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129 シルムの一日

読んで下さりありがとうございます。


 今日の訓練の間食に用意したのはクック、バウム、マドレーなど籠に入った複数の焼き菓子。

 色々と作ったのはその方が楽しめるし、設備が変わったからお試し…もあるけど、一番は新しい調理場を使いたいウズウズを抑えられなかった。

 つい作り過ぎちゃったけど、焼き菓子は水分が少なくて日持ちするからゆっくり食べきればいい。

 

 クランヌさんにチャーを淹れてもらって、三人で座って籠と茶器を囲む。

 もちろん、手を清潔にするのは忘れずに。

 恒例の間食の始まり…ですが私は手を付けず、センお兄さんとクランヌさんの反応を窺います。


 口にするのを待つ時間は期待とちょっぴりの不安でドキドキ。

 お二人とも舌が繊細で、例え感想を伏せても濁しても私には筒抜けですからね。

 試験を受けているような気分。


 それぞれ違うお菓子を手に取って、口に運んで行きます。

 出来に自信はありますが、さてどうでしょうか……

 

「相変わらず美味いな。店で出されても納得するくらい」

「ええ…それにチャーとの相性もよろしいですし」


 やった! 今回も好評ですっ…お世辞でもありません。

 まあ気遣うにしても、二人はこういう相手のタメにならないことは言わないですし。

 

 味見はちゃんとしてるけど、実際に食べてもらうまで評価は分からない。

 達成感に包まれながら私も一口…うん、やっぱり味も焼き加減も我ながらいい具合。

 これまで皆の分とお裾分けにいっぱい作って来たから、調整はお手の物。


 だけど、私が技量を身に付けられたのは、方法を教えてくれたり確立してくれた周りの人のお陰。

 それは日課お手伝い訓練にも言えることで、今の実力は土台があってこそ。

 謙虚だと言われますけど、ただ私は感謝の方が強いだけです。自負自体は持ってますからね。

 


 固い地面をくねくねと這い寄って来る、焦げ茶色の4匹。

 どれも手足がなくて、太いロープみたいな形をしたDランクの魔物ーーヴェノーム。

 荒野の街道に現れて人を襲うので、安全確保の依頼。 

 

(まずは…)


 先手で威力と貫通性を兼ね備えたフレイムスピアをひとつ。

 迫る火の槍。

 にも関わらずヴェノームたちは移動を続けて、そのまま直撃して爆発。


 …でも勢いは全く止んでなくて、体表は焼けてないし軽く跡が付いた程度。

 事前にセンお兄さんに教わった通り、硬質で火に耐性のある鱗。

 情報に疑いの余地はないですけど、実際に検証することも大事ですから。


 2匹が先行して左右から接近、牙を剥き出しに順に飛びかかって来る。

 まず身体強化を使って素早く躱し、通り抜ける瞬間にダガーを振る。

 硬い鱗を物とせず、まるでオトーフを切ってる手応えですっぱり。


(魔法は全然効いてないのに…相変わらず凄い切れ味です)


 もう片方には光の障壁を展開。

 急拵えだから軽くつっかえただけで容易に突破されるけど、猶予は作れた。

 その間にダガーを持ち替えて同じ要領で斬る。


 3匹目が離れたところから身を起こす…あの動きはーー

 吐き出される見るからに毒々しい液。

 動きに合わせて用意しておいたファイヤボールとフレイムスピアを放つ。

 

 火の玉が液を蒸発させて、口内に火の槍が突き刺さり爆ぜる。

 今度は口を開けたまま倒れて、焦げた匂いを発してる。

 体内であれば通用する。これも聞いた通りですね。


(あと1匹…)


 最後尾にいた残りが体を膨らませる。

 そして溜めたものを地面に向けて口から放ち、紫色をした濃い霧が発生。

 吸い込むのは不味いので、距離を置いて構える……仕掛けて来ない。


 ほどなくして霧が晴れてるくと、その先には背を向けて遠ざかるヴェノームの姿。

 霧を利用して攻めずに撤退の方を選んだみたい。

 

 残念ですが、そうは行きませんよ。

 最近集中して鍛えてる、こういった状況にピッタリな魔法がありますからね。

 

