12 訓練1
読んで下さりありがとうございます
起床して毎日の日課を済ませ、今は魔弾の作成をするところ。
魔力欠乏によって起きる体調不良等は無いが、突然の状況に合わせ、いつでも魔弾を作れるように何割か残しておく。
『エンチャント』は付与する効果によって消費魔力が異なるが、ネヴィマスカル相手に使ったのは比較的軽い方で、「麻痺」と「維持」にちょっとコストがかかるくらいである。
なので使用分しっかり補給をする…あの組み合わせは気に入っているというか、使い勝手がいいのだ。
多数を相手取る場合、殲滅するだけなら難しくないが、それは周囲に及ぶ被害を無視した時。
荒野みたいに何も無ければ自由にやるが、蒼然の森のように自然が豊かだと下手に強力な攻撃を繰り出すわけにはいかない。
理由は森と共存するエルフが怒るから…とかではなく、自然破壊をすると生じる生態系の変化、魔物もその影響を受けて新種が出現する可能性。
そうなると困るのはこっちなので、コスパが良くて威力がほぼ皆無な、あのコンボをよく使う。
(余った魔力は…完成間近のやつに回すか)
一度で必要な魔力を注がなくても累積させられるので、コストが大きくかかるのは、何回かに分けて作り上げる。
前にかなりの時間を要したと述べた、転移のネックレスは、回数無制限だけあって3ヵ月くらいはかかった。
魔力の残量的に作成はここまでにして、とりあえず朝食を済ませておこう。
「さて、昼までどうするか…」
今日も今日とて朝食のお米…シーメーを堪能し、戻ってきた部屋の中で独り言つ。
昼までの数刻の間、やることも用事も入っておらず、一言で言ってしまえば暇。
十分に睡眠時間は確保したので、休むのは不必要。
ランクの低い依頼特有の、雑用や採集でもこなして少しだけ稼いでおこうかと思ったが、現在ギルドカードには倒した魔物が書き連ねられているので、消えるまで一週間は待つ必要があるので却下。
異世界に来てからと言うもの、新鮮なことが溢れているが、物足りなさは拭えない。
特に元の世界は娯楽が充実していたから、時間潰しに困ることは無かった。
こっちにも知らない遊びはあるけれど、基本的に複数人でやるものばかり。
今まではこんなときは読書…読書か。
ちょうどいいし蒼然の森の復習がてら、ギルドの書物庫に寄って昼過ぎまで読み耽るとしよう。
そうして入り浸る事数時間、俺はシルムが指定した時間に近づくまで一時的に本の虫と化した。
今回はしっかりと読み込んだので、以前見逃していた部分や忘れていた所を頭の中にインプットした。
Bランクのカマキリのような魔物の名前はレデカルドと分かったし、中で一番納得したのはナーゲヴォルフの内容。
爪牙、肉、皮と全身が上質な素材だが、出現率が低く遭遇しにくいので稀少性もある魔物。
確かに昨日70体くらいは倒したけど、その中でナーゲヴォルフは2体しかいなかったかな。
エストラリカに来て、物の相場を知って以降、妙に取引した金貨の数が多いと引っ掛かっていたけど、ちょっとしたレアな魔物なのか。
出落ちどころかエンカウントして、最初の内に十分過ぎる金銭を手に出来たのは幸先が良かったと言える。
とはいえそんな大金の元を、パーティーで入ったと言った俺が独り占めしていることに関して、ロアンさんが邪推していなければいいが。
そう思い返しながら、シルムが言った「このくらいの時間」と合致する頃に、孤児院へとやって来た。
シルムが何処にいるかは不明だが、昨日来たばっかで不審者には間違われないだろうし、お邪魔しようかな。
そうして進もうとすると、建物の中から出てくる一人の少女ーーシルム。
まるで俺が来るのが分かっていたかのような、ベストなタイミングで現れ、こちらに向かって来た。
「こんにちは、センお兄さん」
「こんにちは、シルム。よく俺が来たの分かったな」
「だってセンお兄さん、几帳面そうですから。時間ぴったしに来ようと思ったんじゃないですか?」
当たっているでしょ?と得意気な顔を見せるシルム。
俺のどこを見てその結論に至ったのか謎だが、シルムの指摘は的を射てる。
上からの呼び出しであれば早めに行くが、基本待ち合わせは時間通りに行くようにしている。
早く行くと相手に不都合があったり、気を使わせるのもあれだから。
「凄いな…当たってる」
「ふふっ、私、人を見る目はあるって自負がありますから。それで、まずはどうするんですか?」
