133 正装
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プリーネさんは見送り不要らしく一人立ち去り、居間に残った俺たちはまだ時間に余裕があるということで、スティーとロクスを交え改めて寛ぐことに。
お茶などの用意はシルムとクランヌがしてくれる。
手伝おうとすると「センお兄さんがそれでいいなら…」と意味あり気に言われるので、大人しく待機。
用意を終えて席に着いたクランヌは、ハーブを入れたチャーを口に含み、小さく嘆息する。
「全く…お母様が強引な手段に出るとは想定外でしたわ」
「いやー驚きました…クランヌさんのお母さんと突然対面することになるなんて」
「そうだな」
シルムが切って漬けた果物を加えながらしみじみと感想。
身内というだけでも緊張感を覚えるのに、相手は上品なクランヌの母親だからな…クランヌを敬い、懇意にしてるシルムは尚のことだろう。
「まあプリーネさん本人が言ってたように、今回ばかりは譲れなかったんだよ」
推測をもとに俺は理解を示すが、クランヌは依然として頭を振る。
「押しかけ、手合わせと決断を迫った今回の一方的な振る舞い…事情があろうと、協力解消を言い渡されても弁明の仕様もないことですわ」
改めて流れを振り返ると随分と向こう見ずな行動。クランヌの意見はご尤もではある。
でも事情があろうと、って…プリーネさんに相応の理由があることを察してる?
その上で譲歩する気はないのか。
内容に依るのか身内相手だからか…対応が柔軟そうなクランヌにしては強硬に思えるが。
「あの…」
その当人は、何やらおずおずといった様子で俺の方へ向く。
「一応断っておきますけど、先程のは仕込みではなくて、本当に不意のことですので…」
「え? いや最初から、芝居だなんて全く疑ってないよ。クランヌは相手が不快になることをしないだろう」
止ん事無い立場で商談もこなしているため、駆け引きみたいなのには長けていそうだけど。
普段の取引への姿勢からして、謗りを受ける真似をするとは到底考えられない。
浄化水の査定は売上だけではなく、集客効果や取引先の獲得といった影響も含まれていて、遠慮しようとすると更に上乗せしてくる…このようにクランヌは釣り合いを重視してる。
だから駆け引きするにしても許容される範囲…それが俺の所感。
「センさんに誤解されずに済んで安心しましたわ」
俺の素の反応に、胸に手を当て目に見えてほっとしている。
どちらかというと随分こっちの様子を気にしていて、いつもより余裕がない感じの方が引っかかるけど。
俺ってそんなに厳しく見えるかな?
「私もクランヌさんが誠実な人だって知ってるので、大丈夫ですよっ」
「シルム…」
「もし裏があっても、センさまへの火の粉は排除するだけ」
チャーに砂糖を複数と牛乳を混ぜて飲んでいたスティーが、ほんわかとした空気に水を差す。
見た目からして相当甘そう…前に甘味巡りをしてたそうだし甘党なのか?
きっぱりとした情緒のない横槍にシルムは眉をひそめる。
「…私とセンお兄さんが保証しましたけど?」
「センさまは優しい、評価に影響している可能性がある」
「ほー…それで、私のは聞くに値しないと?」
「逆に当てにするとでも?」
バチバチ視線をぶつ合う二人。
もう定番の風景だな…。
「セン以外の参加も構わねえってことだが、どうすんだ?」
啀み合いを気にせずカップを置いたロクスが問う。
俺と同じでチャーはそのまま口にしてる、好みなのか特に拘りがないのか。
ただ…何だか飲むことに慣れているような動き。
もしかして嗜んでたり?
「もちろん私は行きますっ。クランヌさんのお家興味ありますから!」
「センさまが不利益を被らないよう、監視と抑止のため同行する」
「なら、俺も強制的に同行か…ま、偶にはいいだろ」
クランヌの実家か。所有している倉庫の規模がもう凄いからな、俺も興味がある。
スティーの懸念…予想した他に思惑がないとは言い切れないけど、プリーネさんは強引だと自覚があって注意もされたから、禍根になることは自重するはず。
「全員参加だな。クランヌ、プリーネさんに伝えておいて」
「かしこまりました」
「よろしく…当日までに用意しとかないとな」
必要なものを思い浮かべ口に出すと、クランヌは首を傾げる。
「用意…? おもてなしさせて頂くので、手荷物は不要ですけれど…」
「ああ、着ていく服を持ってないからさ。ローブなのはどうかと思うし」
出先の雰囲気に合わせた服装をするのは礼儀。
これまで出かける余裕がなかったため、俺が持っている服といえばローブと中に着込む単調な上下のみ。
一応、元の世界で着ていた服なら格式あるが…場にそぐわないし、聞かれたとき説明に困る。
「そんな、こちらの都合ですから作法などは気にせず、普段出歩かれる格好でいらして下さい」
変わった事情で招いた俺らに、手間を取らせるのは申し訳ないんだろうな。
「成り行きとはいえ受けることにした以上、身なりくらいは整える。あ、手配しなくていいから」
クランヌが気を回しそうなので先んじて止めておく。
振る舞いについてはお言葉に甘えて容赦してもらって、一着くらいはまともな服を持っててもいいだろう。
「センお兄さんの正装…そそりますね。ぜひ買いましょう」
ぽつりと呟いたシルムは口元を拭い、俺に賛同する。
それと同じくして、目を閉じて大きく頷くスティー。
「センさまの凛々しい姿、また目に焼き付けたい」
「はっ? またって…まさか見たことあるんですか?」
「一度だけじゃない」
驚き問いただすシルムに、スティーが何てことない風に答える。
役目を果たすまでの間、呼ばれる機会が何度かあって応じてたからな…監視の任についてたから、自然と見ることになる。
ピクピク口元を引き攣らせるシルム。
「…わー、うらーーやましいなー…お二人も相応しい服、用意して下さいねっ」
「当然。従者の質は主の評価に関わる」
「正直ああいうの柄じゃねえんだが、空気読んどくか」
従者ではないが、スティーとロクスもこちら意向に乗ってくれる。
流れにクランヌはやむを得ない様子で引き下がり、
「でしたらせめて、お店を紹介させて下さい。明日にでも参りましょう」
「明日…限界が近付いてるから同行できない」
平坦な声を落として言うスティー。
プリーネさんが訪れたことで間隔を空けずに俺と会うことになったから、執着の影響が蓄積されたまま。
残念そうにする一方で、シルムがパーっと表情を明るくする。
「それは残念ですね! 安心して下さい、私たちが側で吟味しておくので!」
「…私が先という事実は揺るがない」
「こっちは適当に決めとくから、店の場所だけ教えてくれ」
諍いに関せずひらひらと手を振るロクス。
うん…二人のことは置いといて話を進めよう。
「紹介は助かるけど、急に明日なんて大丈夫なのか?」
仕事で多忙なクランヌ、前日に時間を作るのは厳しいんじゃ…。
そんな懸念に対しクランヌは首を振る。
「問題ありませんわ。入り用になったのはお母様が原因ですので、こちらも多少強引に調整させて頂きますわ」
美しい微笑を湛えて言ってのける。
支障があろうとお構いなしと…やっぱり親子同士、似通ってるな。
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