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間章 シルムの一日 前

(…そろそろ起きなきゃ)


 真っ暗な中、俯せになって深呼吸を繰り返していた私は、体感で時間が迫っているのを悟る。

 早起きはもう慣れっこで、それ自体はぜんぜん苦じゃないけど…今はちょっと別なんです。

 でも色々と疎かにする訳にはいかないので、ここから抜けるのは優先事項。 

 

 名残惜しさに頬ですりすりだけして未練を振り切り、体を引っ込めて起き上がります。

 さっきの真っ暗よりかは見えるようになって、周囲の確認も出来るように。

 といってもお日様はまだ上がってなくて、部屋の採光が悪いので何とか物の判別ができるくらい。

 

 私の正面…いえ真下では、センお兄さんが眠ってます。

 直前まで私が服の中にお邪魔してたので、上着が乱れてお腹がチラ見え状態。

 

 直し直し、と…センお兄さんの体格は平均的だけど、服を捲ると逞しく綺麗な肌をした体が現れます。

 はあ〜〜ってうっとりとすると同時に羨ましくもあったり。

 

 服の中に入っていたのは、怪我をしていないか確認をするため。

 センお兄さんならよっぽど大丈夫でしょうが、私が不在の間に何かあっても黙ってそうなので健康診断、いわゆる医療行為というやつですね。

 まあ私はお医者さんじゃないけど。身を案じての行いであって他意は当然ありません。

 

 前の方へ身を寄せて覆い被さるようにして顔を覗き込む。

 逆に心配になるくらい静かな眠りで、キリッとした顔立ち。 

 起きている間は物腰が柔和だから「センお兄さん」って感じですが、寝ている間や真剣なときは「センさん」って感じです。


 時折見せるその表情に顔が蕩けそうになることがしばしば。

 今なら心置きなく、しかもいっぱい観察できちゃう。

 じーーーーーーーーーー


 やっぱりこっちのセンお兄さんもいいなあ…違うときめきもあって。

 もし迫られちゃったら……いけないいけない。

 自分の世界に浸りそうなのを抑えて、穴のあくくらい見つめていたら、

 

 あれ…? 

 何だかセンお兄さんとの距離が少しずつ縮まってる…? 止まらない、このままだと顔にーー

 ぴとっ。

 

 くっついちゃった……唇と頬が。

 まるで吸い込まれるみたいに。

 局地的に引力でも生じてたのかな?


(なーんて。私の意思でしたんですけど)


 ほっぺにちゅーしたのと服の中に入り込んだのも。怪我の心配してるのは本当。

 私基準で行き過ぎたことはやってません。

 然るべきときの為に取っておきます。

 

 これに関してはセンお兄さんも良くないと思います。

 日頃あんなに私が接触してるのに、隣でこんな無防備に寝入ったりして…

 手を出さずにいられるか、いやいられない。


 センお兄さんは呼びかけられる、時間になる、身に危険が迫るのいずれかで目を覚まします。

 でも最後の一つは不正確。 

 現に身体を好きにしてても一向に起きそうにありません。


 私には軽率だって言うのに自分のことが抜けている、というより全く想定にないみたい。

 私が目を光らせて守らなきゃ…!


「さてと」


 活力は十分、今度こそ動くとしましょう。

 センお兄さんが日課を始める時間が近付いてますし。

 終えるまでに色々やっておかないと。


 朝食の準備は短時間で済むようになったけど、身嗜み入念に整える必要があります。

 これもセンお兄さんの心を掴むためには欠かせない。

 一日の始まりです。



 センお兄さんはシーメーが好きなので、基本はそれを元に献立を組む。

 鍋で炊いて蒸してふっくら仕上げ。

 

 おかずは、クランヌさんから脂が乗った魚を頂いたので塩焼きに。

 卵に出汁を入れて厚焼きを作ります。

 それから野菜を摂ることは大切なので複数用意。

 

 寝る前に仕込んでおいた浅漬け。

 油で揚げて調味料などに浸して味を付けるいわゆる揚げ浸し。

 汁物にも加えてあるから最後によそって、と。


 よし、これで朝食は完成!

