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132 プリーネ

読んでいただきありがとうございます。

「来ちゃった、ではありませんわ! お相手方は清閑を望まれていると申したでしょう!」


 珍しく焦燥を見せこっちへ来たクランヌは、他の人と比べると控えめだが気を立てて、お母様と呼んだ女性へと詰め寄る。

 女性が屋敷に訪れたのは、クランヌにとっても思いがけない事態。

 でも発言からして事前に働きかけはあって、それにクランヌは難色を示したって感じか?

 

「報いるのが家の方針なのは貴方も分かってるでしょ、って返したじゃない」

「ですからその謝礼は、こちらで受け持ちますと再三…」

「今回は事が事、手厚くする必要があると私も繰り返したわ」 


 クランヌは非を咎めるも、女性は毅然と言い返して平行線。

 多分このまま続けても埒が明かない…それに待たせるのも悪い。


「お互い言い分はあるみたいだけど、とりあえず場所を変えないか? 俺たち事情を知りたいし」

「…そうしましょうか。何処かで見物してる人たちも退屈でしょう」


 事もなげに別の存在について口にする女性。

 気配を隠して窺っていることに気付いてるか。

 俺がその方を見やると、屋敷の陰からスティーとロクスが出てくる。

 

「お二人とも…いらしていたのですね」

「センさまに何かあれば駆け付けるのは当然」

「ま、出番がなくて残念だったがな」


 前者は顔を逸らし、後者は肩を竦めている。

 二人は俺と女性が手合わせを始め程なく、ここに辿り着いていた。

 手を出さずにいたのは、スティーが能力で状況を把握したからだろう。


「無駄足を踏ませてしまいわね…申し訳ありません」

「お嬢様は真面目だねえ。適当に流しときゃいいのに」


 言うほど気にしておらず、軽い調子のロクス。

 過ぎたことを引きずらないのはらしい。


「それから…」


 続けて俺は玄関の方へと顔を向ける。

 そこには扉から半身を出し、困った表情を浮かべているシルムの姿。

 クランヌも視認すると…気を落ち着かせ、頷く。


「置いて出てきて、そのままでしたわ…仰る通りにすべきですわね」


 新たに三名加え、屋敷の中へ。

 


「改めて、私はアンプリーネ。クランヌの母親よ。プリーネと呼んで頂戴」


 居間に戻り、それぞれ腰を下ろすと女性ーープリーネさんが微笑んで切り出す。

 背筋を伸ばして普通に座っているだけだが、やっぱり存在感がある。

 まさか、クランヌの母親が突然訪れるとは…一戦交えた後じゃなかったら、もっと衝撃を受けていた。

 

 屋敷に入ってからローブを外し、ちゃんとした対面は今。

 それも含め、ひとまず自己紹介。


「俺はセン。クランヌとは協力関係にあります」

「ふうん…協力関係、ね」


 目を細めこちらを、それから自分の隣のクランヌを見て、意味有り気に繰り返す。


「ええ、協力関係ですわ」 


 上品に座り、澄ました顔で同調するクランヌ。

 移動を経て冷静になったみたいだ。


 クランヌは俺の意向を尊重して、取引や訓練を誰と行っているかは身内にも報告していない。

 だから濁した言い回しで伏せたが…何か見透かしていそう。


 にしてもプリーネさんとクランヌ…どちらも見栄えして、二人が並ぶとより、絵画を見ている気分。


「えっと、私はシルムと言います。クランヌさんにはお世話になってます」


 控え目な態度で隣のシルムがペコリとする。


「あなたがシルムちゃんなのね、話は聞いてるわ。仲良くしてくれてるみたいね」

「シルムには、いつも活力を頂いてます」 

「それに聞いた通り、とても可愛らしいわ」

「わっ、ありがとうございますっ。プリーネさんこそお綺麗です!」

「そう? ありがとう」


 ギルドの強面相手にも動じないシルムだが、尊敬するクランヌの母親とあってか緊張気味。

 

「それで、そちらの二人は…」

「私はスティー。こっちはロクス。センさまに付き従ってる」

「はい?」

「付き従ってはねえだろ。言葉を借りると俺らはセンと協力関係にあって、お嬢様とは知り合い程度だな」 

 

