115 執着
読んで下さりありがとうございます。
「執着…」
それがスティーの能力…少し前まで移動と探索妨害もしていた俺を追跡。
そして、もう関わることはないと思っていた俺の目の前へ現れてみせた根幹。
名称通りなら探知の類いっぽいが…。
「聞くからにヤバそうな名前だな」
「わあ、しつこい人にはお似合いですね!」
「…どのような能力なのでしょう?」
緊張感のないロクスと、和かなシルムの茶化すような感想には触れず、クランヌが続きを促す。
スティーも構うことなく、クランヌの方に顔を向ける。
「一人の対象を指定する。選んだ相手の情報を取得できるようになる。例えば、今いる場所や休息の最中…」
そこでいったん言葉を区切り、
「どこかの雌に言い寄られてるとか、交戦中とかもわかる」
シルムとロクスの順に視線を転じながら説明。
「センお兄さんを赤裸々に…何てうらやーーいかがわしい能力なんです!? さっきの事を知った風だったのも…」
「ほー、一方的に通じてて、一方的な戦闘の割り入りだったから噛み合ってない感じだったのな」
道理で俺の位置や居合わせてないのに事情を把握してるわけだ。
どれくらいスティーに筒抜けなんだろうか…?
「もしかして、あれからも途切れず残ってたのか?」
「曖昧だけどセンさまの存在を感じられた」
隔たりという隔たりがあるのに及ぶのか…実際そうだから何も言えないが。
でもおかしいな。
魔法や能力を使って探ろうにも阻害は施してあるし、ちゃんと作用しているはず。
スティーの所属する組織以外にも、俺の力を狙う勢力は多くいた。
たびたび見つかったり鉢合わせて各地で追跡が起きたけど、最後まで撒くことが出来なかったのはスティーたちだけ。
素性が隠されていたから確実とは言い切れないが。
俺の抱く疑問を見透かしたかのように、スティーはこう続けた。
「それと執着は使用に対する干渉を受け付けない。だから誰にも邪魔できないし、繋がりを断つのも不可能…ふふふ」
対象が単体と限られている代わりに障害をものともしないのか。
なら対策が通用していないのも納得。
スティーは無表情で笑いが普通の人と比べて棒読みになっているが、ほんの僅かに含まれている優越…やっぱり感情面に変化が…?
「…痛々しいですねー。勝手に作り出した紛い物の繋がりなのに」
シルムは小馬鹿にするものの口元を引き攣らせ動揺が見て取れる。
「ですが、利点ばかりではないのでしょう?」
青く澄んだ瞳が見透かすように、スティーの触れていない側面を指摘。
「ああ、それだけじゃ足りないよな」
他は視界に移しても問題ないのに対象である俺だけ例外なのと、暴走にも関係あるはず。
それに俺について知ったからといって、こちらへ至るには特殊な条件を満たす必要があり、成立させる何かが明かされてない。
「そう。今のは他者が鑑定したときの記述。詳細は実際に使ってみないとわからない」
「まあなー。俺も把握すんのに色々と実戦を重ねる必要があったし」
ロクスの能力か…間違いないのは戦闘関連。
俺の能力も銃を出せるとか改造可能とか簡潔で、ある程度実態を掴めたのは試してから。
スティーの場合、対象を指定しないと確認のしようがなさそうだけど…あの変容を考えると、俺が現れる前はどうしてたんだ?
「執着はーー時間の経過とともに力を増す。及ぶ影響は対象に囚われるようになるのと、身体能力の向上。相応に戦えるのは恩恵のお陰」
「囚われるって…能力の通りってことですよね? 私の感情抜きにしても、遠ざけた方がよくありませんか?」
俺の袖をくいくい引っ張るシルム。
これまで私情でスティーに強く当たってる様子だったが、今に関しては俺への心配が強く表情に浮かんでいる。
暴走の原因は培われた執着によるもので、当時の追手と比べて実力が抜きん出ているのもそれでか。
こっちの都合は置いといて、確かに遠ざける…のは無理そうだから解除させた方がいいかも。
元は組織に命令されて対象に指定しただろうに、行動するにも俺が軸というのは改めるべき。
ただ懸念なのは…解除させて解決するのか?
