って回想をするとしよう・・・というのは当初の考え。

 

 少し前から薄々と感じていたことがあって、それは不便さである。

 何が不便なのかというと、連絡する手段を持ち合わせていないことだ。

 この世界と前の世界もそうだったが、魔法の存在があるため科学の発展が進んでおらず、無線等の通信するものが作られていないので、相手の状況をすぐには知れない。

 

 シルムには同じ時間に行くとは言ったものの、そう思い通りに事が運ばないのが世の常。

 こっちに来て間もない俺は、特にしがらみもなく足止めを食らう可能性は低いと言えるが、彼女はその逆で年長者として子供の面倒を見る立場で多忙。

 いつ自分の体調を崩すかも分からないし、子供の看病に回ることになれば訓練どころではないだろう。

 そして事情を知らずにやってきた俺に対して、今日は訓練できないと謝り、心苦しくなる流れが目に浮かぶ。


 そこで『エンチャント』の出番。

 残念ながら通話をすることは叶わないが、代わりに自分の居場所を伝え、一言だけ添えられる『伝達』のスキルがある。

 これは物を二つ用意し、リンクさせて一組することによって、その間で扱うことができる。

 

 なので、どこでも使えるよう身に付けられる装身具を用いるつもりだったが、革袋の中には報酬などで得た高級品しか見当たらなかった。

 

(服飾はこだわってないから当然か)

 

 浮かないように衣服は周りと馴染むものを身につけてはいるが、アクセサリーの類いは気に掛けていない。

 長くなったが結局の話、装飾品を今から見繕いに行くつもりだ。

 たしか商店街の方に店があったので、そこに向かうとする。



 

 場所を二転三転とし、最終的に工業区域の一角にやってきた。

 商店街に目的の店はあったが、地方の装飾品を取り扱っている店だったため、全体的に値が張っている。

 シルムに似合いそうなのをいくつか発見したが、高価な物はまだ早いと言った手前、本末転倒なのでやめておいた。

 行き詰ったので門に向かってクストスを頼りに行くと「工業区域の方に一つある」と道順を教えてくれた。

 

 聞いた通りに進み、たどり着いた先には大きめの平屋と看板が目につく。

 ここで間違いないだろうと、ドアに向かって進んで行くとーーー


「評判を聞き付けてやってきたが、とんだ無駄足だったな」


 文句を言いながら一人の男が、数人の女性を引き連れて建物の中から出てくる。

 金髪で整っている顔立ちだが、服装をいかにもな高級品で固めており、派手で見ていて眩しく目に毒だ。

 取り巻きと思われる女性たちも似たようなもので、十中八九貴族であろう。


「わざわざこんなところまで出向いたというのに・・・とっとと帰るぞ」

 

 終始イラついた様子の気障っぽい男は北の方に去っていった。

 評判を聞いてやってきたと言っていたが、それなら期待できるかもしれないな。

 火のないところに煙は立たないと言うし、ああいう見た目で選んでいそうなタイプの評価はあてにならない。


「いらっしゃいませ」


 ドアを開き中に入ると少々疲れ顔の女性がカウンターに立っていた。

 疲れの原因は先ほどの客だろうと容易に推測でき、同情してしまう。

 ショーケースの中に展示されている金品を見て回ると、色々と納得がいった。


 まずは手頃な値段、さっき訪れた店は地方という条件も込みの値段だろうが、金貨数枚は普通だった。

 しかしこの店は銀貨で買えるものもあるし、少し高いのも金貨2~3枚あれば買える。

 一般的な生活を送っている人も、浪費しなければ十分に手が届く範囲だ。


 次に質、確かにさっきの男が身に付けていた装飾品には劣るが、よく手入れされているのか色んな角度から見ても輝きを発している。

 安価で提供しているということは、素材が安物または採算を度外視しているという可能性が高い。

 流石に後者は現実味が薄いからあり得るのは前者とすると、仕立て上げた職人の腕前は相当優れていることになる。

 俺は別に評論家というほど装飾関連に精通してはいないが、目だけは利くので違いがだいたい分かる。


 最後はシンプルさ、金か銀のみで構成されているアクセサリーがほとんどで、これも安さの要因だろうが、意匠を凝らすことで差異を出している。

 シンプル故誤魔化しがきかず、腕で勝負するという意を感じ感銘を受ける。

 文句無し、ではなくて是非ともこのお店で買わさせてもらうとしよう。


(うーん、どうしたものか)


 よくよく考えてみたら、アクセサリーを買うことに意識が集中していたせいで、どの分類にするか決めていない。

 髪飾り、耳飾り、首飾り、腕輪、指輪・・・多種多様でどれも捨てがたいところだが、『伝達』の性質を考えると実用的なのは絞られてくる。

 『伝達』は相手に直接内容が伝わるわけではなく、連絡があると付与された物に変化が起きるので、自分で確認する必要がある。

 そうなると目に付きやすいのが望ましいので、選択肢は2択となるが、実質は一択のようなものだ。

 

 どうやら世界が変わっても指輪の文化はそう大差はなく、求婚されていると受け取られかねないようだ。

 というわけでバングルタイプのブレスレットに決めたのだが、売り場と作業場を併せ持っているらしく、サービスで名前を彫ってくれるそうなので、俺とシルムの両方を頼み、二つで金貨一枚で購入をして、無事に揃えることができた。

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