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116 反復

読んで下さりありがとうございます。

 俺の目の前で見つめ合う二人。

 片や見上げ、片や見下ろして。

 …見つめ合っていると言っても、空気は和やかじゃないんだけど。

 

 ピクリとしない茫洋とした表情で冷たさを覚えるが、今は何処か機嫌な良さそうなスティー。

 それに対し普段の朗らかさを潜め、只ならない情感を宿した暗い眼差しのシルム。

 了承を貰って浮ついている? スティーが気に食わない様子。 


 シルムも認めたとはいえ渋々だから…関係は相変わらず。

 どうしても自分と合わない相手はいるもので、無理に仲良くとは言えない。

 果たして二人が打ち解けるときが訪れるのか…全然想像つかないな。


「でもスティー、能力は維持したままで大丈夫なのか? 時間の経過で強まるんでしょ?」


 ひりついてる空気を変えるのを兼ねて、俺が抱いている懸念について触れる。

 スティーの能力である『執着』は対象の関連情報を得られる代わりに、名称通り対象に囚われて行ってしまうという。

 現に俺の発言とか、視界に入れたりするだけで抑えが利かなくなりそうに…一回限界が訪れ、危うい場面が何度か。

 

 教育を施されたスティーに感情の兆しが見えるほど。

 ただでさえ割と我慢して不自由な状態なのに、更に影響が大きくなったら…。

 関わりを持つことより、スティー自身の方が気掛かり。


 俺からの問いかけに、目線はシルムに向けたままぶるっと身体を震わせて、


「心遣いありがとう。確かに今より欲が出たり、自制が必要にはなる。けどそれは、センさまという深みにはまって行ってる実感でもあるから問題ない」


 当人はむしろ制限されるのを歓迎してるみたいだ。

 確認に対し快く言い切るなら、これ以上とやかく言うのは。


「それは…どうなのでしょう?」

「全く問題ないようには聞こえねえが」

「そうですっ。自分は構わないからなんて勝手ですよ」


 そう思っていると他の三人が会話に混じる。

 明言しないものの賛同しかねているクランヌ。

 ロクスは感想をそのまま述べただけだが、シルムの方は明らかに反発込み。


 三人が口を挟んだのは真っ当…ロクスは特に意識してないだろうけど。

 スティーだけなら自由にすればいいが、能力が強まったら対象である俺も巻き込まれかねない当事者。


「二人の意見は求めてない……執着、外した方がいい? センさまの命令なら従う」


 外野の言葉に聞く耳持たず、声のトーンだけ落として判断を俺に委ねる。


「でも培われたものは残留するらしい。だから忍耐の限界が来て、結局センさまに用いてしまうかも」


 らしい…例の宿っている声が言ってるのか。

 やっぱり能力の使用を止めても、元の状態には戻らないんだな。

 むしろ今まであったものが無くなった喪失感と、また執着の対象にしたい欲に苛まれる…。

 

 …酷な話だけど俺が招いた状況ではないし、同情はあっても付き合う義理はないのが事実。

 さっき考えたように、こちらにも及ぶ可能性があることも。

 全て踏まえた上で。


「外さずにそのままでいい」

「センさま…」

「はーい、止まって下さいねー」


 今度は抑えられなかったスティーを、シルムが両腕を取ってとおせんぼ。

 制止させたまま、俺の方に振り返って見捨てられた小動物みたいな上目遣い。


「センお兄さんは、ぺったん高身長の方がいいんですか…?」

「ぺったん高身長って…」 


 女性にしては高い背に、格好良く着こなすであろうスレンダーな体型。

 切れ長の瞳に冷たい表情、菫色が合わさって妖しい印象を与える。

 本人が意識してるか定かではないが、際立っているのは確かだけど。


「そういうのじゃなくて…スティーには俺と共通点があるから。組織のために働けと言われ追われた経験が、さ」


 言ってくるだけならまだしも、奴らはこっちの意思に関わらず強いしてくる。

 俺が逃げるようになってこっち側へ来た原因、スティーが追いかけて来ることもなかった。

 不自由から抜け出して自由を望んでやって来た。 


「だから自分と被って、蔑ろにできないんだ」

「なるほど…センお兄さんが私を求めて来たのを、断るようなものですね」


 合点が行ったのかうんうんと頷くシルム。

 説得できたのはいいとして、頼りに来た、とかの方がいいんじゃないかな?

 

「偶然相手が小娘だっただけ。センさまは特定の個人を求めてはいない」

「選ばれたのは事実ですけどー? 敗者は大人しくしててくれませんかね……!」


 スティーがきっぱりと切り捨て、シルムは掴んでいる腕に力を入れて力んだ声で応じる…身体強化まで使ってる。

 あの口振りだとシルムと協力関係にあることや、どんな経緯でそうなったかも知ってそう。


「おー、こえーこえー」

「これからも関わるのですから、穏便になさいな」


 クランヌが窘めると二人は素直に諍いを止める。

 言い分が尤もだと理解しているみたいだな。


「センさま、私は従者として欠点がある」

「従者とは認めてないけど…欠点って?」

「近くに居続けるだけでも自制が利かなくなるから、度々離れて発散する必要がある」


 発散…? 一緒に過ごすだけでも抗えなくなるのか…本当に逸してるな。

 平時でも自分がこだわっているものが付近にあったら、つい目が行ってしまうのに、その欲求が何倍もしかしたら何十倍…あんまり考えたくない場面。


「へー、それは大変ですね! けど心配要りませんセンお兄さんの傍には私がーー」


 今度はスティーが振り返り俺に寄ろうとしたシルムの腕を掴む。


「そっちも弁えて」

「迷惑にならない程度にしてますが」

「コソコソ一人で盛ってる癖に」

「……何のことですかねー」

「全く…お二人とも相変わらずですわね」


 応酬に呆れているクランヌの様子自体は穏やかそのもの。

 二人は張り合ってるが本気で事を構える気はないと悟ってるんだろう。


「ところでロクスさんは、これからどうされるのでしょう?」

「んー?」


 だらけて傍観していたロクスは、唐突に話しかけられて間の抜けた反応。

 証拠と裏社会について聞けたし、スティーの処遇が決まって残りはロクス。 

 彼は俺の方を一瞥してからクランヌに顔を向ける……まさか。


「んなもん決まって」

「唯一の残党。口封じされる?」

「そうーーって、ちげーよ。何だ口封じされるって」


 横から口を出され鬱陶しそうに手を払う。

 いつの間にかシルムとの遣り取りを終わらせているスティーが発した。

 取引とはいえ証拠の提供してくれたので、どうこうするつもりはない、けど……


 ロクスはどうしてかクランヌではなく俺の方を向いて、金色の瞳を光らせ目を細め、口角を上げる。


「俺がここに残ってる時点で、予想できんだろ?」

「…つい最近、似たような場面に出くわしたな…」


 ロクスに対して抱いている印象は、戦いが優先だけど礼節はある戦闘狂。

 取り交わした約束は契約書の譲渡、果たした以上は何処へ行こうと勝手で、止める権利はない。

 というか相手を探しに向かうのが自然…なのに留まっている。


 示しているのは目的があるということ…会った当初の記憶が思い起こされる。


「また俺と、戦いたいんだな…」

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