経過を鑑みて命令すれば聞き入れてくれそうだけど、能力の影響…すんなり収まるとは思えないんだよな…。
「最後に核心といえる変化は、声が聞こえるようになった」
「声…?」
時折スティーはいない誰かと遣り取りする素振りを見せていた。
相手は組織の人間ではなくて能力…?
「執着に宿るモノ、らしい。実体はないけどセンさまの関連情報を教えてくれる」
「おお…筋金入りだなおい」
「森を駆ける未来の障害を知らせてくれたのもその存在」
「じゃあ残りの黒衣はスティーが…?」
「うん。私が葬った」
共鳴の魔弾の反応が途絶えたのはそのせいか。
残党を泳がせて叩く計画だったけど、まあ危険な賭けではあったし何だかんだ収穫はあったので逆によかった。
でも俺の身の回り以外も分かるなんて…全体的に普通の能力とは違う。
「それでセンさまに私を導いたのも声。けど安心してほしい、普通の人間では至れない領域と方法で来た。真似できないし、あの仕組みはもう機能してない」
そうか…ゲートの破壊には成功してたか。
どうやって辿り着いたのか細かい所は気になるけど、要するに執着は特異。
俺が先に思い浮かべた条件を成立させるほどに。
「…組織との関係は?」
「抜けて来たからない。使い道があるって止められたけど蹴散らして。センさまに倣って加減はしたから大丈夫…多分」
「スティーさんの能力、諜報には打って付けですものね」
使用に対して干渉を受け付けないのなら、気取られることもなく、相手の情報を仕入れられる。
情報は力、国を動かすことも支配するのも可能にする。
連中は俺のことも利用する気でいたのは確実。
「スティーはこれからどうしたい?」
問いかけるとスティーは少し前に出て、目を瞑った状態でこちらを向く。
「私はーー表明した通り従者…になりたい。私は英雄のために育てられたけど、センさまが現れてなかったら組織に道具として使われて、胸の辺りが痛くなる経験もしなかった」
胸元に手を置いて打ち明ける。
追手たちと対峙したとき、意思のない人形と戦ってる感覚だった。
命令に忠実な駒として、感情を持たないよう教育されたんだろう。
「センさまじゃなかったらこの場にいなかったとも思う。私はセンさまに感謝してるし迷惑をかけた。だから役に立ちたい」
言い終えると目を閉じたまま静止。
逃亡生活…放っておいてくれという希望は無視され、最後まで追われたのは苦い思い出。
その追跡の役を担っていたのは他でもないスティー。
でも命令したのは他の人間で、彼女が望んだものではない。
「従者は兎も角として、スティーの好きにして」
自分の意思でそうしたいなら、否定しない。
それにスティーの言葉には力があった。
伝えよう、伝われって力が。
「!」
一部了承を返すとスティーが大きく肩を跳ねさせ、それから飛び掛かって来そうな雰囲気だったが、踏み留まり、深呼吸しつつゆっくり下がる。
「しょうがないですね…」
動きを察して間に挟まっていたシルムが不承ながら呟く。
「てっきり反対されるかと」
「今の話を聞いて突き放すなんて出来ませんから…あっでも、油断しちゃダメですからねっ」
優しさを垣間見せたシルムだったがすぐに片頬を膨らませ、俺は頷き返す。
「センさんがよろしいのでしたら。私はお世話になりましたし」
「部外者からも何もねえ」
「…ま、よろしく頼むよ」
挨拶にスティーは微かに口元を緩ませる。
「さすが私のセンさま」
「は? 何ですか私のって。ちょっと認められたくらいで調子に乗らないでくれます?」
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