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136 粧し

読んで下さりありがとうございます。

「…すーーっ…ふーーーっ……はい、完了です…!」

「ああうん…ありがとう?」


 屋敷の俺の部屋。

 自身の胸に手をやって深呼吸を挟んだシルムに、疑問を抱きながらもお礼。

 

「いつでも喜んで引き受けますから、気分とか必要なときは私を頼って下さいねっ」


 気遣いではなく本望かのように声を弾ませて言う。


「手慣れてるな」

「自分やあの子たちのをよく触ってますから。あと少し前に、男性のはどう手掛けたらいいか学んでおきました」


 少し前に男性のを学んだ…もしかして俺のために覚えたのか?

 シルムは俺の身の回りの世話をする意気込んでいるし。 

 提案されて頼んだけど…自分でやってもシルムほど上手く出来ないし、機会があったら次も任せようかな。


 シルムにしてもらったのは整髪ーー服装に合わせて髪型もきちんとしたものに。

 先日、プリーネさんから受けた歓待の招待。

 参加を決めてから日が経ち、当日がやって来た。

 

 クランヌの言った通り用意を進めた上の持ち掛けだったらしく、日を置かず日程の報せがあり、スティーたちとも予定を合わせ現在。

 置き鏡を見ると、前髪が左右に分けられ爽やかな感じに仕上がってる…それは助かるんだけど。

 

(シルムの様子が妙なんだよな…)


 俺はお洒落な髪には疎いが長さや寝癖など、もさもさになってないか気に掛けてはいる。

 だから事前に短くしたり直したりする必要はなく、手が加えやすい状態。

 シルムの手際の良さもあり、鼻歌混じりで軽快に整え終えた。


 なのにそのあと、一仕事終えたかのような深呼吸。

 俺が全くのずぼらだったら分かるが…前後が噛み合ってない。

 さっきも変だったし。


 俺と同様に今日はシルムも改まった格好。

 赤に肩や袖など一部分に白、下はピンクスカートのドレス、茶髪をりぼんで結っている。

 明るくシルムに似合ってて、普段の身近な可愛らしさとは違った魅力を放ってる。


 感想を伝えた際、シルムを目を瞑って「私はいつでもいいですからね…」と謎の発言をしてた。

 ただ褒めただけなのに何がいつでもいいんだろう? とりあえず覚えておいて下さいとも言われた。


「にしても、こうして粧して二人で一緒にいるとまるで…ふふ」


 今度は呟いて一人でうっとりとしてる…。

 クランヌの屋敷訪問を目前にして、浮ついてるのか?

 

 コンコンコン

 

「おーい、スティーのやつが呼んで来いって面倒なんだが?」

 

 応答をする前に扉を開けたロクスが不承を露わに言う。

 もう来てたのか、まずは居間に集まることになってる。

 ロクスの登場で現実に引き戻され頬を膨らませるシルム。

 

「どう考えてもわざと…まあ、クランヌさんを待たせるわけには行きませんし、私たちも向かいましょう」


  

 居間に入ると一足先に戻ったロクスはだらっと腰掛け、スティーは顔を背け目を閉じて窓際に佇んでる。

 どちらも着替えは済ませてあり、あとは待機。

 

 ところで、二人とは伝達を介したやり取りはしていない。   

 代わりに俺がスティー対し要求を思い浮かべると例の声が教えてくれるそうで、用事がある場合はそれで伝えてる。

 一方通行かつ思い浮かべるだけなのは不思議な感覚。

  

「センさま、私の格好、変じゃない?」 

 

 スティーが姿勢を維持したまま、どことなく躊躇いのある問い掛け。

 凝視するのは良くなさそうだから、さっと目を通す。 

 

 胸元からぴっちりとした紫のドレスに、首元から腕にかけてレースを纏い、菫色の後ろ髪をまとめ襟足が出た装い。

 すらっとした体型と長い足が際立ち、色と静かな表情が相まって蠱惑的な雰囲気。

 自信を持っていいと思うけど、こう聞いてくるのは誰かに選んでもらったのか?


「おとーー」

「わー、大人っぽくて素敵ですねー」


 感想を口にしようとすると、シルムが大きめの声で珍しくスティーを褒める。

 あからさまに棒読みではあるが。

 スティーが目を閉じたまま顔をシルムに向ける。


「そっちの評価は求めてない」

「さっきのお返しに私も気を遣ってあげたんですよ?」


 笑みを零し、対峙し始める二人。

 そこから視線を移し、ロクスの方を見る。

 

 黒髪を掻き上げ、身に付けているのは一般的な正装の一式…正確に言うと、ボタンを外してたり首の飾りを付けて無かったりと、着崩した格好。

 堅苦しいのより気楽なのが様になってるな。


「ちゃんと揃えたんだ」

「んー、じゃねえと五月蝿そうだからな」

「それに着こなしてる感じがする」

「そうか? ってか、そういうの面倒なんだよな」


 調子はそのままだが煩わしそう。

 お世辞とかどうこう以前に、遣り取りそのものが面倒と。

 生来のものか経験があるのか、今後は避けるようにしよう。


「皆さん、お揃いですわね」


 居間の入り口からクランヌの声。

  

 左肩を出した濃紺のドレス。

 スカートには青と黒が混じり、折り目が付けられ段々になってる。

 夜を思わせる上品な落ち着いた色合い、綺麗な銀髪が映える。


 …クランヌは服の力に甘えないようにしてるけど、やっぱり普段よりも微笑みや所作の優雅さが引き立ってるな。

 それは覆し難い事実。

 ただ、その日頃の積み重ねによって魅力が形成されてる。


「…呑まれそうだ」

「ふふ、ありがとうございます。センさんこそ、見惚れてしまいます」

「いーーありがとう」


 反射で否定しかけ、クランヌ相手には失礼だと思い直しこっちも礼を述べる。

 俺の切り替えに笑みを深めるクランヌ。


「クランヌさん…お綺麗です…」

「シルムは試着のときより一段と可愛らしいですわね」 


 睦まじく称え合う二人。 

 スティーは今も目を瞑ってて、ロクスはふーんって素振りで相変わらず。

 クランヌが目を配って頷く。  


「準備はよろしいようなので、参るとしましょう。こちらへ来てお手を」 


 クランヌが俺とシルムの手を取る。

 ロクスとスティーは俺とクランヌの肩に手を置く。

 

 屋敷には転移で向かうため、一部分に触れている必要がある。

 馬車を迎えに寄越す話もあったが、術があるのに手間は無用。 


「ではーー」


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