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119 呼出

諸々の確認が済んでスティーとロクスが新たに加わる運びとなり、会合はお開き、各自解散して自身の用事へ。

 俺とシルムは孤児院で過ごし、クランヌは変わらず取引の準備。


 スティーは宣言通り基本はロクスに同行して見張り、発散の時間などを交えつつ、余裕が出来たら顔を出す。

 「本当はセンさまの側に控えていたい」と無念がってたが、声の主いわく実行したら執着が蓄積して、遠くない内にタガが外れ止まらなくなるとか。

 たびたび呑まれそうな危うい衝動をスティーは感じていて、信憑性があるため弁えている。


 発散は要するに気分転換、一人になる必要がある私的な時間。

 方法は聞いてないけど、ずっと監視を続けるのはスティーと相手のロクスにも負担になる。

 というか監視しなくてもいいんけど…例の従者志望として責務だそうなので、本人の意思を尊重。


 立ち去り際、シルムにベタベタしないよう忠告していたが、笑顔で嫌ですと切り捨て一悶着あった。


 ロクスはぶらぶらだらだら、気が向いたら鍛錬と、適当に過ごすとのこと。

 以前はその最中に戦う相手を探したり、持ち掛けられる仕事ーーポルドの件と同様、立ち入らない傭兵契約を請け負っていた。

 でも俺が取引に承諾したことでその活動は休止。


 それで意外というべきか、相手をするのは数日置きで構わないという。

 連日要求される覚悟でいたけどロクスは「いつ出番があるか分かんねえのに、俺ばっか得してたら割に合わねーだろ?」

 理由を聞いてそういえば律儀だったと思い返した。



 別れてから俺とシルムは子供たちと昼食の準備。

 いざこざで作りそびれた、俺好みの淡白な味の料理を作ってくれた。

 シーメー、お吸い物、煮物、天ぷら、浅漬け、和え物。


 日頃のお返しということで昼から豪勢な献立。

 手伝いをしたものの殆どシルムが手掛け、その際「出汁はえぐみを出さず、風味を飛ばさず、加減が大事です」と年頃の少女らしからぬ貫禄。

 取った出汁を元に他の調味と合わせて調理。


 その言動に違わず、出来上がった料理は塩梅や火加減など一流。 

 美食家とかではないけど感覚が鋭敏になったのと、こちらに来る前にも凝った料理を口にする機会があったので区別は付く。

 でも皆からすると微妙かな…そう思いきや、腕の良さと食育の賜物か予想に反して好評。


 俺も懐かしさを覚えつつ美味しく頂いた。

 こちらの食事を摂る様子と礼を含んだ感想に、シルムは表情を大きく崩してご満悦そうだった。

 

 ちなみに当然のようにシルムはスティーの話を無視していて、それどころかいつにも増して距離が近かった。

 牽制なのか「スティーさんにすりすり許したんですよね?」と言われ、燻りが強まらないよう黙って受け入れた。

 

 

 訓練の時間を迎え、事件を経て感化されたシルムとクランヌは、表明通り気を新たに参加。

 もともと勤勉な二人なので、拍車がかかったことにより負荷も一入。

 触発される目論みはあったにせよ、大事に巻き込まれた直後。


 無理せずほどほどにと伝えたら、二人は無言でどの口が言うんですかとばかりの表情。 

 うーん…ロクスの提案が悪くないってのは本音だし、こっちは無理した覚えはないのに。

 分かったような口を利くと余計に反感を買うので、ほどほどにを念押しするに留めた。



『さて…問題の時間ですね』

『うん、とりあえず打ち合わせた流れで行こう』


 ローテーブルを挟み幅広のソファー。

 片方に俺とシルムが腰掛け、対面には受付での人当たりの良さを控え、引き締まった空気を醸すリプスさん。

 変化に釣られて俺たちは居住まいを正す。 


 ここはギルドの中にある応接室。

 ギルドに赴くと職員に声を掛けられ通され、少しするとリプスさんが入室。

 そのときには既に真面目な状態。 


 呼ばれた理由は当然、昨日の魔物襲撃について。

 報告など全てティキアに丸投げしたが、俺とシルムも現場に居合わせた参考人。

 聴取されるのは想定できる成り行き、対応を予め決めてある。 



「まず最初に、ギルドからお二人に謝罪を。この度は当ギルドが指定した先で危険に晒してしまい、申し訳ありません」

「わわ、頭を上げて下さいっ」


 詫び言に続いて重々しく頭が下げられ、シルムは慌てて止めに入る。

 ポルドへの尋問で襲撃を企てのは奴で、標的は俺たちだと判明している。

 迷惑を掛けたのはこちらで、事情を話せないのも相まって謝られると心が痛い。


「では次いで調査の報告させて頂きます。結果から先に述べますと…恐縮ですが、成果はございません。事情を聞いた後すぐ現地へ派遣を行いましたが、痕跡は発見できておりません」


 専門家が調べても全く足取りが掴めない…敵も対策を講じているとして、俺が見た黒い線にも言及なしか。

 あれについて尋ねた際のポルドの神妙さと、禍々しい印象…強く影響してるのは間違いない。


「審査の実施は各所に通達しているので、関与したのは誰かを特定するのは、率直に申し上げて望みが薄いです。勿論今後も調査は継続しますが」

「そうですか…」

「それで、お二方に思い当たる点はありませんか? 可能であれば素性についてもお窺いしたく」


 リプスさんはシルムに向けて説明しながら、一度だけ俺を横目に見る。

 

 …来たか。

 なぜ襲撃を仕組んだのか、動機を知るために関係者を探るのは常道。

 俺らが採る選択は言うまでもなく黙秘ーーシルム任せになっちゃうけど。


 心苦しさを滲ませつつも、断固たる意思で正面を向いて伝える。


「すみませんけど、こちらから話せることは何もありません」

「承知しました」

「ええっ、そんな簡単に?」


 二つ返事の引き下がりにシルムは思わず緊張を解く。

 隣の俺も肩透かしを食らった気分…追及を切り抜ける為に色々考えて、最終手段としてクランヌからもらった身分証を出す準備もあった。

 まあクランヌ「そんな心配は要りませんわよ」とは聞いてたんけどさ。


 驚きぶりに笑みを溢し、普段の柔らかさに戻るリプスさん。


「ふふ、可能だったらって言ったでしょ? 最初に話しようにどんな背景だろうと、ギルドが手配した場所で起きたのは事実だもの。それを無視して要求するなんて筋違いだわ」

「そういうことなら…リプスさんに迫力があったので身構えちゃいました」

「真面目にやらないとと怒られちゃうからね、報告の必要もあるし。問題なく処理するから安心して、ティキアさんからの口添えもあるから大丈夫」

「今度お礼を言っておきます」


 こうも豪語するってことはティキアには発言力がこと指している。

 俺も宿を含め世話になりっぱなしだし、何か礼を考えておこう。


「審査についても聞いてるわ。評価を今一度伝えておくわね。審査は合格、二回目は必要と判断したら実施…おめでとうシルムちゃん、今後も頑張ってね」

「はい、ありがとうございますっ」


 温かい激励に笑顔で応えるシルム。

 力になってくれる人がいるーー

 懸念だった聴取の時間に、むしろ元気をもらった。

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