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読んで下さりありがとうございます。

 ローブで顔を隠し銃を後ろ手に持って、玄関の扉を開け放つ。

 門から続く通路の中途、人影が一つーー大人の女性。

 屋敷から出て来た俺に気付き、その人物は足を止める。

 

「あら、歓迎の次はお出迎えかしら?」


 余裕綽々でちょっと挑発的な物腰。

 

 門の付近を除き、敷地には感電や拘束など、侵入者を無力化する見えない仕掛けが張り巡らしてある。

 女性はその圏内に足を踏み入れているが…無事なうえ堂々と意に介していない様子。

 一目見て感じた通り腕が立つみたいだ。


 まあでも、正体不明の来客にあんまり警戒心は持ってない。

 決して侮ってるわけではなくて、それよりも…気になる点がある。


 服装は青の濃淡に白。

 一部うっすらと透けていて裾に切れ込みがあり、軽快で艶のある感じ。

 気になる点は頭部の方。


 外側と内側で段差をつけ、短く整えられたーー見覚えのある綺麗な銀髪。

 鋭さのある吊り目は異なるけど、引き込まれそうな碧眼も記憶にある。

 それから存在感…これだけ類似点がある、この屋敷を訪れる人物ーー


「もしかして貴方は…」

「待って」


 正体を言及しようとすると差し止められる。

 そして女性は口角の片方を上げて悪戯っぽい笑みを浮かべる。

  

「それは後にしてくれないかしら? 当たりを引いたみたいだから」

「当たりって…もしかして俺に用が?」

「そんなところね。率直に言うわ、私と手合わせしてちょうだい」

「…」


 まさか、間を置かずまた、初対面で挑戦を所望されるなんて。

 発言自体はお願い。しかし佇まいは相手に要求を呑ませる圧のあるもの。

 うーん…敵意は感じないし、ロクスみたく好んで戦うような質には見えないし…ということは。

 

「必要なことだと?」

「ええ。私がここに来た目的の一部だもの。軽くでいいから是非、ね?」


 片目を瞬かせ重ねて言う女性。

 押しが強い…こういう要求には慣れてるから断れるけど、もし関係者なら受けておいた方が、話をするときに有利に働くか。


「分かりました、相手になります」

「ありがとう。物分かりのいい人は好きよ」

「どういたしまして」

 

 からかい混じりの艶かしいお礼に、動じたら思う壺なので事務的に応じる。

 つれない態度に不服そう。 

 やっぱり…ところどころに面影があるな。

 

「あと、軽くじゃなくてもいいですよ。見た目は敷地の中は保護してあるので」

 

 襲撃によって荒らされるのを防止するため、透明な結界も展開するようにしてある。

 わざわざ伝えたのは、力を出せる方が明快だと思ったから。 

 女性は話を聞いて驚き、それから面白そうに笑みを浮かべる。


「黙っていても良かったのに…ふふ、せっかくのお誘いを断るのは失礼ね」


 次いで視線を俺が後ろにやっている手に向け、


「もう準備できてるみたいだし、始めましょうか」

「いつでも」


 同意の直後、動作を始めようとする女性ーーに向け、特技である早撃で先手を打つ。

 ハンドガンから射出されたのは針。

 付与されているのは『麻痺』で刺さった所から気体を発生させ身体を鈍らせる。


 銃を知らないなら未知の刹那な攻撃、一気にけりが付くかも。

 見込んだ結果になりそうな直前、ふっと女性が一人ぶん横にずれて外れる。


(今…)

「驚いたわ。変わった武器ね、飛んで行ったのは針かしら」


 内容の割にはさして動じてない様子。

 いや…どうだろうな。

 一目で反応するのも見分けるのも流石といったところだが…躱したとき、体勢そのままに位置を移動した。


 あれは普通に考えて能力ーー手の内は伏せておいた方が有効、だが反射的に使ってしまったんじゃないか?

 わざとの可能性もあるがとりあえず、そういう術を持っていることは判明した。 


「今度はこっちの番よ」


 そう告げる女性周囲に、手の長さくらいの丸い氷塊が次々と出現。

 こちらへ順々に向かって来るそれらを、見切って掻い潜る。

 氷魔法の使い手か…もう、間違いないな。


 避けながら引き金を絞って反撃。

 今度は軽やかな足運びで針を躱す。


「余裕そうね…同時ならどう?」


 女性が手を差し出す素振りをすると、上にも魔力反応。

 目を向けると、鋭く尖った氷柱が追加で複数。

 息をするように並行魔法。このまま両方を対処し切るのは無理。


 コールでもう一つハンドガンを左手に持ち、それを氷柱に向けて一発ずつ発砲。 

 着弾、音を立てて粉々に砕け散る。氷塊も打ち止め。

  

