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126 夜中

読んで下さりありがとうございます。


「やれやれ…最近のシルムは強引だな…」


 直近のシルムの勢いある言動を振り返り一人、口にする。

 夜中、居間の窓際に佇む。

 俺の部屋と比べ、こっちは複数ある窓から月明かりが差し込み薄明るい。

 

 ポルドの陰謀を阻止して拠点も手に入りとりあえず一段落。

 なので一息つきに寝所から抜け出してきた。

 シルムは寝入ってからも離れないとばかりに抱擁がガッチリとしてるから、緩むのを見計らい転移での移動。


 転移を使ってるのは、普通に出ようとするとシルムが反応して腕に力が入って阻害されるため。

 起きてるんじゃないかと疑うこの挙動は前に何回か試して実証済。

 同衾したら基本、朝まで身動きが取れない…それは良しとして話を戻す。


 シルムは最初から距離が近く押せ押せではあったが、ポルドの一件以降より顕著。

 でも別に無防備ってわけではなくて、警戒心自体は持ってはいるんだよな。

 

 初めて会ったときの俺に向けた警告とか、最近ではギルドの活躍で話し掛けられる回数が増えたけど、愛想良くしながらも隔たりのある応対。

 我の強い相手には殊更に態度を硬化させ、きちっとした隙のない振る舞い。

 

 そんなシルムが身近なのは信頼されているのを示し、シルムは自分が危ういことをしてるのは承知の上。

 一度強がりじゃないか試し確認を取り、認めることにした一方、線引きは必要だとも思っている。

 

 曖昧なままだと際限がなく、慎みを持つには区切りはあった方がいい。

 注意してるのはそのため。自制がしてくれるのが望ましいが。

 

「まあ、活力の一助にはなってるみたいだけどな…」


 本人がそう言っているのと、みんな口を揃え明るくなったと感想を述べてる。

 関係あるのかどうか、飛躍的な成長と成果ーー

 ふと思い立って、持参した革袋に手を入れ目当ての物を取り出す。

 

 月明かりを反射して輝く、美しい光沢を備えた無色透明の八面体。

 以前、今は分不相応だからとシルムが受け取りを保留にしたダイヤ。

 

 約束を交わしたのは一月くらい前…実際の経過時間との齟齬はあるがそれでも、この短期間でだいぶ見違えた。

 全くの素人だったのになあ…提案を持ちかけたときの見込みを大きく上回って。

 それこそ、仮定の話を実行しても問題なかったほどには…


「眠れないんですか?」


 背後から労るような声が掛かる。

 扉をそっと開いて入って来た寝ていたはずのシルム。

 寝惚けておらず明瞭とした目付き。


「ちょっと考え事。俺のいるところがよく分かったな」

「匂いを辿れば分かりますよー。魔物を感知するより簡単です」

「ああそっか」


 ギルド活動で索敵や何かを発見するのに活躍しているシルムの嗅覚。 

 魔物より、というのは独特な匂いでもしてるんだろうか。


「それより起こしちゃった?」

「どちらかというと要因は私の方です。寝床から抜け出して行く気配には敏感なもので」


 しみじみと穏やかな雰囲気で答える。

 事情がある多感な年頃が一堂に集まってるから、色々とあったんだろうな。

 

「俺は子供じゃないんだから、わざわざ様子を見に来なくていいのに」

「いいじゃないですか大人でも…センお兄さんがお望みなら、甘えてくれていいんですよ?」

「しないから」


 俺の近くに来ると両腕を広げ和やかに受け入れる姿勢。

 …シルムは俺に何を求めてるんだ?

