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14 訓練3

読んで下さりありがとうございます

「そろそろ休憩しよう」


 魔力譲渡を行うこと数回、肉体的な疲労は少なくても、魔法を使うのには集中することも必須なので、精神的な疲れが出て来る。

 特に訓練を始めたばかりで慣れていないから、こまめに休憩を挟まねば。


「まだ大丈夫ですが…何か理由があるんでしょうし、おとなしく従います」


 その場に座り込んだ俺に続いて、魔法を停止させちょこんと座る。


「聞き分けが良くて助かる。根を詰めると却って効率が悪いし、人は楽しようとする生き物だから、集中が切れた状態で続けてると、身に付いてしまうことがあるからね」

「それ分かります。無意識の内に取っている行動とか、癖になっている事とかあるので」


 雑な魔法行使をしていると勝手にそれを体得、ある程度構築を許容してムラが出る場合もあるため、集中を維持したままの方が望ましい。


「しかし、そんな時間は経っていないのに随分と成長が早いな」

「そうなんですか? よく分からにですけど、ファイヤボールの扱いはだいたい掴めて来ました」

 

 早いと言われると、脅威的なスピードで成長している。

 ファイヤボールは2倍の約20cmまで膨張できるようになり、飛ばす速度も向上、小さくはなるが一度に複数のファイヤボールを出現。

 

 この光景に既視感…まるで当初の自分を見ているようだ。

 シルムの器用値は抜きん出ているのには違いないが、転移の際に受けた大幅な補正と、大量の魔物を撃破して得たボーナスを持つ俺とは差がある。

 なのにこの伸びよう…もしかすると、『成長促進』が関係しているのか?

 

 俺は『成長促進』が筋力や魔力などにしか作用しないと思い込んでいた。

 しかし過程を見るに、練度にも影響を及ぼしている可能性は大いにある。

 そして成長の度合がこちらと同等。

 

 だとするなら、参考にならないと放棄していた自分のデータを元に、それに近い流れで進めることも視野に入ってくる。

 何だか視界が開けたような昂りを覚える。

 

 おっと、今はシルムといるのだからあんまり考えに浸るのは良くないな。

 常備してある飲料の入った瓶でも出すとしよう。


「はい、ただの果実水だけど…あー、気が利かなくてごめん、摘まめるもの用意し忘れてた」


 一人での生活が長かったのと、間食は基本しない人間だからすっかり失念していた。


「ありがとうございます。お構い無く。もしよければ、次から私がお菓子でも作ってきますよ」


 お菓子の自作もしているのか。まあ昨日頂いた料理は美味しかったし、得意みたいだから作れても不自然ではない。


「お菓子作りは時間が掛かるのが多いから、そこまでしなくていいよ」

「普段作ってますし、そのついでなので労力は心配無いです」

「普段?」


 普段となると毎日のように作っている訳だが、ただでさえ家事で忙しいだろうに、嘆息してしまう働きぶりだ。


「はい。皆のおやつ用にです。普通に買うと嵩張りますし、甘味系は値が張るので、余裕があれば自分で用意してます」

「じゃあ問題は無いか…俺の分は用意してくれなくていいよ。間食はあまりしないんだ」

「えっ…? では私もいらないです。一人で食べても味気ないですし」


 それはちょっと困る…脳の疲れに甘い物は効果的とのことだし、適度に摂取してもらいたいところ。


「あーやっぱり作って貰おうかな。お願いします」

「ふふっ、任されました。そういえばさっきお菓子作りは時間が掛かるとおっしゃってましたが、センお兄さんも作ってるんですか?」

「本当たまにだけど、一応はあるよ」


 自炊をするようになって、食指が動いた時にしか間食作りをやっていないので、実力や知識は程度が知れているが。


「じゃあ、その関連のお話しませんか?私憧れだったんですよね~調理についての会話とか」


 …目を輝かせるシルムに対し、期待に応えることは叶うのだろうか。




「そろそろ再開しましょうか」


 何とか料理の話で盛り上がり、しっかり休憩出来たようで彼女から再開の希望。


「そうだね始めようか。もう他の火魔法も使えると思う」


 初級のフレイムスピアーとフレイムシールド。

 フレイムスピアーは貫通力が高く弱点を的確に狙うのに向いていて、身の内から相手を焼く。

 フレイムシールドは火の壁を展開して進行を妨害すると共に、攻撃を防ぐ魔法。

 