 だがその最中にも動きがあり、足を浮かせてタンと地面を踏んで、凍らせながら走る氷。

 生成した細剣を左手に、女性はその上を滑り一緒に迫る。

 さらに手を払って冷気を放ち、三段構え。


 冷気には熱気をぶつけて相殺、這い寄る氷にはつららと同じように一射。

 遡るようにして瓦解して行き、逸れて着地する女性へ右手の銃を構える。

  

 その姿が消えて現れ、もう一度消え、場所を変え接近して放たれる突き。

 身体を捻って再度狙うも、連続移動によって距離を取られる。


「あしらわれてる感じね…やっぱり最初に見せてしまったのは不味かったわ。衰えたかしら」


 そう自嘲する割に、嬉し気な口調。


「にしてもそれ、凄い威力ね。魔法も達者みたいだし」

「ええ、まあ」


 マグナム弾を使用してるので威力はあるけど、綺麗に崩壊させたのは『波及』が付与されているから。

 水面に生じた輪が広がっていくように、威力を行き届かせる。

 破片で怪我してたら意味がないからな。

 

「そちらこそ、魔法の扱いに長けていますね」

「相応に経験を積み重ねているもの。でも全く響いてないから、やっぱり工夫がいるわね」


 女性が妖艶さを纏うと一帯の空気も変容。

 白く冷気が立ち込めて行き、その中へと姿が紛れる。

 

「領域魔法…いつの間に」

「アナタにはこれくらい必要だと思ってね。簡単なものだけどこっそり準備していたの」


 領域魔法…属性で場を形成。魔法を強化したり立ち回りをしやすくするなど、術者に有利な環境を作り出す。

 一度発動されると干渉は困難で、先に発動した方すれば優位に立てる。

 確かに控え目な感じだが…相手に悟らせず、短時間でこの規模を用意するか。 

 

(魔弾なら仕切り直せるけど…)


 それはやめておこう。

 俺たちは本気で戦ってるわけじゃない。

 女性の言動からして受けて立った方が意図に沿えるだろう。

 

 その代わりに。 

 左手のハンドガンを別のに切り替え、何処ともなし発砲。

 飛び出た弾は瞬時に虚空へと消え、元のに持ち替え、これで仕込みは完了。


「何かしたみたいだけど…畳み掛けさせてもらうわ!」


 声がした直後、表明通り怒濤の攻撃が開始。

 正面から気配が接近して来たかと思うと横、次に斜めと位置を転々としながら各部を狙った鋭い刺突。

 魔法も織り交ぜられ、さっきより勢いが増している。

  

 神経を研ぎ澄まして一つ一つ対応。

 視界は制限されているが、近くなら見えるし反応や音などでの判断。

 牽制と迎撃によって押し切ろうとするのを防ぐ。


 寒さに関しては各地の逃避行で困らないように服に温度調節を施してある。

 ーー徐々に、影響は減少してってるし。

  

「ダメね。なんとなく予感はあったけど、大して変わってないわ」

「もっと強力な領域魔法を使われてたら怪しかったですけど」

「言うじゃない。ならーー」

「ああ、魔法に利用するつもりなら、もう叶いませんよ」

「何を…」


 目論んでいる女性を見据えて事実を伝える。

 視認されていることと俺の発言に訝しむ顔になり、そのあと驚愕に染まる。


「干渉できない…?」

「領域魔法をこっちのものとして置き換えさせてもらいました」


 説明し、一帯の魔法手のひらに収束させて証明。


 さっき放ったのは『置換』の魔弾。

 相手が発生させた魔法等に撃ち込み、自分のものにできる。

 掌握は時間をかけて進行する代わりに気取られない。


 自分の魔法が全く制御できないのは不思議な感覚だろう。

 事態を察し、女性は首を振る。


「さっきのはそういうこと…今度はこっちがしてやられたわね。こうなると厳しいし、降参するわ」


 潔く構えを解くのに続き、俺も諸々と仕舞う。

 技量といい状況判断といい、実戦経験も豊富そうだ。

 歩み寄って問いかけ。


「目的は果たせましたか?」

「ええ、色々と納得がいった。改めてありがとうね」


 朗らかに笑んで頷く女性。

 好感触を得られたなら、引き受けた甲斐があった。

 手応えを感じていると、玄関の扉が勢いよく開く音。


「お母様…!」


 珍しく落ち着きのないクランヌが、予想していた呼び名を口にして駆け寄って来る。

 呼ばれた女性はそれに手を振って応じる。


「クランヌちゃん、来ちゃった」

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