 感傷には浸ってないし、仮にそうでもする気はないぞ。

 

「むぅ…ところで、それって…」

 

 断るとシルムは小さく唇を尖らせ、俺の手にあるダイヤへ目を向ける。


「これ、覚えてる?」

「勿論ですっ! 相応しくなったら私にって予約したんですから」

「うん、シルムは当時と比べて成長したと思ってさ。眺めてたところ」

「私のことを考えてたんですねっ。自分でも戦えるようになったなーって実感はあります。でもまだまだ若輩者ですから、これからも指導お願いしますね」

「こちらこそ、俺も頑張るよ」


 手応えを覚えつつも調子に乗らずに直向き。

 著しく伸び続けるのも納得。

 この様子だと現状もダイヤを受け取る気はなさそうだし戻しておくか。 


「ーーでも良かったです」

「何が?」

「センお兄さんが留まることを決めてくれて、です」

 

 その言葉に、革袋に手を入れた状態で暫し硬直。

 それから小さく息をつき、自嘲気味に返す。


「…考えないようにしてたんだけどな」

「そんなの、素振りを見れば丸分かりですよ。クランヌさんも気付いてますからね」


 何となしではなく確信を持って言い切るシルム。


「前にも伝えましたけど、私たちは気にしてませんから」

「…言ってたな。だが頭で思っていても、心はそうとは限らないだろう」

「センお兄さんがそうでしたしね」

「痛い所を突いてくるな」

「まあまあ。私とクランヌさんは大丈夫だったでしょう?」


 首を傾げ余裕の表情で尋ねて来る。

 的を射た指摘…全て見透かされているらしい。


 俺は少し前まで、場合によっては二人から距離を置こうと考えていた。


 俺が始末した黒衣の連中。

 クランヌの報告で危険だったと判明したものの、人殺しであるのは事実。

 明かしたとき二人は肯定的ではあったけど、本心では忌避感を抱いていても仕方ない。


 だから、目を逸らしたり身を引くなどの拒否反応があったら離れるつもりでいた。

 しかし二人とも普段と変わらない接し方で、どちらかと言うと俺の方がおかしかったよう。

 シルムに関してはいつも以上に…


「もしかして、最近シルムの接触が多かったのは」

「いえ、それは私がそうしたかっただけです」

「ああ違うんだ…」

「ですが結果的に証明になりましたよねっ。私たちはセンお兄さん信頼してるので、距離を取る必要はないんです」

「…シルムは随分と俺のことを買ってくれてるよな」

「え、そんなの当たり前じゃないですか。本当に買えるなら買いたいくらいです」


 疑いの余地なく純粋な面持ちでシルムは答える。


「この際なので言っておきますけど、私はセンお兄さんをとっても慕ってます。近付いて来たのは目的があってですけど、事情を明かして私の利も考えてくれてます、押し通そうとしたアレとは違って。それに協力関係だけなら表面の付き合いでいいのに、親身なってくれたり受け入れてくれたり、真っ直ぐ来られたのはセンお兄さんだからこそです。もし自分勝手だったり欲に靡くような人だったら、何か一つでも違ってたら今の私はいません。センお兄さんのお陰なんです、ですから」


 捲し立てたシルムは一旦区切り、


「何度目かになりますけど私たちは一蓮托生です。何処かに行こうなんて考えちゃダメですよ?」


 お叱りと懇願が一緒になった響く声音。

 …俺はシルムから信頼されてるとは思ってたけど、こんなに根強いものだったとは。

 それと、とりあえず距離を置けばいいという考えだったのも併せ、認識が軽かったと言わざるを得ない。


「二人とは色々交わしたのに、勝手にいなくなるのは無責任だよな」


 表明すると不安に揺れていたシルムはパッと表情を明るくして、こちらの腕を取って言う。 


「分かってもらえたみたいですねっ。それじゃあ朝に備えて寝直しましょうねー」


 自然と俺を伴って部屋に向け動き出すシルム。

 まあ…今日はこのまま寝てしまうとしよう。


 

 あと、俺は手にした力の自分の為に使うと決めて、責任を感じたりはしてなかったけど…シルムの俺のお陰という発言を聞いて、何だか落ち着いた心地になった。

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