134 試着
お待たせしました。
読んで下さりありがとうございます。
プリーネさんの突然の訪問から翌日の昼。
宣言通りクランヌは予定を空けてきて出かけることに。
前日なのにどう話を付けたのか興味があったけど、話題にしたとき
「お聞きに、なりますか?」
と穏やかながらも徒ならぬ雰囲気を醸していたので、尋ねるのは止めておいた。
屋敷の中でそれぞれ身支度を整え、玄関広間で合流する段取り。
二人は一風変わった服を着るそうで別れ際、楽しみにしてて下さいとシルムは明るく、クランヌは微笑みを浮かべていた。
身支度といっても、俺はいつものように上からローブを着るだけ。
お金はシルムに任せているので、持ち物も貴重品が入った革袋のみ。
軽く確認を済ませ、玄関広間に向かい二人が来るのを待つ。
仮に外行きの服を持っていたところで、二人と行動するときは変装で素性を隠す必要がある。
ポルドの横暴を阻止したことにより、敵が認識を改め探りを入れてくる可能性もあるので、前よりも用心が求められる。
まあそんなそばから、招待を受けてしまっている訳だが。
(クランヌは…どこまで想定してるんだろうな)
クランヌの商会ーー間者が紛れていると考えるのが妥当。
真っ向からの確保が難しい対象のとき、内情を探ったり手引きしたりするのは常套手段だからな。
浄化水の納品に足を運んでいる倉庫だけでも、相当な数の人が働いてる。
従業員として入り込み、内部へ徐々に食い込んで行くーー。
クランヌは匿名の要望をすんなり聞き入れてたから、漏洩対策は講じている…しかし敵には不思議な力もあるし、備えを無視してくるのはあり得る。
後者も、クランヌなら考慮していそうーー踏まえると、仲介を頑なに拒んでいたのは不穏さもあってのことかも。
どのみち引き受けるのは前提で、危険などは承知。
それに敵が仕掛けてくるまで何もせずにいては、ただ待ち続けて後手に回ってしまう一方。
歓待を受ける傍ら、変わった動きがあるか反応を見る腹積り。
「センお兄さーん」
「お待たせしました」
先に合流して一緒に来たのか、横からシルムとクランヌから声が掛かる。
「ああ二人と…も?」
考え事を止め顔を向けた折、二人の格好にぽかんとする。
「じゃーん!」
「いかがでしょうか」
手を広げ元気よく見せびらかすシルム、お腹の前で上品に指を組むクランヌ。
シルムの方は赤が主の長袖膝丈ワンピース。
フリルにレース、頭巾に肩回りを覆うケープといった要素が盛り込まれている。
童話に出て来そうな、衣装と呼んだ方がしっくりくる装い。
これで手提げ籠があったら印象がより深まっているところ。
相変わらずブレスレットは着けてくれてる。
「女の子らしい可愛い服だね、シルムにぴったりだ」
「ふふー、ありがとうございますっ」
頭巾を両手で掴み嬉しそうに笑う姿にも愛嬌がある。
「クランヌの方は…本職だと誤解されそうだな」
「それは買い被りかと」
本心で言ってるんだけどな…。
全身を包むゆったりとした黒のローブ。
頭部から背中の方にかけて広がる、同じく黒い布の覆い。
クランヌの服装を一言で言うと、修道服。
当人は謙虚だが…整った顔立ち、青く澄んだ瞳に前の方だけ出てる綺麗な銀髪、大らかな微笑みには神聖さを覚える。
教会の関係者どころか、上の職位でも通用しそう。
「いや本当に、お淑やかな雰囲気に合ってるからさ」
「センさんがそう仰るなら、お褒めいただき光栄ですわ」
嬉しそうな笑みを湛えてお礼。
クランヌの方は一挙動に品がある。
どちらも自身を活かしていて、似合っているが…
「…それで、どうしてそんな珍しい格好を?」
多種多様な人が行き来するエストラリカでは珍しくはない。
でも二人の普段着といったら、クランヌは自分磨きの一環としてロリータ系、シルムはお洒落はするものの手入れが簡単で凝ったものは着ない。
いつもと違うのは理由があるのか、それとも気分なのか。
「これはですねー、皆さんへ用事がありますってお伝えしてるんです!」
「優先の予定がございますので、喫緊のご用件以外は容赦くださいと、配慮頂く為のものですわ」
顔が広く人当たりがいい二人は呼び止められることが多い。
一つ一つ応じていると時間が経ってしまい、断りを入れて行くのは面倒。
そこで服装が普段と違うときは控えてもらう対策を講じ、今では浸透して共通認識になってるのか。
「事情は把握した。でも優先するほど、選ぶのに時間要らないと思う」
「何を言ってるんですか! 予定通りじっくりたんの…吟味しませんと!」