「場所の確保をしよう。あんまり人の寄らないような所ってある? 広さは問わない」
「人が寄らない…ですか。本当に狭いですけど一ヶ所あります」
ビンゴ、まだエストラリカに来て間もないから穴場なんて知らないし、宿屋に連れていくのは論外だからな。
「助かるよ、それじゃ案内を頼む」
「ここです」
先導するシルムによって着いた先は孤児院の裏。
建物と壁の合間にあるので、日を遮っている。
建物の一部が出っ張っていて奥行きはなく、幅は馬車がギリギリ通れないくらい。
「見ての通り何も無いのでほとんど誰も来ませんが、どうですか?」
「ここなら少なからず部外者には見られないだろうし満足だよ。じゃあ早速」
無属性魔法「空間創造」を使用して、入り口を目の前に展開する。
突然出現したものにビックリしたのか、シルムはつぶらな赤い目を見開いた。
「これは…センお兄さんの能力ですか?」
「いや、これは空間魔法と言って無属性魔法の一種。まあ、入ってみてくれ」
次は逆に俺が先導するようにして入り、それに続くシルム。
そして周りをキョロキョロと見渡し、呆けた顔をして立ち尽くす。
「魔法のことは良く分かりませんけど、魔法って凄いですね」
「他人事みたいだが、俺もそう思う。察してるかもしれないけど、外界とは隔絶されてるから、自由に動き回れるし、大きな音を立てても咎められない」
「へー、スペースが不要の理由はこれなんですね」
「うん、それじゃあ手始めにいくつか質問させてもらおうかな。今日の制限時間は?」
「昨日伝えた時間と同じで1時間です」
「わかった、なら…」
『コール』を使用してハンドガン一丁を出す。
銃を初めて見たであろうシルムは、目をパチパチとさせている。
地面に向かって弾を一発射出すると、この空間内を覆うようにして、魔法が発動する。
「センお兄さん、それは?」
「これは銃という武器で、今撃ち出したのは時間の経過を遅くするものだよ。その効果は10分の1…つまり1時間なら10時間ってことになる」
「じゅっ、10時間!?」
「一時間に設定してあるから、魔法が切れたら終了の合図。あ、経過を遅くしても、得られる成果には影響無いから安心してくれ」
「はー、今日は驚いてばかりです」
言わずもがなこれは『エンチャント』で魔法を付与された弾丸。
『エンチャント』の強みの一つは、付与する際に魔力を消費するだけで、使用する時はノーコストかつ無詠唱みたいなもの。
「質問の続きだけど、シルムを逸材と言った以上、前置きとしてステータスを把握していることを告げとく」
「ええ、承知してます」
「それは良かった。なら自分の魔法適正を知っていて、それで魔法を使ったことはある?」
「えっと、火と光の2つで、魔法は使ったことはありますが…火種とか、照明代わり程度の初歩的なやつです」
受け売りになるが、魔法適正は扱える属性のことで、それは生来で完結しているので、開花することは一切無い。
基本属性の火・水・地・風・雷の5つに、上位に分類されるのは光・闇・無の3つで計8つ。
無属性は魔力さえあれば誰でも使えるので数えには入れないが、全体的に魔法のハードルが高いので上位とされる。
「魔法の使い方が分かってるなら話が早い。でもそれは置いといて最後の質問。自分のスキルについては?」
「私のスキルは『成長促進』と聞いてますけど、あんまり効果は感じないですね」
そう、シルムのスキルは『成長促進』。
ステータスの伸びに補正がかかる。
鑑定では具体的な効果値は知れないが、常時補正をかけるタイプのスキルはレアで、逸材である一つの理由。
「あー、あくまでステータスの伸びを良くするだけだから、実感は薄いかもしれないね。でも、シルムは能力の効果をもう体験してる」
「…何かありましたっけ?」
自分にとっては当たり前になっていて、疑問に思ったことは無さそうだけど、客観的に見ればおかしい。
ステータスを見ればその違いは一目瞭然。
「昨日の荷物。シルムと同年代の子は一つ持てるかも怪しいけど、シルムは二つ持ってただろう?」
「え?でもそれは、物を良く運ぶからその影響で…」
「鍛えてるならまだしも、物を良く運んでいても一つが限界だよ」
「そう…なんですか。言われてみればあんまり気にして無かったです」
いろいろ思う所はあるだろけど、一応納得してくれたかな?
スキルの効果に関しては、これからの訓練で身をもって体験してもらえるはずだ。
「質問はここまでにして、次の段階に移ろう」




