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128 シルムの一日 中

今更ですがキャラ崩壊?かもしれないです。


「おっひる、おっひる、センお兄さんとお昼」


 手伝いを終えて口ずさみながら駆け足で屋敷に戻り、着いた頃にはもうお昼時。

 この後には訓練が控えてて、時間が迫っている。

 でも午後からの活動に精を出すためにも、昼食を摂るのは欠かせません。

 

 えーと…すんすん…屋敷の外にはいないみたい。

 玄関に向かってから再度試すと、欲をくすぐる匂いが漂って来る。

 それを辿って足を進めた先、奥の方にある部屋にセンお兄さんの姿。

 

 空き部屋であるここにいるのは、侵入者対策で屋敷のあちこちに仕掛けをすると言ってたので、その作業ででしょう。

 

「ただいまですっ。すぐお昼の準備しますね!」


 帰りの挨拶と、今から取り掛かることを簡潔に告げる。

 そうしたらセンお兄さんが気遣う表情に変化。

 …これは嗅ぎ取るまでもなく、発言に予想がつきますね。

 

「ああ、よろしく」

「いいえダメです。前も言った通りーーあれ?」 

「ん? ダメなのか」

「いえいえ違います! てっきり料理を遠慮するかと思って」


 予想とは真逆の返事に急いで撤回して弁明を添える。

 むむ…的中続きのセンお兄さん専門家である私が外すなんて。

 様子からしていつもなら「無理せず出店とかでいいよ」といった感じに配慮するはずなのに…


 理由を聞いてセンお兄さんが小刻み頷く。


「まあ前だったらそうしてたけど、世話になるって決めたしな」

「あっ、そうでした! 私のご奉仕に身を委ねるって話でしたねっ」

「…そこまで大袈裟ではないぞ?」

 

 私の言葉に対して何か言ってますが、よく聞こえません。

 せっかくお世話される言質を取れたのに、押し切るのが常だったので、ついうっかり。

 道理で予想が当たらないわけです。

 

 しかしセンお兄さんに自覚があるのは良い傾向。

 身の周りの世話をされるのが自然な状態を作り出すのに好都合。


 既に超過してるのに、まだ積み重なって行ってる恩。

 報いるにはもう身を捧げる他ありません、与えた分ちゃんと受け取ってもらいますから。


「じゃあ調理任されました! ちゃちゃと作るので座っといて下さいね」

「分かった。切り上げて向かうよ」


 同意を得たので足早に調理場へ。

 手料理も大事な恩返しの一環。

 センお兄さんは食事を出店にある片手間に食べられる様なものや、携帯食で軽く済ませることが多かったそうです。


 行商人とかギルドの人たち向けの商品が色々と出されてるとはいえ、そればっかなのは何だか味気ないよね。

 センお兄さんの体を構成してるのが気に食わないのもあるし。 

 作るのが早くて簡単でも、美味しくて量もあるものを用意できます。

 

 手伝い先のお肉屋さんに教えてもらったのは、シャキシャキお野菜と薄切りのお肉を香ばしく炒めて、甘辛く仕上げた一皿。

 それに少し手を加えて茸とお出汁を投入、とろみを付けて出来上がり。

 

 熱々ですから、朝作って保温容器に入れておいたシーメーを大きめのお椀によそい、上から掛ければいい感じ。

 持っていって好きなだけ掛けて頂いて。

 後は温め直したスープを添えて…うん。残り物は必要だけど、数分で昼食の準備完了っ。


 子供たちに評判のお手軽の一つ。

 シーメーと相性良いから、好きなセンお兄さんのお口にもピッタリなはず。 

 観察による目の保養と食事でくつろいで、午後も頑張って行きましょう。

 


「本日もご指導よろしくお願いしますわ」

「ああ、お互い頑張ろう」

 

 屋敷の庭。

 センお兄さんに対し綺麗に、腰を折って挨拶する女性。

 滑らかな銀髪に透き通った青い瞳、優雅な振る舞いが絵になる、仲が良く恩人であり尊敬する人ーークランヌさん。


 手広い交易の仕事をされてて、そこで得たものを朝に出したお魚を含め、ところどころで融通してもらってます。

 当時、先行きに悩んでいたときも支援の話を持ちかけてくれましたし。

  

 クランヌさんが持つ独特な匂いは、納得の包み込む優美さで魅了されちゃう。

 センお兄さんほどではないけど、考えてることは深いところ以外なら分かる。


 真面目なクランヌさんらしく大半は仕事関連。

 後はご家族に知人、私のことと最近はセンお兄さんが増えた。

 