 呆れ突っ込みを入れつつも、端的に訂正するロクス。

 その傍らで、何を言ってるのかとばかりに声を上げたシルムとスティーが見合って刺々しい雰囲気。

 プリーネさんは説明に頷き、遣り取りを目の当たりにして「なるほどねえ」と何か納得した素振り。


「一通り話は済みましたわね」


 見計らってクランヌが区切りをつける。

 注目が集まり、居住まいを正すと、


「では私も改めて…この度は母が迷惑をおかけして申し訳ありません」


 丁寧に深くお辞儀をする。

 クランヌは否定的な立場みたいだし悪くない…


「クランヌちゃん、私がやったことなんだからあなたは謝らなくていいのよ」


 と思っていると、この事態を引き起こした当人が庇う。

 当然、クランヌの表情は物言いたげなものに変化。


「そう仰るお母様こそ皆様に…いえ、申しても仕方ありませんわね。こちらにいらしたのは、あの件ですわよね?」


 引かないと悟ってか追及を止め話を進める。

 あの件…プリーネさんがここに来た要因。

 屋敷前での会話からして、間違いなく俺に関すること。


「ええ。センさんには娘がお世話になった、そして現在もなっているから、そのお礼についてね」

「お礼…それならもう、頂く物は頂てますが」


 屋敷は功績ということで、代わりに専門家のクランヌが家財や日用品を用意してくれた。

 お陰で揃える手間が省け快適に過ごせているし、必要な物があれば注文を受けるとも。

 十分手厚くされている。


 しかしプリーネさんは首を振る。


「家族として、商会としても一大事なクランヌの危機を救ってくれたんですもの。物を渡すだけでは足らないーーだからセンさんを持て成すことに決めたの。今日来たのはその招待…仲介は断られちゃったから」

「つまりこちらの都合ですわ。理由は何度もお伝えしましたのに…結局こうなるのですね」


 裏で差し止めようとしていたクランヌから疲れが窺える。

 そこへ伝達の明滅。

 

『もしかしてクランヌさんの悩みって』

『そうっぽいね』


 全く折れないプリーネさんにどうしたものかと困っていたのが濃厚。

 物だけでは自分たちの気が収まらないから場を設ける…確かにあっちの事情。

 そして配慮通り、態々そこまでというのもあって遠慮したい気持ちはある。

 

「あはは…でも、プリーネさんは強情に押し通すつもりなんですよね」

「強引なのは承知の上よ。でも言った通り事が事だもの」

「センさまが賞賛されるのはいいこと。でも何故、手合わせを?」

「俺みたいのならともかく、恩人に戦いを挑むのはズレてんな」


 スティーが無表情で問い詰め、ロクスは軽々しく言う。

 主張していることとは矛盾した、反感を買いかねない行い。

 円滑になると踏んで相手をしたが俺も疑問に思っていた。

 

 でも今は、おおよその察しはついてる。


「それに関しては完全に私用ね…測りたかったの。指南に加えて脅威の排除もこなす、その手腕を」


 目を瞑り狙いを答えるプリーネさん。

 鵜呑みは出来ないな…仮にも持て成そうとしている相手。

 単に興味があるだけにしては、やっぱり思い切りがよすぎる。

 

「そう。センさまが同意してるからいいけど、危害を加えるなら容赦しない」

「センお兄さんを蔑ろにするのは、例えクランヌさんのお母さんでも許せません、と言っておきますね」

「…お母様、お二人ほどではありませんけれど、私も似た心持ちですので」

「俺は危険なのは歓迎だけどなー。そんな睨むなって」


 三人から、特に娘であるクランヌの警告を受け、プリーネさんは驚きをあらわに。

 そして一瞬笑みを浮かべ、真剣な様子で首肯する。


「肝に銘じておくわ…その上でセンさん、いかがかしら?」

「お受けしますよ」

「あら、すんなり」

「センさん…お断りされてもよろしいのですよ?」


 クランヌは俺が無理をしていると思ってるのか、申し訳なさそうに勧める。


「大丈夫。ちゃんと乗り気だし、この方が色々と落ち着くと思うから」


 推測ではあるがーープリーネさんはクランヌの事が心配なんだろう。

 無事だったとはいえ娘が知らない所で事件に巻き込まれ、解決したのはプリーネさんからすれば素性の知れない人物。

 気になっても仕方ない、俺は黒服を手に掛けてるしな。

 

 人となりはどうか、悪影響はないか見極める…そんなところか。

 もしそうなら、引き受けるのは意義がある。

 ただ疑問なのは…クランヌなら意図を汲み取っていそうなものだが。


 言葉にプリーネさんは微笑んで読み取れず、クランヌは安堵を見せる。 


「そうですか…でしたら、歓迎致しますわ」

「じゃあ決まりね。日程は追って連絡するわ。もちろん、皆で来てくれて構わないから。お邪魔したわね」

「お待ち下さい、お母様」


 さっくりとまとめて席を立つプリーネさんを呼び止めるクランヌ。


「他に何かあった?」

「家に戻ったら、お話があります」


 笑みを浮かべているが、有無を言わさぬ雰囲気。

 クランヌがこうも表に出すなんて珍しいな…

 

「…分かったわ」


 明らかに物申す流れだが、プリーネさんは素直に聞き入れた。

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