138 食事会
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138 食事会
(アデルさんーークランヌの父親で公爵…)
さらっとした淡い茶髪に穏やかな表情。
服装は自然な色合い、飾り気はないが上質な素材で仕立てられているのが一目で分かる。
全体的に温厚な感じで一見、与しやすそうだが…こうして向き合うと容易には崩せない強かさも感じる。
商人、貴族として務めを果たし実績を重ねて来たからこその風格だろうな。
前から思ってたけど、これまでのクランヌの振る舞いや今日見たものも含め鑑みて、公爵の方で合ってると思う。
となるとクランヌは公爵令嬢ということになる訳だけど…まあ察しながらも普通に接して来てるし今更な話だ。
それに俺たちの関係性から見て取れるように、こっちでは貴族は畏れ多い存在ではない…クランヌみたく人当たりがいいのは特殊だろうけど。
記述によると、功績を国に認められると貴族に成る資格が与えられ、ギルドや村商人といった始まりから至った実例も。
成ったからといって不相応と判断された場合、降格もしくは剥奪の処分が下される。
完全な世襲制ではない、興りも廃りもある実力社会。
不相応とされる基準は業績不振が続いたり、与えられた優遇、立場を用いて悪事を働いたりした場合。
定期的に監査が入るようになっており、軽視して検挙された事例がいくつか挙げられていて、別紙には直近のもあった。
権威を振るっていた時代があったらしいが、他種族との融和が唱えられるようになってから制度上では厳しく禁止されているみたい。
少なくとも嘘とは思えないから、貴族相手でも必要以上に畏らなくていい。
それはそれとして、クランヌの身内で格好を整えて来たので適度に気を引き締めるとして。
アデルさんに向けて会釈。
「俺はセンです。本日は屋敷へのお招き、ありがとうございます」
「いえいえ。ひとまず、席へどうぞ。事前にお伝えしたように気楽になさって下さい…ミューさん、食事の用意を頼むよ」
「畏まりました」
さっき取り次いでくれた使用人の女性が、頭を下げ部屋を後に。
今日行われることになったのは食事会。
招待にあたり、あちらから企画の提案がいくつかあって、複数選択も可能だった。
それだけ持て成そうと誠意が伝わって来て、有り難かったけど…時間と労力を割かせることになってしまうし、スティーは長居できないし、一つに絞らせてもらった。
代わりに料理に拘ってくれるそうで、朝は控えめにして来たから楽しみ。
長方形のテーブルへと移動し、俺、クランヌ、シルム、ロクス、スティーの順に腰を下ろす。
向かいのアベルさんとプリーネさんも席に着きーー表情を引き締め、こちらを見て真剣な空気を醸す。
「センさん…この度は娘を、クランヌを助けて頂き、本当にありがとうございます」
直向きな声を発し、ゆっくり深々と頭を下げる夫妻。
クランヌに対する愛情の強さが窺える…大事にされてるな。
隣では当事者であるクランヌとシルムまで同様にしてる。
計4名、服装も相俟って正直落ち着かない心地だが…
「お世話になってるので、力になれて良かったです」
前の世界からこちらへ来て、今を過ごせているのはクランヌとシルムの存在が大きい。
他ならぬ俺が助けになれて嬉しく思う。
アベルさんは顔を上げ緩めて、会釈をして、
「改めて、ご足労頂き感謝いたします、服も用意して下さったようで。それから…先日は妻が押し掛けて申し訳ない」
「ああ、了承の上ですし、プリーネさんとも話して納得してますから」
「そうですか…しかし、失礼を働いたのは事実。お詫びに困ったことがあれば仰って下さい」
「ええ、当人として力になるわ。少なくとも、後押しはするわよ?」
「プリーネ?」「お母様?」
プリーネさんの愉しげな口振りの発言に、どうしてか咎めるような反応を示す親娘。
後押し? よく分からないが、味方をしてくれるってことかな。
お詫びは不要、と言っても気が収まらないだろうしな…それより返事を出来るような空気じゃない。
「失礼します」
そこへ、斜めからミューさんの声が掛かり前に皿が置かれる。
芳しい湯気を立てたとろみのある白い汁物。
周りでも台車を運んで来た使用人たちによる配膳が行われている。
「ありがとうございます」
「…」
礼を告げるも、表情を変えず一礼をして次の作業に移るミューさん。
もともと真面目な気質みたいだけど、やっぱり俺に対して含みがあるように見受けられる。
「では、食事に致しましょう。そちらの…スティーさんには補助が必要でしょうか?」
機を見計らってアデルさんがいい、続けてスティーの方を見る。
ずっと目を瞑ったままなのを見兼ね、気を利かせてくれたんだろう。
「必要ない」
「承知しました。別のことでご要望がありましたら、遠慮せずどうぞ」
流石に食事を摂るのは厳しいんじゃ…いや、補助があるって言ってたな。
ここに至るまでの感覚だけとは思えない自然な動き…例の声が補って成立させてる?
