118 発憤
急に始まり激化しそうだった戦いに介入。
スティーは素直に手を止め、ロクスには手荒な真似をしつつ取引に乗ると伝え説得に成功。
再度集まって円を作る。
しかし理由はどうあれ、互いに力を出す前に妨げて中断させたのは事実。
決着はつかず終い…表面上はどっちも不満を抱いてなさそうだが…。
「二人とも仕切り直すか? まあ場所の移動と勝敗条件は設けるのは絶対だけど。さっそく俺が相手になってもいい」
あのまま好きにさせてたら限界まで飛ばしそうな勢いだった。
関わりを持つことになったからには、今後は一線を引いてもらう。
生活に支障が出る無法な戦闘は禁止。
「私の意思はセンさま準拠。必要なら応じる」
スティーは俺を視界に入れないようにしつつ、全く興味なさそうにロクス次第と告げる。
大事なのは従者志望としての精神であって、決着とその他についてはどうでもいいみたい。
どのみちロクスに俺が指名された場合、スティーは控えざるを得なかったので、我慢させることは無くなったが…。
行動の起点は俺か……そうなったのは、命令されて使用した能力の執着による影響。
言ってしまえば自分の意向が反映されてない上に成り行きという、他者の勝手な都合の結果。
しかし当人は現状を受け入れるどころか、歓迎している様子。
顛末に思うところがあるけど…ずっと利用されていた背景を考えたら、抜け出して自身で決めるようになったのはいいこと。
「白黒はっきりつける、受けた仕打ちに仕返すのもいい…まあでも」
どちらにするか楽しげに悩む素振りをするロクスは、ふっと脱力。
「想像より手応えがあったから止めとくわ、挨拶が効いたってのもある。しかし捕まる気はなかったんだがなあ、さっきの悪くなさそうってのは撤回する」
いつも通りちゃらちゃらした調子だけど、軽んじていたことへ訂正を入れる。
不意打ちしない、相手に確認を取ってから勝負を挑む、約束の履行…戦闘に対する姿勢は真摯なんだよな。
良くも悪くも、戦闘が関わっていれば分かりやすい。
取引をしてもいいと思った理由。
「私が押し切れなかったのは事実。一人だったら手こずってたかも」
「一人だったら…? そういや謎の声が聞こえるんだっけか。へえ…どんな感じか知んねーけど、横から助言があるのは戦闘に役立ちそうだな」
執着に宿っている実体のない不思議な存在。
俺に関する情報を伝えているらしく、他にはスティーが逸脱の際は咎めている場面も。
スティーの視界を通じてか、全方位見えているのか。
いずれにせよ同じ観点ながら客観して、現状に応じた指示を出す…ロクスの言う通り、知恵が多いのは助けになる。
スティーの発言からは声の主に対する信頼が窺え、的確に伝えてるみたいだし。
「センさまが話を受けるつもりだったから、調子が出なかったのもある」
「それって、能力の所為で?」
「そう、大きく背いてはないから軽度の影響。でも所為というのは語弊がある。センさまの是非を知れるのは素晴らしいこと」
全力を発揮するには対象の意に沿った行動を取る必要がある。あとは関与してない場合とか?