 親指と人差し指でセンお兄さんが使っている武器ーー銃を模した形を作る。  

 それから狙いをつけて、


「障害を射抜け、一閃の弾丸!」

 

 指を跳ね上げ、一筋の光が走る。

 あっという間に逃げようとしてるヴェノームに追い付いて、体を貫いて地面へ。

 一点に収束した光が瞬間的に射線上を通過する、光中級魔法…ディスラプト。

  

 センお兄さんの銃に似た攻撃だからお気に入り。

 範囲は限られてるけど、急所とかを狙いやすくて避けられにくい。

 

 ……近くに魔物の気配はなさそう。

 ダガーを収めると、ローブ姿のセンお兄さんが歩み寄って来て、


「ささっと回収しよう」

「はい」


 分担して倒したヴェノームの部位の採集へ。

 血に誘われて他の生き物が来たりする前に、作業を早く済ませます。


 

「外での活動、板に付いて来たね」


 一段落すると、センお兄さんからお褒めの言葉が掛かる。


「そうですねっ。ぎこちなさが抜けてらしくなっててるかと」

 

 周囲の警戒、動体の観察、事後の処理ーー

 依頼の経験を通して自然と動けているように思える。

 私がこうなれたのも、ご教授のお陰という訳ですね。


「…にしても、シルムは相変わらず綺麗なままだな」

「へっ?」


 私の全身を見て、センお兄さんが突然言う。

 え…えっ? 綺麗!?

 なんで急にそんなこと…はっ、もしかして成長した私に魅力を感じて…?

 

 だとしたら私たちはめでたくーー


「ああその、怪我しないどころか汚れてもないからさ。素晴らしいことだけど」


 …でしょうね、冷静な部分では分かってましたよ。

 都合のいいように言葉を切り取っただけです…はあ…。


 仰った通り、私には返り血のひとつも付いてない。毎度のこと。

 汚れが付着しそうなとき、光魔法で薄い膜を作って防いでいるから。

 センお兄さんは防具が飾りみたいになってるとも思ってるみたいですね。


「二人から頂いた大切な物ですから、身に付けてると気が引き締まるんですよ」

 

 この防具に限らず、頂いた物はぜんぶ保護を心がけてますよ。

 単に理由を言ったのか、こっちの思考を読んだのか…。

 ふふふ、悩んでますねー。もっと私のことを考えて下さい。


「なるほど…大事に扱ってくれて嬉しいよ」

「当然のことですっ」


 センお兄さんとの大事の度合いには差があります。

 私にとっては体の一部に等しいですからね。 

 自然と悪くなっちゃうのは仕方ないけど、油断で損なうのは許されざること。


 刻み込まれた幻痛も含め、立ち入ろうとする不純物は排除します。

 

 

「おかえりシルムちゃん。いつも仕事が早いねー」

「ただいまです! フィリアさん」


 ギルドの受付で明るく迎えてくれる職員の女性、フィリアさん。

 荒くれ者にも動じることなく、てきぱきと仕事をこなす頼りになるお姉さんです。 


 以前、不躾な人から「何でそんなのと一緒なんだ? 俺らと組んだ方がいいぞ」って勧誘されたことがあったときには「強引な勧誘はご法度、守れないなら出てってもらうわよ」と追い返してくれて。

 あのとき、表情は崩れてなかったけど、ダガーの柄に手が伸びそうだったので助かりました。

 

「お付きの人も、おかえりなさい」


 挨拶に会釈で返すセンお兄さん。

 事情を詮索して来ずに、こうして友好的でもありますし。


『今日もシルムちゃん無事みたいね。評判いいし、このギルドには欠かせないわ!』


 伝わって来るフィリアさんの考え。

 …まあ打算なんですけど。

 悪いことではありませんし、むしろ好印象です。


「依頼完了っと…他にも依頼を受ける? よかったら紹介するけど」

「いえ、今日は用事があるので」

「あらそう…何だかご機嫌ね?」

「はい! このあとーー」


 こうしてフィリアさんに用事の内容を話し、浮ついた気分で帰路についた訳ですが。



 一転して、今の気分は。

 理由は簡単、お邪魔ものが現れたため。

 私とセンお兄さんの花園を作ろうとしているところに。

 

