122 案内
遅れましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
「にしても勿体ないですねー、このお庭」
並んで敷地に足を踏み入れると、シルムが左右を見遣って呟く。
「あー…せっかく広く場所取ってるのに手付かずだもんな」
屋敷に繋がる石造り道の両脇には、芝生と植物を栽培する複数の囲いがある。
しかし、囲いの中には何も植えられておらず土が占めている。
芝生は整っていて花壇は綺麗だから、管理はされてるみたいだが、当初のままを維持しているだけ。
逆に言えば、栽培に取り掛かる土台は出来てはいる。
「ええ。それに、悪いとは申しませんけど…景観が寂しいですわね」
「確かに…それもあるね」
クランヌが遠回しに言及した全体の印象。
灰色の通路、屋敷は焦茶の外壁、並ぶ土に青々しい庭ーー
全体的に大人しい色で花壇の空きに一層、物足りなさを覚える。
「といっても、俺じゃこの土壌を活かすのは無理そう…」
「こういうときは知ってる人に任せましょう!」
にゅっと前に出て委託を勧めるシルム。
素人の俺が着手したところで順調に行くはずもなく、植物をダメにしてしまう光景が目に浮かぶ。
規模も含め、完成までにどれだけの失敗と時間が必要になるか…。
「…うん。大人しく経験者にお願いするとしよう」
「ですです」
助言に乗ることを決めると何だかニコニコと満足気なシルム。
「請け負ってくれる人を探さないとな」
「はいはーい! 私がいますよ忘れてますよー」
「シルムが?」
「センお兄さん、私が花屋さんの手伝いしてるの知ってますよね?」
「シルム、家でも花のお世話されてますものね」
「そうです、適任じゃないですか!」
口を尖らせ不満を露わにしている。
妙に主張が強かったのは、自分がいると訴えてたのか。
花について教えてもらったし、知識があるのは分かってる。
「でも、この広さを手掛けるのは大変じゃない?」
両側にある複数の花壇。
植える花の数が多ければそれだけ手間がいるし、種類によっては仕方を変える必要があるだろう。
シルムは候補に挙がってたけど、元々が多忙なのに頼むのは憚られた。
「やることは多いですけど、出来ることも多いですから。むしろさせて下さいってお願いしたいくらいですっ。あの子たちに任せられるようになってきて時間は作れますし」
「ああ、みんな頑張ってる」
ここ数日の共同生活の中で、子どもたちは自主的に動いてたり互いに教え合ったり、成長の場面を目の当たりにしてる。
シルムに報いようとやる気に満ちていて目覚ましい。
「…というか、赤の他人に庭を好き勝手弄らせるつもりですか?」
「仕事で好き勝手はしないと思うなあ」
気に食わないらしく冷ややかな口調。
依頼人の注文を聞かないまま自由に進めようとしたら確実に問題に発展する。
まあ聞かれてもどうするか明確な答えを持ってないので、委ねる流れに…シルムの発言は間違ってはいない。
「…そうだな、シルムに頼もうかな」
「わーい! でも、決めるの早かったですね」
「シルムなら安心だし、いまは外部の人を入れるのは避けた方がいい」
ポルドの目論見は阻止したが、やつと繋がりのある悪人の気配が感じられる現状。
依頼する相手が関係者である確率は僅かにしても、巻き込んでしまいかねない。
「私も内輪で済ませるのがよろしいかと存じます」
「なるほど…任せて下さい、センお兄さんの期待に応えます! どうやって表現しようかな…えへへ」
「…程々になさるのですよ」
空を見上げ楽しそうに想像を膨らませるシルムに、クランヌがどうしてか注意。
「けど一人じゃ大変なのは変わらないし、俺も手伝うよ」
「えっ」
「雑用くらいなら出来るでしょ」
「そんな…一緒に作り上げるなんて…はぁ〜」
「センさん…」
恍惚と呆れ。
…ただ手伝いを申し出ただけなのに、どういうこと?
屋敷に入ってホールから廊下。
奥行きがあり、行き止まりまで綺麗な床が続きがらんとしている。
「センさんは調度の類は不要かと思いましたので。必要であれば用意致しますわ」
この開けた空間はクランヌの配慮か。
「読み通りいらないよ。鑑賞とか蒐集の趣味ないから」
「掃除するとき気を使いそうですしね」
「ではこのままで。家具の方はしっかり揃えておりますーーまずこちらですわ」
部屋の前に辿り着き、両開きの扉の片側を手前に引くクランヌ。
中に踏み入ると、
「…これはまた随分と立派な」
「おおー! 素敵な雰囲気ですねっ」
居間と思しき広間には前言通り、机や椅子を始めとした家具が備られている。
パッと見た感じ何も買い足さなくて良さそう。
どれも新品で上質、落ち着いた色合い。これは…
「もしかして、これも俺に合わせてる?」
「はい。私が独断で選んだのですが…お気に召したでしょうか?」
「ああうん…とっても」
まさにお誂え向きといった風情。
好みとか希望を話してないんだけどな…どう見抜いたんだろう。
驚きが強くて素っ気ない感じになってしまってる。
「それは何よりです。他もご案内します」
それからクランヌ先導のもと、客間や食堂など複数の部屋を見て回った。
特筆すべきは浴室。5人は普通に入れそうな大きさの浴槽。
規模は置いといて、こっちに来る前は入浴が習慣だったから外せない。
あとシルムが興奮してたのは、設備と器具が充実した調理場。
俺じゃ持て余しそうだと漏らすと「私が作ります」とシルム。
先んじて庭の下りを持ち出して遠慮は制され、調理もお願いすることにした。
シルムの料理の腕は言わずもがな、ここ数日間の食事を経て欲が出た。
そして最後に訪れたのが。
「こちらがセンさんのお部屋です」
取り付けられている窓は一つ。
一般的には広いが、この屋敷の部屋と比べると狭い一室。
多分、物置として造られた場所だろう。
「…至れり尽くせりって感じだな」
ここを選んだのは、間違いなく俺が狭い方が合ってると見越して。
実際ここが一番落ち着く。
当然、家具も用意されている。
他の部屋も最低限の物は置かれていて、消耗品は完備。
家の代わりに、ってクランヌは言ってたけど…一つ一つの質の良さを考えると相当な額になってそう。
もう事後だから詮索しないけど…ひとつだけ言いたいことが。
「何で寝具だけあんなに大きいんだ?」
他は部屋に合わせてあるのに、唯一寝具はどんと場所を占め明らかに異質。
「必要かと思いまして」
「大きい分には困らないじゃないですか」
…何で二人とも当然のように言うんだろうか。
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