スティーが急速に腕を上げた要因で強力ではあるんだけど、もろもろ俺次第だな…。
でもスティーは当然のように現状を受け入れて、この通り様子が一貫してる。
「なら割り込んで、いや乗り気だからこそか。ご苦労なこった…本調子でもどのみち、セン様の代わりは務まらねえさ」
「…何故そう言い切れる?」
肩をすくめて皮肉を言ったあと、続けて告げるロクス。
スティーも戦闘を経て認識を改めたのか、異議を唱えずに根拠を問う。
さっき戦いが始まる前、力量の判別に確証があるようなことを…
「俺の能力は『発憤』つーんだが、相手が強ければ強いほど力が上乗せされる…これだけで説明は十分だろ?」
「成程、確かに私でも力不足」
自信に満ちた表情で明かし、読み通りスティーがひとつ頷きあっさり納得。
敵の強さに応じた強化を得る『発憤』…俺と戦ったとき動きが覚束なかったのは、ロクスにとって初めての感覚だったのか、道理で。
そして挑む相手の物色もできて、俺はそのお眼鏡にかなってしまったと。
「先ほどのお二人の戦い、私には十分すぎるくらい苛烈に思えましたが…」
「それでも不足に感じるんですよね? じゃあセンお兄さんって…」
静かに話を聞いていたシルムとクランヌが、目の当たりにした光景を思い返しながら述べる。
絶え間なく襲い掛かる複数の糸、それを俊敏に捌く高速戦闘。
二人には別次元に移っただろう。
「別格も別格…今までと比べて湧く力が段違いだぜ、笑えるくらいな。まあさっきので挨拶だからなあ、抵抗できなくて苛ついたのによお。どんだけ底が知れねえんだ?」
愚痴っているものの高揚と期待が混じり、このままだと戦意が再燃しそう。
『吹飛』は着弾すると、質量とか頑丈さとか関係なく吹き飛ばす結果を生じる。
普通に避けるか遮蔽物を使うか、飛び道具を当てるか…対策はあるけど近接のロクスには相性が悪い。
「そうですわね…いつも驚かされてばかりいますわ」
「センお兄さんが凄いのは当然ですよ」
「偉大なのは分かりきったこと」
「おい、こっちのノリと同列にしないでくれよ?」
率直なクランヌに続いて熱の入ったシルムとクランヌ。
それに冷や水をかけられたような調子で抗議するロクス。
わざわざ注意しなくても勘違いしないのに。
…別格なのは俺も常日頃から感じてるし、英雄としての実績が証明している。
過去最大規模の魔物の大行進、モンスターパレードを最小限の被害に抑えた歴代最強ーー。
なんて持て囃される反面、見え隠れする畏れも大きかったけど。
だからこうした普通の、好意的な反応は新鮮…当たり前のことなんだけどな。
「しかしセンさまの手を煩わせることになってしまった。これはお仕置き」
「ありませんから。それにどうして嬉しそうにしてるんです?」
くねくねとするスティーに真顔で突っ込みを入れるシルム。
このやりとりも定番になりつつあるな……?。
視線を感じてそちらを向くと、いつもより引き締まった微笑のクランヌ。
「…提案、受けることになさったのですね」
「ん、そんな悪い話でもないからさ。ロクスがまだ」
「見ての通りでしかねえんだけどな。ま、好きに疑ってくれ」
「監視なら任せて。どうせセンさまの側には長時間いられないから暇つぶし」
「そんな感覚で付かれるの迷惑なんだが…しゃあねーな」
シルムと睨み合いながら聞いていたスティーが宣告。
ロクスは顔顰めるが即座に妥協し、やけくそ気味に頭の上で手とブラブラさせる。
「…とやかくは申せませんし、申しませんが、認識を改めたとだけ伝えさせて下さい」
横目にしつつ、向き直ったクランヌが会釈を添えて表明。
「私もですっ。やっぱり見張ってないとダメだって、このままじゃダメだって!」
「う、うん?」
それからシルムが身をずいと寄せて主張。読み取れずに面食らう。
ロクスの言葉に気を落としてたけど、とりあえず立ち直ったみたい。
その勢いで、やれることをして備えよう。
「ところでロクスさん、糸に捕まったときどうやって抜け出したんですか? 力任せに千切ってはいませんよね」
「ええ、魔法の使用はなさってませんし、能力は違いますものね」
二人ともよく見てたな。
指摘通りあれは弾き飛ばしたという表現の方が正しい。
「気付いてたのか。あー簡単に言いや、体内で力を練ってそれを解放する…まあ魔法みたいなもんだな」
「はあ」
「確かに武道を嗜む方には、そのような術があると窺ったことはありますけど…」
説明にピンと来ていない二人。
まあ実際にやってみようなんて一朝一夕には不可能だろうし仕方ない。
こちらには魔法などに頼らず肉体を鍛えて、素の状態で武器などを使わずに硬質な物を壊せる人が存在するのは確か。
だからロクスの言っていることには信憑性がある。
ただ、スティーの拘束糸は見た目に反して鉄のよう。
ロクスに実力があるのは分かるが、力を練って放つ…それだけで簡単に壊せるものなのか…?
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