 机にお皿を並べていると扉の開く音。


「おはよう」

「おはようございますっ」


 人当たりが良くて温かみのある、お日様みたいなセンお兄さん。

 体を動かした後だからより清涼感があります。

 残念なのは、センお兄さんの服は汚れや匂いを消しちゃうので、運動後の香りを楽しめないこと。

 

 二人で席に着いて朝食を取る。

 咀嚼したあと「今日のも美味しいよ」と言ってくれて、本心でもそう思っているのが伝わって来ます。

 美食化ではないけど、隠し味とか一工夫に気付く舌の鋭さを持ってるので、褒めて貰えたのと気に入って貰えたのとで幸せな気分。


 …センお兄さんにはほぼ勘付かれてますが、私は人が考えてることが分かります。どんな人かも。

 能力で鑑定されたのは成長促進だけで、どうしてかは不明。

 小さい頃、人から体臭とは違った独特な匂いを嗅ぎ取れるようになって、それを通じて知ることが出来るといった感じ。 


 でも相性といえばいいのか、個人差があって。

 考えていることが断片的にしか、全く分からない場合もあります。

 下衆ポルドがその部類。どうせ碌でもない脳内でしょうし、むしろ詳らかにしたくないです。


 思惑が分かってたらセンお兄さんと関わらなかったかもしれないし。

 下衆からしてた匂いは鼻に付くような嫌なもの。用いる対象を決められるのが幸い。

 経験上、不快な匂い発するやつは畜生ばかりです。


 子供たちに因縁をつけて来たり、手伝い先では筋違いな苦情を言い出したり。

 考えが読めない代わりに関わらない方がいいって判断が出来る。

 その点ーー


 よく噛みつつ、順々に食べ進めるセンお兄さん。

 どれも口に合ったみたいで何よりです。

 そして私の手料理が活動源になって、体を作って…えへへ。


 あれらとセンお兄さんは真逆。

 初めて会ったときは本当に驚きました。

 運命と言っていい、こんな相性抜群な人がいるのって。


 私をダメにする甘美な香りと、明瞭に伝わって来る思考。

 香りの方に夢中になって抜け落ちることがままありますが。

 流石に最初は疑っちゃいました、センお兄さんには特殊な力もありますし。


 それでいくつか試してみましたけど、邪さの欠片すら見受けられず。

 言葉に偽りなく戦えるように育て上げてくれて。

 今では私の方が楽しんじゃってます。


「ん? シルム、どうかした?」

「いえ、何でもないです」


 見つめたまま回想に耽っちゃいました。

 でも感けていられません、センお兄さんのお世話をすると決めたんですからね。

 私も朝食を食べなきゃ。


 

 センお兄さんと一旦別れて、依頼という名のお手伝いに。

 ギルド活動をするにあたって、お手伝い先の人たちが取り計らって指名で依頼を出してくれてます。

 今日は花屋さん。色とりどりの花の手入れをしていると、


「シルムちゃん、頼まれたもの用意しといたからね」

「ありがとうございます!」

 

 店長さんからの報告を受け、お礼を返す。

 花の種に肥料など、ここには屋敷の庭に使う物が一通り揃ってるのでお願いしました。

 

「ところであれって…シルムちゃんのいい人の所に植えるのよね?」

「はい、そうですよ」

「直球なのも混じってるけど、大丈夫?」


 用意してもらった中には、前にセンお兄さんに紹介した情熱的な花の種も含まれてます。

 それを植えるとなればもう打ち明けてるようなもので、店長さんはそのことを心配してます。


「大丈夫です、そういう意識が全くない方なので」

「ああそうなの…頑張ってね」

「勿論ですっ」



「シルム姉! おかえり」

「おかえり、シル姉」

「ただいま二人とも! 様子を見に来たよ」


 孤児院に顔を出すと温かく迎えてくれたのはラントとメイア。

 最近よく一緒にいる組み合わせ、茶化すような野暮な真似はしない。


「私がいなくてもちゃんとやれてるかなー?」


 屋敷に移住する前に家事については教えたけど、まだ皆幼いからお姉ちゃんとして出来具合の確認に。

 それを抜きにしても、家族として顔を見に来ます。

 問いかけに二人は自信のある笑み。

 

「へへ、任せてよ!」

「私たちも、やればできる」


 そう言ってラントが先導、メイアが私の手を取る。

 お手並み拝見ってところですね。


 連れられて一回り。

 綺麗に洗濯にされてるか、掃除が行き届いてるか、最後に昼前の今、ご飯の準備は順調か。

 細かいところに目を瞑れば良好と言えるかな。


「どう? 結構やれてるでしょ!」

「シル姉は心配せず、自分のことに集中してね」


 得意気に言う二人が頼もしく映る。

 …今までずっと面倒を見て来たから、やっぱり私がいないとって心残りはある。

 でもみんな、教えたことを覚え成長して、力を合わせてこなしている。


 これなら、頻繁に顔を出さなくてもーー


「わわ! 焦げてる焦げてる!」

「片付けたの誰!? ぐちゃぐちゃなんだけど!」

「シルム姉…針で指刺しちゃった…ぐすっ」


 ーーそうでもないみたい。

 固まってる二人をよしよしして、収拾に向かう。

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