137 敷地
読んで下さりありがとうございます。
「想定はしてたけど…桁違いだな…」
「わぁ…すっごい広いですねっ!」
居間から風景が切り替わり、噴水を挟んだ通路の先。
広大な土地に比例した、左右を大きく占める重厚感のある水色の屋敷が構える。
(俺が譲り受けた屋敷だって十分に立派なんだけどな…)
比較対象にすると差は歴然で、これまで目の当たりした建物の中でも屈指の規模を誇ってる。
こうした場面に実感するーー身近な存在だけど、他にも多くの資産を有してて、伝手があり各方面に顔が利くーークランヌは特異な存在だと。
それから、そんな人物と誼みがあるというのは稀有で不思議だと。
クランヌに限った話ではないけど、大切な縁。
認識を持って、軽んずることがないよう気を付けないとな。
「あちらが、皆さんをお持て成しする本館になります」
「本館…ってことは別館もあるのか」
「ええ。奥の方にございまして、そちらは住居ですわね」
見える分だけでも十二分な敷地なんだけど更に続きが…まあでも納得できる。
別館が住まいとなると、本館は仕事とか社交場に用いてるのかな?
「しっかし、辺りは思ったより地味なんだな」
「ロクスさん? こういうのは落ち着きがあるとか言うんですよ?」
「どう受け取るかは俺の自由だろ?」
「それはそうですけどね…やっぱりいいです」
周囲を見て正直な感想を述べるロクスに、苦言を呈するもしょうがないと諦めるシルム。
見晴らしのいい庭園は噴水の他に草木や東屋などが設けられていて、どれも自然な色合い。
手入れがしっかりなされ趣がある一方で、これといった彩りがないのも確かだから、どちらの言ってることも頷ける…俺からすると馴染みのある光景だからシルム寄りだけど。
「そのことでしたら、来訪される方の中には目が儘ならない方もいらっしゃるので、負担が少ないようにしております」
ああ…色が判別出来なかったり、過敏だったりで生活が大変だそうな。
ここには連日訪れて来そうだし、刺激の少ない落ち着いた色を取り入れていると。
そうか、俺はてっきり…
「ふーん、お嬢様も大変そうだねえ」
「いえ、今のは建前ですので」
「あん?」
「お伝えしたことは事実ですが…実際のところは、外観に頼りすぎないという心がけが主な理由ですわ」
楽し気に微笑むクランヌ…わざと後出ししたな?
日頃から内面に重きを置いてるからそうじゃないかって思ったけど、やっぱりか。
気遣いは本当ではあるが一面…真相を告げられ、ロクスはフッと笑う。
「こだわりか。そっちの方が分かりやすくていい」
「ロクスさんならそう仰ると思いましたわ…そろそろ玄関にご案内しますので、先程と同様にお願いします」
屋敷の中は外から窺える通り、天井が高く廊下は余裕のある幅。
照明は柔らかな光を放ち、備えられている物は派手さはないが精巧な作り。
内装も表と同じく落ち着いた物で纏められてる。
一通り見終わり、移動する空気になる手前、俺はスティーに話しかける。
「スティー、ずっと目瞑ってるみたいだけど、大丈夫か?」
以前の経験から、改まった格好の俺を近くで見るのは不味いと直感があるらしく、万が一でも視界に入ることがないよう徹底して瞑っている。
目による把握が叶わない不便な状況下だが…スティーは問題ないと頷く。
「心配ない、慣れているし補助もある」
「…分かった」
慣れているか…居間で集合したときの足取りは自然だったから、遠慮してはないだろう。
思うところはあるが…呑み込んでおく。
会話を続けるだけでも、気に掛けると余計に危ないらしいからな。
「では、部屋に参りましょう」
クランヌの先導のもと廊下を進む。
俺に配慮して人数を絞ってくれたそうで、他に物音はなく静かなもの。
程なくしてーー扉の前に人影。
青みがかった長髪に白黒のエプロンドレスを纏った、真面目そうな若い女性。
こちらの姿を認めると丁寧な一礼。
「お帰りなさいませ、クランヌ様」
「ただいま戻りました…ミューさん、皆さんお揃いですので取り次ぎをお願いします」
「…畏まりました」
ミューと呼ばれた女性は俺の方を一瞥し、クランヌに承知を返す。
今のは…睨まれた訳ではないけど、並々ならない感情があったような。
ノックの後に到着の旨が伝えられ、部屋の中から「通してくれ」と男性の声。
開扉をして脇に移った女性と、クランヌに促され部屋へ。
すると、座っていた男女が立ち上がり俺たちに会釈。
片方はプリーネさんで、その隣ーークランヌに似た理知的な瞳の男性が、人の良い笑顔を浮かべ開口する。
「ようこそおいで下さいました。私はアデル・ヴィンクルーークランヌの父親で、一応、公爵の立場にある者です」
一足早いですが、メリークリスマス!
来年もよろしくお願いします。
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