「せっかく値が張るものを購入されるのですし、十分に確認された方がよろしいかと」
「…そうした方がいいな」
さくっと定番で済ませようって考えだったけど…何着も持つわけじゃないし、自分が着るものなんだから他人事に思わず拘りを持つべき。
無頓着だと言われても仕方ないな。
「じゃあ、私たちはここで楽しみに待ってますね!」
「ごゆっくりどうぞ」
「ああ」
衣服を抱えるシルムとクランヌに待機してもらい、ひとり試着室へ。
二人に見せるのは最初から確定らしい。まあ感想を貰えるのは助かる。
ローブを脱いで仕舞い、持っている服に着替える。
屋敷を出て真っ直ぐやって来た男性の礼服、背広などを取り扱うお店。
店内はゆったり整然として、対応が丁寧で洗練されている感じ。
どの商品もしっかりとした造りだが…明らかに他とは質感が違ったり、派手な装飾が施されていたり、上等なのも取り揃えている。
仕事で関わりがあるクランヌの手配のお陰で一画を貸切状態に。
平然と話を通してしまうのは流石の一言。
俺が気兼ねなく着替えられるに配慮してくれたんだろうな、後でお礼をしないと。
着替え終えて姿見で確認を済ませ、二人の前に姿を現す。
「わあ…お仕事センお兄さんかっこいいですっ」
「お仕事センお兄さん」
「改まった格好もよくお似合いですわ」
暗めの緑シャツ、裾を黒いズボンの中に入れて革製の帯を通した素朴な装い。
好みの色を軸に組み立てましょうと助言があったので、馴染みのある緑を選んだ。
「ありがとう。でも、これだと気軽すぎるか」
「軽装ではありますけれど、シルムの感想のように真面目な印象で、浮ついた感じはございません」
そう言われると、近しい格好で働いてる人たちを見かけるがクランヌと同意見。
これだけでも区別出来て、最低限整ってはいる。
本来は普段着でもいいしな…でも、物足りない。
「気になるんでしたら、これを上にどうぞ!」
「これは…?」
心中を見透かしたようにシルムから差し出され暗い灰色。
広げてみると、袖のない胴着…ベストだったか?
自信のある勧めに従って身につけてみる。
「お…一枚だけでも違うな」
「うんうん、色気が漂ってますっ」
「先程より引き締まって見えますわ」
シャツ単体だと頼りなさが拭えなかったが、ベストを重ねたことで安定感が生まれ堅実なものに。
色気というのはよく分からないけど、こうも変わるなんて。
「いいね、これ」
「気に入ってくれたみたいで良かったです」
「では、この流れでこちらも」
クランヌからは手触りがよく光沢がある、前開きの黒い上衣。
見るからに高品質、これで一揃い。
「本命ですね…今度は閉めて着替えて下さい」
「…分かった」
何故か真剣なシルムにお願いされ、最初と同じく遮ってから袖を通す。
きっちり整えてっと…主観では悪くないように思えるが、さて…
「はあぁぁ……感無量です」
「まあ……想像を上回る素晴らしさです」
目をとろんとさせた法悦、しばし言葉を失う衝撃
これまでで一番の反応、大袈裟な気がする。
「服がいいお陰…?」
「いやいや! どこかの紛いものと比べて、よっぽど然としてますよ然と!」
「ええ。センさんは堂々されていて物腰が丁寧な、紳士とお呼びして差し支えないお方です。相応しい装いをされております」
俺の自己評価を真っ向から否定する。
二人とも相手が恥をかくようなお世辞を口にしたりはしない。
信憑性があって真実を語ってる…。
「褒めてくれてありがとう」
ただ、着慣れないので自然体でいられるかは怪しいところ。
「こちらこそ、貴重なセンお兄さんをありがとうございます…これはもう、他にも色々試さないと損失なのでは?」
「私も興味がございますが…センさんがお決めになることです」
期待を込めた上目遣いが俺を見る。
わざわざクランヌがこの場を用意してくれて、取り組むって決めたからな。
「二人とも、服選びに付き合ってくれ」
パッと表情を弾けさせ、シルムとクランヌは次々と活き活きした様子で持って来た。
中には刺繍のあしらわれた豪奢なものや、首周りに毛皮が付いた迫力のある服も。
とりあえず着てみて好感触ではあったものの、流石に候補から外した。
着替えの度にシルムは表面に情緒を出して、クランヌは感心に明瞭な評価が付随した。
一時間ほど過ごして決める段階に移り、クランヌの「着飾った分、相応の振る舞いが要求されますわ」とご尤もな意見もあって、ベストの着用に落ち着いた。
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