 同じようにシルムの目の前で使ってみせ、試してもらうと見立て通り成功。

 

「強くなれるか半信半疑でしたけど…こうして新しい事をこなせているし、能力の実感もあります」

「それは良かった、でもやれることはどんどん増えていくよ。ファイヤボールも序の口だから」

「序の口…?ファイヤボール成長段階が、ということです?」

「お察しの通り。属性だけじゃなく、魔法ごとにも練度はあって使えば使うほど進化していく。その片鱗をここで披露する」


 気を高めイメージするは通常の火を超越する激烈な炎、詠唱は不要。

 そして展開される、周囲を埋め尽くさんばかりの無数の青い焔。

 これは真炎と称される炎の最終型、この域に達すると苦手属性の水魔法でも、大抵は蒸発させてしまう。

 シルムは現世離れした光景を、真剣な面持ちで見つめている。


「あんまり驚いてないみたいだね」

「いえ…内心ではとても衝撃を受けています。でも、驚いてばかりいられないと思ったんです」


 そう言って小さな手をぐっとして握り拳を形成する。

 改めてやる気になってくれたようだし、良い刺激になったみたいだな。

 彼女はまだまだ伸びるのだから、現状に満足せずに突き進んで欲しいものだ。




「新しい火の魔法を使えたことだし、ここまでにして次は光属性に着手しよう」


 光属性は得意な属性は無いが、苦手な属性も無く闇属性とは対の存在。

 上級属性に分類され、特殊な魔法が行使可能で攻撃と補助の両方を行える。


「明るく照らすライトしか使ったこと無いですけど、他に何があるのでしょう?」

「光属性は優秀だから色々こなせるけど、最初の方はホーリーソード、バリアー、メディ辺りだね」


 ホーリーソードは自分の周りに光の剣を生み出し、自由自在に扱え攻守を兼ね備えている。

 バリアーは透明な障壁で耐久が続く限りあらゆるものは受け止める。

 メディは対象の相手を回復させる魔法で、傷の修復や痛みを和らげる効果。

 

 メディを発動しても見えるのは光るエフェクトでイメージはしづらいため、受けた感覚を頼りにしてもらう。

 トントン拍子で進んでいたがここでストップが掛かり、3つ全て発動せず仕舞いになった。


「んー?ライトは火種のファイヤよりちょくちょく利用してたのですが・・・」

「まあしょうがない。強力な分、労力もそれなりに割かないといけないみたい」


 上級属性の3つは他属性と一線をなしており、その道は遠いが見返りもそれ相応。

 そんな訳でライトで練度を上げる事態になったが、ライトも十分有用性はある。

 目眩ましはもちろんだが、意表を突いて唐突に用いれば奇襲として役立つ。

 回数を稼ぎながら節目に確認をして、それを何度か繰り返しようやく顕現した。


「これは骨が折れそうですね…」

「はは…休憩入れつつ地道にやって行こう」


 彼女は途中で投げ出したりしないだろうけど、継続のコツは苦に感じない程度に抑えてゆっくり慣らして行くことだ。


「ということで仮眠を取ろうか」


 安定の革袋から飾り気のない、シンプルな造りの封筒型の寝袋を2つ取り出し、距離を開けて置く。


「はい?」

「ん?ああ、安心してくれ。デザインは凝って無いけど、上質な素材で構成されてるから寝心地は抜群だからさ」

「そうではなくて…なぜ仮眠を?」

「休憩だけだと疲れを取るのに限界があるからさ。最初から時間配分の中に組み込んであるよ」


 その他にも初回だから長めに確保していて、まだ彼女が年少だということを考慮した事情がある。

 シルムを言いくるめることに成功したのだが、その後逆に言いくるめられ…というより「子どもたちと一緒に寝ているので慣れてます」を反復して押しきられ、寝袋を並べて睡眠を取ることに。

 なんか…情けないな。


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