 センお兄さんに好印象を抱いているのは間違いない。

 けど、私と一緒かどうかまではハッキリしてません。

 礼節を重んじていて、商人でもあるクランヌさんは貸し借りはきっちりしてるので、その点は私と同じと言えます。

 

 クランヌさんはどうするつもりなんだろう…

 訓練なので普段のドレス姿ではなく、髪を結って動きやすい格好に着替えてる。

 …それで一部分が、いつにも増して存在感を放ってるんですが…うーん、立派です。


 私も年の割にはある方なんだけどな…

 あの大きさには張り合えそうにないですね。


「…シルム? そんなまじまじと、どうなさったのです?」


 じっくり膨らみを見て諦めに似た気持ちを覚えていると、少し呆れた顔を私に向けるクランヌさん。

 流石に気付かれちゃいますか。クランヌさんは注目されることが多いですし。


「えと、改めて凄いなぁって感心してました」

「はあ…意図を計り兼ねますが、見ていて楽しいものではないでしょう」

「そんなことはっ、同性の私でも惹かれちゃいますよ!」

「もう、仕方ありませんわね…始まったら集中なさって下さいね?」

「はーい」 


 もしクランヌさんにその気があったら…クランヌさんに限って独り占めしようとは考えないでしょうし、手を取り合って一緒に攻略ーーなんてなったら、とっても素敵です。 


 

 訓練が始まったらまず、魔法を順番に使ってそれを繰り返し行う。

 適宜センお兄さんに見本を見せてもらって習得と練度上げ。


 単調ではあるけど真面目に取り組んだぶん、扱いが上達して使える魔法も増えて行って。

 私の場合は成長促進の能力に助けられてるのが大きい。

 だから、どちらかというと楽しい方で、それに頑張りの甲斐あってーー



「やっ! それっ!」


 手にしたダガーで切り掛かりに突き、途中で逆手に持ち替えるなどしながら攻撃。

 立ち合っているセンお兄さんの手にも同じくダガー。

 

 近距離戦を想定した模擬戦…ですが、技量はセンお兄さんが上で、腕も私より長くこっちが不利。

 真っ向から勝負したら、あっという間に無力化されてしまいます。

 

 だから私がしているのは主に牽制。

 当然、センお兄さんの方は積極的に攻めて来ますが、


「えいっ」


 追い込まれる直前、側面に火の矢を瞬時に生成して放ち、一度センお兄さんに下がってもらいます。

 

 私の方は魔法を使っていい条件。

 今みたいに仕切り直したり、動きを制限して攻める危険を軽減したりと補って対抗。

 素早く魔法を展開できるのは魔法訓練の成果です。


 ただ、このままの流れだと負けてしまう。

 集中できてる今ですら手一杯ですし、センお兄さんの思考を嗅ぎ取ってる余裕もありません。

 ということで、選択肢は一つ。


「はっ!」


 空いた手から前方に炎を出すとセンお兄さんが後退。

 すかさず、同時に用意しておいた剣を象った魔法、ホーリーソードを向こう側に囲むように展開。

 ぐっとダガーを持って構え、前後からの挟撃ーー!


「えっ?」


 実行に移そうとすると、逆にセンお兄さんがこっちに踏み込んで来ました!

 意表を突かれて咄嗟にダガーを突き出しましたが、手首に手をあてがわれて簡単に逸らされ、そのままダガーを突き付けられてしまいました。


「…降参です」


 もう何も間に合わないから、大人しくホーリーソードを消して負けを認める。

 センお兄さんも手を下ろして、労いの笑顔が向けられます。


「追い詰めるところまでは良かったけどね」

「ひと呼吸おくべきでしたか」

「そうだな。後は突っ込む振りだけして誘うとか、また魔法を使うとかかな」

「もっと考えないといめませんね」

「いや、戦い慣れてない割に考えてる方だと思うよ」


 そうセンお兄さんは褒めてくれますが、まだまだ足りません。

 誘拐事件…私たちは眠らされて何も出来なかったけど、仮に起きていたとしても力になれていたかどうか。

 通用する、もしくは足を引っ張らないくらいにはなっておかないと。


 そのためにもーー

 

「おやすみなさーい」

「おやすみ」

 

 上機嫌な私と、もう受け入れた様子のセンお兄さん。

 一つの寝袋に二人で入る。

 仮眠の時間そして、本日二回目の至福の時間でもあります。


 ちゃんと休まないといけないので、朝と同じようなことはしません。

 こうして包まれてるだけでも、十分な安らぎを得られますから。


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