 そんなの、一人しかいない。

 

 高い身長にすらりとした体型。

 切れ長の瞳に無表情、結った紫の髪。

 一部分は残念だけど美人と言える、センお兄さんを追い回すへんた…スティーさん。


 発している独特な匂いは引き込まれそうな危うい感じ。

 何を考えているかは…言及するまでもないでしょう。


 別に顔を出すこと自体は構わないのです。

 センお兄さんが関わることを決めたので、私も割り切りました。

 

 問題なのは…作業の準備を終えた途端にやって来たこと。

 たぶん例の、センお兄さんの状況がわかる粘着能力の執着で知ったんでしょう。

 さらに有ろうことか…


「私も手伝う」


 なんて言い出す始末。

 無遠慮に踏み入って来るとは…もう狙っているとしか思えません。 

 苦々しさを堪えて、にこやかに応じる。


「そんな、スティーさんはお手を煩わせなくていいですよ」

「人手が多い方が早く終わる」

「別に急ぎではないのでー」

「私が手伝ったら何か不都合なことでも?」


 くっ…白々しい。

 表面上は助力を申し出てるから、このまま拒否し続けると私が悪者。

 …業腹ですが仕方ありません。考え方を変えましょう。


「分かりました…浮いた時間は有意義に、使わせてもらいますねっ」

「…発情魔」

「誰のことでしょう?」


 互いに視線をぶつけ合って、どちらともなく顔を背ける。

 手を抜けばセンお兄さんの心証が悪くなりかねない。

 精々働いてもらいましょう。

 

「おー、頑張れよー」


 一方、地面に座り込んで気の抜けた応援をする一名。

 ぼさぼさの黒い髪に金色の瞳。

 言動から軽薄な印象を受ける、ロクスさん。

 

 匂いは野生的で、考えてることはこちらも言わずもがな、です。

 この際ですから、ロクスさんも誘ってみましょう。


「一緒にどうですか? 庭いじり」

「柄じゃないから遠慮しとくわ。それにやる気ねえのに関わったら悪影響だろ?」


 確かに…お花の世話をするときは心を込めないと。

 私の方が軽率でした。

 ロクスさんは一見するといい加減そうですが、頭も気も回るので要注意です。


 発憤の能力を制御出来てないという点についても。

 もしセンお兄さんに怪我をさせるようなことがあったら……


 

「ふう…確認は済んだし後は寝るだけっと」


 諸々の家事を終えて自室のベッドの中。

 今日はセンお兄さんとは別室

 たまには一人になりたいでしょうから。


 夜ご飯は、複数の香辛料を使って作ったソースに具材を合わせたカリー。

 時間を置くと美味しくなって、パンや麺など色々と組み合わせられる。

 香辛料とか具材を変えてもいい万能な料理。


 一人だと余計に部屋が広く感じる。

 でも、みんなから貰った物に囲まれて、我ながら特徴を捉えてるセンお兄さん人形もあるから寂しくはない。


(今日も充実した一日だったな…)


 不要な場面もあったけど。

 といっても、本気で邪魔だとは思ってません…一応は。

 今後のことを考えると、スティーさんたちは必要なので。


 正体の分からない、平気で人を害する魔の手が潜んでる。

 非情な相手にはこっちも非情さを求められる…センお兄さんは、私たちに重荷を背負わせたくないと考えてるみたい。


 私は、そっち側に足を踏み入れるのは厭わないのに…

 もともと私たちが原因で始まったこと。

 甘える気はないし、センお兄さんを危険に晒すくらいならーー躊躇を捨ててダガーを突き立ててみせる。


 だけど、センお兄さんの希望に応える。

 望むってことは必要としてるってことだと思うから。

 役目はあの人たちにお任せしてーー私はセンお兄さん骨抜き計画を推進する。


 まあ計画という名のひたすらお世話だけど。

 明日も早起きして努める…前に、部屋にお邪魔して活力を頂かなきゃ。

 

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