(これも美味しいな)
汁物に続いて次々と追加されて行き、大きい卓上の上に所狭しと並べられた料理の数々。
種類、調理法は多岐に渡り、取り皿に食べたい物を取る形式。
量も出来も見事、そして明らかに上等なのもあって、力を入れるという前言が事実だと証明してる。
各々食べ進めていて、俺は主にシーメーを使った物と初めて見る料理を頂いてる。
クランヌは野菜、汁物、パンと順番に沿って食事をしている様子。
シルムは一つ一つ取って、口にしては何の調味料かなどを言い研究。
ロクスは直感で選び、率直な感想をしながら健啖ぶりを見せてる。
スティーは甘味ばかりだが、時折伸ばした手を別の方へとやっており、監督の存在を感じる。
「ああ、そういえば」
グラスを置いたアベルさんが俺に向けて切り出す。
「どうしました?」
「センさんが行われている特訓へのお礼がまだでした。お陰様で事業拡大に繋がっています」
「…どういたしまして。といっても環境を用意してるだけで、努力してるのはクランヌですから」
どんな設備を揃えても伸ばせるかは本人次第。
アデルさんは返答にふむふむと頷き、
「…私がお伝えした通りでしょう?」
「そのようだね」
口を拭い発したクランヌの言葉に何かを納得したよう。
…どうしてかちょっぴり呆れられている気が。
「今後も是非、お願い致しますーー浄化水ともども」
「浄化水? 何の話です?」
付け加えらた内容に、無関係だと装う。
俺がアデルさんたちに取引をしていることまでは明かしていない。
クランヌも秘密にすると約束してくれている。だからこれは…
「ああ、私が勝手に思っているだけですよ。どちらも最近ですし、急成長させる特別な術をお持ちのセンさんが関与されている、と。的外れでしたら申し訳ありません」
謝罪してるけど、どうみても確信を抱いてるよな…。
否定し続けても徒労に終わるだろう、探り合いとかにおいてはまともに相手をしちゃいけない。
分かってたが、雰囲気は見かけではない。
「…今更ですけど、俺に対して丁寧に接しなくても結構ですよ?」
「いえいえ、私たちの都合で来て頂いたお客様ですので。それに砕けた話し方では、もう承諾を出したようになってしまうでしょう?」
「お父様…」
維持表明から続いた言葉に、クランヌが制止する呼びかけ…さっきと似た流れ。
相変わらず俺にはさっぱりで、クランヌには伝わっている。
「旦那様」
ミューさんが空いたグラスを取って注ぎ、アベルさんの前に差し出す…ただそれだけなのに圧が…。
「す、すまないね…ささ、皆さんお好きなだけどうぞ。追加も承りますので」
気遣ってくれるが、その前にこの量…完食できるか…?
歓談しながら食事は進んで、アベルさんたちについても話が聞けた。
アベルさんは元は一般の行商人で、コツコツ着実に商売を積み重ね、貴族の子爵に。
クランヌによる転移の事業を始めてから、とんとん拍子に公爵まで至った。
だから、自分は大したことないと話していたが…謙遜というもの。
クランヌの転移が重宝されているのは事実だろう。
しかし、任命責任を考慮すると易々と爵位を与えたりしないはず。
アベルさんが土台を築いて来たからこその昇進で、国の信頼の表れじゃないかな。
プリーネさんは基本一人旅、魔物を倒しながら生計を立てていたそう。道理で戦い慣れしてるわけだ。
当時は有名で、言い寄られることが多かったとも。
ただでさえ目を引く容姿に、腕が立つとなれば人気なのも納得。
そこからクランヌも当時の私みたいに縁談を申し込まれていて、でも特定の相手はいないという話に移った。
楽しそうに述べるプリーネさんに「お母様、そろそろ」と静かに言ったクランヌに素直に謝っていたのは印象的だったな。
完食は出来ず仕舞いだったものの、大半は腹に収まり、お二人とも嬉しそうだった。
どれも美味しかった…招待並びに用意してくれた人たちに感謝。
「さて…」
よく食べたのもありゆったり揃って食休みの中、重く発するアベルさん…区切りをつけようってわけじゃなさそうだ。
「センさん、お話があるのですが」
「お父様、センさんにーー」
「クランヌ、いいよ。予想してたし」
諌めようとするのを制する。
招待された時点で、持て成されて終わりとはならないだろうなと思っていて、その上で受けることにした。
クランヌが小さくを息を吐く。
「…センさんはもう少し、慎重になされた方がよろしいですわ」
小言をもらったが、譲ってくれるようだ…悪いな。
アデルさんの方を向くと、頷いて。
「ではセンさん、貴方にーー競技祭に参加して頂きたいのです」
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